「上げ馬神事」は動物虐待なのか? 批判受け姿消した“象徴” 会場は口論で騒然…
700年続く伝統行事が迎えた転換点 祭り存続のために“象徴”を撤去
きっかけとなったのは、去年の祭りでの出来事。1頭の馬が坂の途中で転倒し、その後、殺処分になったのです。さらに馬をロープやはっぴでたたく行為が確認され、動物虐待との批判が相次いで寄せられました。
これを受けて、専門家は祭り存続のために大きな決断を促しました。坂の頂点にそびえ立っていた、祭りの象徴ともいえる約2メートルの土壁を撤去したのです。
さらに、専門家は坂以外の問題点も指摘しています。乗馬クラブを運営する中村さんは、馬をトレーニングしないまま祭りに使用すること自体が虐待につながるとして、事前のトレーニングの必要性を訴え、講習会を開催。祭りの2週間前には、馬を坂に慣れさせて負担を軽くするため、本番と同じ坂を使ったリハーサルを行いました。
2年連続で参加する騎手は「坂の角度が緩やかになったので、去年よりは楽に上れると思います」と話します。
抗議団体と観衆が口論になる場面も… 緊張感漂う中で開催された今年の上げ馬神事
例年以上に訓練を重ねて迎えた祭り当日。会場では警察や県の職員が、虐待がないか監視に当たっていました。三重県は去年の5倍、15人の職員を会場に派遣しました。
観客の中には「去年馬を死なせちゃったと聞いたので、死なせるまでやるなんてどんな神事だろうと思って来たんですけど。実際に来てみないと分からないと思って、今日来ました」と、去年の問題を受けて足を運んだ人も。
一方、祭りのために集まるのが毎年の恒例行事だという家族や、「決して命を粗末にはしていない。うわべだけを見てそんなこと言わずに、日本の伝統は守って欲しい」と話す人など、毎年、上げ馬神事を楽しみにしている人の姿も大勢見受けられました。
様々な意見が飛び交う中、いよいよ本番が始まりました。一番手の馬が無事に坂を駆け上がると、大きな歓声が上がります。
しかし、観客からは「醍醐味はなくなったね」「すごい感激したんだけど、本当は壁のあるのを上ってほしかった。神事なのに(壁の撤去は)なんかちょっと残念だな」という、様変わりした姿に物足りないという声も漏れました。
そんな中、坂のすぐそばでは動物愛護団体が抗議活動を展開。メンバーの一人は「地域の伝統が途絶えちゃうという問題もあるとは思うんですけど、お馬さんが声を上げられない気持ちの代弁をしています」とインタビューに答えました。ところが、このような抗議活動を見た観衆の一部が反発。「なんで力尾と戸津だけガタガタ言われなあかんのや!」と口論になる場面も。
いつもとは違う緊張感が漂ってはいたものの、6頭の馬は全てけがなく坂を駆け上がることに成功しました。指導役として祭りを見守った中村さんは、さらに安全な祭りになることを願っていました。
騎手の指導担当 中村勇さん:
「(引退した競争)馬が次に生きていく道筋を作ってあげることが、祭りが認めてもらえる役目になると思うので、馬をかわいがる文化が根付くような地区に、これから変わっていけばいいんじゃないか。それが本当に願っていること」
今年は、土壁の撤去の他にも、坂の傾斜を緩やかにしたり、すべり止めの砂を導入するなどの対策が取られました。その結果、去年は18回中3回成功でしたが、今年は9回中9回成功しています。
転換点を迎えた上げ馬神事。新たな形の模索は、これからも続きます。