【豪華対談】トム・ホーバスHC×田臥勇太 W杯躍進の裏側とパリ五輪への展望 キーワードは“Believe”と“きれいなバスケ”
◆鍵となったW杯初戦「40点差で負けていたらこのチームはヤバいかなと思った」
――田臥選手「W杯の話から聞きたいと思うんですけど、トムさんが興奮した瞬間というのはあの期間あったんですか?」
――ホーバスHC「ありますよ。あの大会はフィンランド(第2戦)に勝った瞬間、アリーナの雰囲気が本当にすごかった。18点差で負けているところから勝って。ベネズエラ戦(順位決定戦)も残り7分で15点差あって、逆転して勝った。あの時もすごかったよ」
――田臥選手「どの試合が緊張したとかは?選手たちを見ていて雰囲気などはどうでしたか?」
――ホーバスHC「ドイツ戦の前半、20点差で負けていたじゃないですか。後半も同じで、40点差で負けていたらこのチームはヤバいかなと思った。自信がなくなるかなと。ハーフタイムで、『この試合は勝ち負け関係なしで、後半は勝ちましょう』って考え方に変えてチームは崩れなかった(最終的に18点差での敗戦)」
――田臥選手「そこからチームとして自信が出てきた?」
――ホーバスHC「はい。だからフィンランド戦に勝った」
――田臥選手「そういう一つの自信とかってすごく大事じゃないですか?」
――ホーバスHC「大事!よくわかると思うんですけど、チームがちょっとおかしくなったら、すぐ直さないと大変じゃないですか。(下降が)止まらないんですよ。だから僕はドイツ戦の前半はやばいかなと思った」
――田臥選手「じゃあ、あのドイツ戦の後半はポイントだった?」
――ホーバスHC「大事だったよ。その後の試合、少し負けててもみんな自信があった」
◆W杯で見えた課題「直さないとパリ五輪に挑戦できない」
――田臥選手「(W杯で)そういうものを経験して、今回のアジアカップ予選もチームとしての経験をつなげていきたい?」
――ホーバスHC「そうですよ。メンバーが違うじゃないですか。ユウタ(渡辺雄太)がいない、富永(啓生)もいないとか。でも、同じチームとか同じスタンダードをチームと一緒に作りたい」
――田臥選手「W杯がベースというか」
――ホーバスHC「そうですよ。(今回は)グアムと中国に勝ちたい。でも、パリ五輪の準備もしたい。今は大きいアジャストメント(調整)はしないんですけどW杯のデータを見て、『これやった方がいい』とか『このディフェンスをちょっと変えた方がいいかな』とか小さいアジャストメントはやってます。
――田臥選手「選手たちにもそこがポイントと伝えている?」
――ホーバスHC「はい、そうです」
――田臥選手「そこはイコール パリ五輪に向けてということなんですね?」
――ホーバスHC「はい。W杯の結果はすごく良かった。けど足りないこともいっぱいあったんですよ。だからそれは直さないとオリンピックに挑戦できないかなと思います。良いことだけを考えるのは良くないです」
――田臥選手「よりよくしたいってことですよね。トムさんがそういうマインドで引っ張ってくれるから選手たちも一体感が生まれるんですね」
◆「パリ五輪はちゃんと結果を出したら、もう“鳥肌”だよ」
――ホーバスHC「W杯に出てカーボベルデ戦(最終戦)を終えて、アリーナの雰囲気とかを見た。でも、すぐこれからが仕事かな(と考えた)」
――田臥選手「それ(W杯)は終わったと?」
――ホーバスHC「終わったから、パリオリンピックはすぐですよ。(田臥さんも)長い間、日本でバスケをやったじゃないですか。少しずつ人気になったとか日本のみなさん盛り上がったじゃないですか。このパリ五輪でちゃんと結果を出したら、もう“鳥肌”だよ」
――田臥選手「鳥肌たってもらいたい(笑)」
――ホーバスHC「そうですよ、本当に。(自分は)1990年から始めたよ、日本のバスケ。34年前だよ、(人気は)今と全然違う」
――田臥選手「子供の頃、トムさんが日本でプレーしてるの見てたので」
――ホーバスHC「僕が引退する前、田臥の名前をいろいろ聞いた。『この高校生はすごい上手』って」
――田臥選手「昔ね。それが今、時間がたってトムさんが女子代表も強くしてくださって(東京五輪銀メダル)。今回、女子もオリンピック出場が決まって。男女一緒に行けるってことも素晴らしいですね」
――ホーバスHC「素晴らしいですよ。本当に楽しみです。選手たち本当に頑張った」
◆ホーバスHCが掲げる代表チームのキーワード“信じる”
――田臥選手「トムさんが代表チームとして掲げるキーワードは?」
――ホーバスHC「いつも言うじゃないですか。“信じる”、“Believe(ビリーヴ)”だよ。フィンランド戦、18点ビハインドの時に信じてなかったら勝てないじゃないですか」
――田臥選手「ちょっとでも信じなくなったら。一人でもいたらね」
――ホーバスHC「そう、そうだよ!絶対に勝てないですよ。チームのこととか、自分のことを信じていなかったらできなかった。本当にあのキーワードは大きいです」
――田臥選手「それってスキルじゃなくて気持ち、考え方じゃないですか」
――ホーバスHC「スキルじゃない、気持ち、考え方。バスケットは背の大きさとかパワーの差はあるけど、これ(気持ち)がないと」
――田臥選手「トムさんはそれを大事にチームを作ってきた?」
――ホーバスHC「大事です!(田臥選手も)小さいけど(気持ち)あったじゃないですか。僕も細かったけどこれ(気持ち)は負けなかった、それはすごく自信があった。間違いない、相手は関係ない。コーチになっても同じ考え方。あの“気持ち”を言いたいんですよ、選手たちに」
――田臥選手「その気持ちって代表チームももちろんですけど、子供たちも同じですよね?」
――ホーバスHC「当たり前です。その気持ちですよ。気持ちがあるかどうか。すぐ分かる。現役のときも相手に気持ちがあるかどうかすぐ分かった」
――田臥選手「それを大事にする日本代表チームをファンの方にも信じてもらって」
――ホーバスHC「そうですよ。うちに集まっている選手たちには絶対ありますよ」
◆パリ五輪で見せたい“きれいなバスケ”
――田臥選手「トムさんはパリ五輪に行くわけですがどういうバスケットを見せつけたいですか?」
――ホーバスHC「きれいなバスケット。僕の“きれい”のイメージは速いバスケット、チームバスケット。ボールを回して、カッティングもしてターンオーバーも少ない。100%努力もして。今まではたまにやったんですけど、40分やってないんですよ。だから最初から最後までいいバスケットをやって、他の国から『日本すごいね』っていうのを聞きたい。(女子代表を率いた)東京五輪の時も他の国が『日本すごい、日本すごい』って、何回も聞いたんですよ。だから男子でも同じことがしたい」
――田臥選手「面白いですね。是非見てみたいです」
――ホーバスHC「W杯はみんなの力でいい結果を出せたんです。でもパリ五輪は相手がもっと強いから、本当に日本からみんなの力が必要!みんな一緒に頑張りましょう!」