【特集】生誕120年の勝平得之 ひ孫の女性が版画家に「秋田に版画を根付かせたい」女性の思い
秋田市出身の版画家、勝平得之が、今年、生誕120年を迎えました。
失われつつあった秋田の風景を、版画として後世に残した勝平得之の作品をたどるとともに、版画の魅力を広めようと活動する女性を取材しました。
明治生まれの版画家、勝平得之が描いた、ふるさとの原風景。
令和の時代も、私たちの暮らしの中に溶け込んでいます。
幼いころから絵を描くのが好きだったという勝平得之は、浮世絵版画に魅せられました。
多色摺りの木版画の道を歩み始めます。
独特の色鮮やかさで描かれる、人々の営み。
近代化の中で失われつつあった光景が、いまに残されています。
独学で版画を学び、生涯にわたって郷土の自然や風俗を描き続けた、勝平得之。
その子孫で、初めて版画家になった女性がいます。
「深い丸刀だとバリバリって深く刺さっちゃうので、これでだいぶなだらかになるかなと思います」
秋田市出身の伊藤由美子さん。
勝平得之のひ孫です。
版画を専門的に学べる場所が秋田にはほとんどないと感じていた伊藤さん。
県外の大学で版画を学んだあと、秋田に戻り、制作をしながらその魅力を知ってもらう活動にも取り組んできました。
取材した日は、家族や友人に贈る年賀状の制作体験教室です。
参加者が、作品づくりに夢中になっていました。
摺った紙をめくる瞬間に、いつもわくわくするという伊藤さん。
5年前から、秋田市新屋に工房を構えて、制作活動に勤しんでいます。
伊藤さんも、複数の『版木と呼ばれる木の板』を彫って色を重ねていく多色摺りを好んでいます。
「数的には2枚なんですけど、裏表使って、あと、色分かれてるところはひとつの版木で色を分けて使うことができるので」
「結構色で作品をつくってますね」
モデルとなった人物がまとう雰囲気を、作品に落とし込むように心がけているといいます。
得意とするのは、柔らかな曲線や淡い色使いによる抽象的な作品です。
高校時代に独学で始めた版画。
幼いころから身近な存在でした。
「小さいころから見ていた、おばあちゃん家に飾ってあって、小さいころから見ていたので、なんかその時から何か気になる存在というか、作品に惹かれるものがあって、結構見ていたなっていう記憶があります」
秋田市の勝平得之記念館。
伊藤さんは、中学生の時、この場所で、勝平得之が曾祖父であることを知ります。
曾祖父の誕生日には、毎年、ここを訪れて、版画に思いをはせるという伊藤さんですが、不安に感じることもあります。
「版画、秋田で根付いてないっていうのがちょっと寂しいなっていうのが。私が県外に行った時は、身近にわりと身近に版画やってるよっていう人が作家さんとかいらっしゃったし、版画教室とかもあったので、それに比べることでもないとは思うんですけど、なんかそう思った時にやっぱり身近なものじゃないのかなっていうと寂しい気持ちがして…」
そんな思いを胸に、伊藤さんは、新たな取り組みにも挑戦しました。
先月、開いた企画展。
自身の作品とともに展示したのは、勝平得之と親交があった郷土史家、相場信太郎が所蔵していた作品です。
その相場が過ごした古民家が、秋田市仁井田にいまも残されています。
勝平得之は、この古民家を「雪国の春」という作品に描きました。
曾祖父の足跡をたどって作品を生み出した伊藤さん。
同じ古民家を題材に描きました。
この企画展を通して、曾祖父について、そして版画について、多くの人と語り合いたいとも考えていました。
伊藤さんは、勝平得之が生まれ育ったこの秋田で、これからも、版画の魅力を広めていきます。
伊藤さん
「版画は身近なものだと思ってほしいなと思っています」
「誰もが小学生の時にやったことがあるものの応用って感じなので、あそこを体験していれば誰でもできるものだよっていうのは知ってもらいたいなとは思ってますね」