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【自閉症の息子を持つ記者レポート】能登半島地震~行き場のない障がい者たち~

2024年4月29日 18:20
【自閉症の息子を持つ記者レポート】能登半島地震~行き場のない障がい者たち~

私には重い知的障がいのある自閉症のひとり息子がいる。もし、南海トラフ巨大地震で被災したら、息子を連れて一体どこへ避難し、どう過ごしていけばいいのだろう?その術を探るべく、石川県輪島市へとカメラを持って乗り込んだ。

続く断水、寄り添い合う介護職員と施設利用者

元旦に発生した能登半島地震。その後の報道で「断水でトイレが使えない」という被災者の悲痛な声を聞いた。私はどうしても被災地で確かめたいことがあり、その取材のため12日の夕方輪島市に入った。

発災当日から、約30人の障がい者と高齢者、職員が避難をしていたのは、生活介護などで利用される福祉事業所。そこを「福祉避難所」にしていた。断水が続く中、介護職員がトイレを手伝うなど、厳しい環境でも寄り添い合いながら過ごしていた。

私には27歳になる一人息子がいる。重い知的障がいのある自閉症。彼は水とトイレに強いこだわりを持ち、風呂では1時間以上、ペットボトルを使って水遊び。トイレに入る回数は多い日で10回。使うトイレットペーパーの量は半端ない。もし、南海トラフ巨大地震が発災し、わが家が被災したら、一体どうしたらいいのだろうか?その術を知りたくて現地へ入ったのだ。

多動症、睡眠障害、泣き叫ぶ…避難所に馴染めない障がい者たち

輪島市では「福祉避難所」として26の施設と協定を結んでいたが、実際に開所したのは7か所のみ。地震で施設そのものが損壊し、介護職員も被災して離職していく人も増えていた。

4歳の自閉症の一人息子を持つ事業所職員の横田夫婦。一時、市役所へ避難していたが泣き止まない娘に周囲から「親が注意しろ」「親のしつけがなってない」と言われ止む無く市役所を出て、福祉避難所へ来たという。

法人のグループホームの個室で避難していた岩崎香さんと小学6年生の佑輝くん。自閉症で環境が変わるとウロウロ歩き回る「多動症」になかなか寝ない「睡眠障害」がある。昼夜が逆転してしまう睡眠障害には医師から処方された「睡眠剤」を使うが、佑輝くんも我が息子も効果は期待できない。

佑輝くんは車中泊のあと、ショートスティで利用し慣れた法人の施設へ父親が連れてきた。少しでも環境が良く慣れた場所へ先ず避難することを選択。そして「個室」を希望し、母親と2人で過ごしていた。

福祉避難所には当初25人の職員がいた。しかし被災し、過労で体調不良となり、わずか6人で対応。その陣頭指揮を執っていたのが法人の事業部長、藤沢美春さん(54)。自身にも重い知的障がいの自閉症で強度行動障害のある二女がいるが、自宅に置いて障がいのある人など介助が必要な人とその家族がホテルなど「2次避難」の受け入れ先が決まるまでの短期間、滞在する場所「1.5次避難所」探しに奔走。

震災から13日目、藤沢さんは行政とかけあい、羽咋市にある国の施設へ利用者とその家族全員の「1,5次避難所」が決まる。藤沢さんは「利用者とその家族がまとまって避難することが大事」と語る。障がい者の特性で顔なじみが集まって暮らすことがとても重要なことだという。


しかし、多動症と睡眠障害のある岩崎佑輝くんには「安心できる個室」の環境が整わず、相部屋の1.5次避難所で1泊したが、他の利用者とまとまって避難することに適応できないと両親は判断。15日の朝、迎えに来た父親の車に乗り、次の避難所へと旅立っていった。「2次避難」先で落ち着いて暮らせることを願うばかりだ。

輪島市を離れ1.5次避難所へ移動する際、泣き叫ぶ知的障がいがある森岡有美さん(33)。目まぐるしく変わる環境に戸惑う様子は見ていて辛いものだ。この時、既に法人は「2次避難所」探しを進めていた。

愛知県の福祉協会が被災した障がい者や介護職員を支援

震災から30日目、羽咋市から職員4人と利用者、その家族総勢19人が愛知県内の施設へ「2次避難所」としてやってきた。厚生労働省によると障がい者らとその家族、介護職員が集団で公的避難するのは国内初の試みだという。これに尽力したのが国内一の400以上の福祉ネットワークを誇る「愛知県知的障害者福祉協会」のメンバーたち。

きっかけは輪島出身で愛知県愛西市の福祉事業所で所長を務める田中雅樹さん。ありったけの支援物資を車に乗せ3日に輪島市へ入る。そこで「福祉避難所」として開所していた法人の理事長と出会った。そして現地の状況を事細かく密に愛知の福祉協会へ報告するなかで、受け入れ体制の準備が進められた。愛知の福祉協会は強靭なネットワーク力を生かし、集団での受け入れが実現したのだ。

愛知県内20近くの福祉事業所から50人以上の介護職員を派遣し、早番、遅番、夜勤の3交代で輪島から来た人たちを支援。
輪島の法人理事長は「環境の障がいのダメージを少なくするために家族と一緒に避難することが、障がい者にとって安心安全な場所になる」と安堵の思い。さらに愛知の福祉協会に対して「やっぱり仲間は仲間を呼んで仲間が助け合う。今すごく信頼できる仲間ができたと思う」と語った。

今や、いつ、どこで巨大地震が起こるかわからない地震大国の日本。万が一、被災したとき、愛知の福祉協会の副会長らは「私たちが何ができるかという提案型でいかないとだめだ」、さらに「明日は我が身で今困っている人がそこにいたら自分でできることを提供しよう」、「お互いさまの精神、それが福祉の源流」だと語る。

いつやってくるのかわからない南海トラフ巨大地震。その時、息子と一緒にいたら、一番に心落ちつける場所へ手を引いて連れて行きたい。だからこそ、すぐにでもその場所を探しておきたい。

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