特集【秋田県内大雨から9か月】① "また仏像を彫りたい" 住宅浸水被害の男性の想い
2023年7月の記録的な大雨による大規模な浸水被害の発生から9か月がたちました。
「被災地域のいま」をお伝えします。
秋田市の大住地区を取材した佐々木勇憲記者のリポートです。
2024年4月15日放送 ABS news every.より
多くの住宅が浸水被害に遭った大住地区では住民が健康被害にあわないよう秋田県立大学の長谷川兼一教授が住宅の調査を続けています。春になって暖かくなるこの時期に注意しなければいけない問題もあるといいます。
気温が上昇するこれからの時期、気を付けなければいけないのがカビの発生です。
2023年7月の大雨の際大住地区では、排水が追い付かず水が街にあふれる内水氾濫が発生しました。道路から1メートルほどの高さまで水が上がり、一帯が冠水しました。
こちらの住宅は床上10センチほどまで水に浸かりました。その後、8月上旬に床上の消毒を終えましたが、ほどなくしてカビが生えてきたため、床下に送風機を置いておよそ2か月間毎日風をあてて乾燥させました。今でも風通しが良くなるよう注意しています。
長谷川教授は専用の機械などを使いながら空気中のカビを採取しました。大学に持ちかえりその数や種類を特定して、健康に悪影響を及ぼすものかどうか判断します。
長谷川教授は、東日本大震災のあと被災地で住宅のカビについて調査し、呼吸器に疾患をおよぼすなど住民の健康被害を目の当たりにしてきたといいます。このためカビが原因で健康に問題を抱える人が出ないよう、大雨の直後から大住地区で調査を続けています。
秋田県立大学 長谷川兼一教授
「今回、町内会長さんの理解もあってこの地区に深く入らせていただいて、私ができることはほんと限られているんですけども、少しでも、みなさんのお役に立てればと思って、そういう思いで、継続していきたいと思っています」
長谷川教授の調査はことし8月まで続きます。住民の健康を気遣いながら被害を受けた住宅の環境が1年でどのように変化するのか、そして住宅をより早く復旧させるためにはどうすればよいのか研究を進めます。
大雨の影響はいまなお住民の生活に影響を及ぼしています。一方で、被害を乗り越え一度はあきらめかけた自分の趣味を再び始めることができた男性がいます。出会ったのは去年の7月23日でした。
浸水被害が発生してから8日目。私はこの日ある夫婦と出会いました。
春日光顕さんと妻の房子さんです。
住宅の1階が水に浸かり当時、2人は2階での生活を余儀なくされていました。
この日は濡れた家財道具や本の片付けに追われていました。
20年近く趣味で彫刻を続けてきた光顕さん。主に作っていたのは仏像です。親戚や友人が亡くなったときにその人を想いながら仏像を彫り完成したものを届けていたといいます。
これまでの活動を支えてくれた大切な美術書の数々も処分せざるを得ませんでした。
春日光顕さ
「いたましいなー、いたましいーなー」
このとき光顕さんはもう二度と仏像を彫ることはできないと話していました。
20年近く趣味で彫刻を続けてきた光顕さん。主に作っていたのは仏像です。親戚や友人が亡くなったときにその人を想いながら仏像を彫り完成したものを届けていたといいます。
これまでの活動を支えてくれた大切な美術書の数々も処分せざるを得ませんでした。
春日光顕さん
「いたましいなー、いたましいーなー」
このとき光顕さんはもう二度と仏像を彫ることはできないと話していました。
大住地区を歩くと大雨から1週間以上が経っても家財道具が山積みになっている家がいくつもありました。春日さん夫婦は、使えなくなった家財道具を家から300メートル以上離れた場所まで、毎日徒歩で何度も往復しながら運んでいました。終わりの見えない日々だと感じました。
それからおよそ2か月たった9月11日。私は春日さんの自宅の中を初めて見せてもらいました。鍋などの調理器具はキッチンとは別の部屋に置かれたまま。リビングの床は早い段階で張り替えることができた一方キッチンは全体を修復する必要があり工事開始まで時間がかかっているといいます。
春日房子さん
「こういうところも7年前にやったけど、木だから、みんなほれコルクになってるからにおいするって。」
♢♢♢
まだ雪が残る今年2月。
最後に取り掛かったキッチンの工事もようやく終わり普段どおりの生活が戻ってきました。
春日房子さん
「いい話しよ。今後今後、これから。いいことなるように、いいことができるように」
春日光顕さん
「またひと踏ん張りさねばいけねなーと思えばよ、」
春日房子さん
「寝てる暇ないからがんばろ」
仏像を彫ることを一度諦めた光顕さんの気持ちも前を向き始めていました。
今月、私は再び2人のもとを訪れました。
光顕さんは仏像づくりを再開することを決めました。
この日光顕さんが作っていたのは仏像の台座となるハスの花。水の中からまっすぐに伸び咲き誇る姿を思い描きながら彫り進めていきます。
2度とできないと思っていた仏像づくり。これからは地域の平和を願って、彫り続けます。
春日光顕さん
「見て、ほほえましいなーっておもしろいなーって
人に笑っていただけるそういうものを作りたいし彫りたい」
記録的な大雨から9か月。困難を乗り越えて春日さん夫婦の日常がようやく戻り始めました。