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【特集】女性杜氏が中国向けの日本酒を開発し現地で売り込み 四川料理に合う酒とは? 

2023年11月20日 16:30
【特集】女性杜氏が中国向けの日本酒を開発し現地で売り込み 四川料理に合う酒とは? 

国内での消費低迷が続く日本酒の新たな可能性を広げるべく、「三大酒処」のひとつ広島の酒蔵が、取り組みを始めました。目指したのは、巨大市場・中国です。

中国・四川省成都の国際空港に降り立ったのは、広島県東広島市の老舗酒蔵「今田酒造本店」を率いる今田美穂さんです。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「ディープな中国に来たなぁと思って。広いのにも関わらず、人がうじゃうじゃしているっていう。ちょっとスケール感がついていけてない感じがある。」

1年の歳月をかけて取り組んだのは、中華料理に合う日本酒づくりです。それは、前代未聞の挑戦。自らの目でその成果を確かめます。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「懐に飛び込むって言う感じですね。胸をお借りして。」

中国に向けた日本酒「と」

中国の内陸部に位置し、広島県と友好提携を結ぶ四川省。省都・成都は、人口およそ1200万人の巨大都市です。中国向けに醸造した純米酒、その名も「と」。辛さが特長の中華料理に向き合って出した答えは「酸味」。日本酒には珍しいその味わいを作り出すため、麹づくりから徹底的にこだわりました。在上海日本国総領事館に勤める酒の専門家・宮本宗周さんらと試行錯誤の末に、開発にこぎ着けました。

商談会での中国人の反応は…?

向かったのは、広島産の日本酒商談会。広島県が主催しています。商談会には、今田酒造を含む広島県内8つの蔵が商品を出品。地元・四川省の飲食店や取引業者、46社が訪れました。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「広島の酒がいっぱい来てるじゃないですか」

早速、会場に届いた日本酒の状態を確かめます。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「何人の手がかかってここまで来てるかっていうのを思うと、ほんと大事な1本。」

上海から、宮本さんも駆けつけました。

■在上海日本国総領事館経済部 領事 宮本宗周さん
「このラベル、この味が四川までやって来たこと。本当に感慨深いですね。」

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「これはまだ中国でしか売ってない。」

果たして、反応は…。

■中国人の女性
「口当たりが良くて、後味が良い。」

気になるのは、中国人向けにつくった日本酒「と」。どうやら、興味を示してくれたようです。

■中国人の女性
「すごくおいしい。とても素晴らしい。」
「酸味が食欲をそそるし、四川料理との相性がいいと思う。」

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「「と」が1番好きって言う人が圧倒的に多い。反応はすごくいいと思う。」

しかし、違った反応もあります。

■中国人の男性
「四川で日本酒はあまり一般的でなく、主に白酒あるいはワインが飲まれる。ビジネスの接待には向いてないと思う。」

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「日本料理だけでなく、中国の料理と合わせて日本酒を飲むことはありますか?」
■中国人の男性
「あるけど、男性にとってはアルコール感が足りない。」

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「いろんなひどい目に会うかもしれないし。その振れ幅ってどんな素晴らしい、予想しなかったことにも会えるかもしれないので。その両方の振れ幅を楽しみたいと思います。」

衝撃の辛さに合う日本酒は…

翌日訪れたのは、人気の麻婆豆腐店。地元で生まれた四川料理を代表する一品です。そして衝撃を受けたのは、その辛さ。

■在上海日本国総領事館経済部 領事 宮本宗周さん
「山椒がすごいしびれる。これはしびれる。これはきつい。」
■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「これすご。これはすごい。これすご。衝撃的。びりびりびりという感じ。汗が一気に。」

汗が噴き出すほどの辛さです。地元の人も、甘い飲みもので「辛み」を抑えるほど。「酸味」を打ち出した日本酒に、不安がよぎります。

Q.お酒には甘さが必要か?
■在上海日本国総領事館経済部 領事 宮本宗周さん
「辛さを甘みで上書きしているような感じがあって、合わさってはない。」
■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「箸休め的に酸っぱいものが。酸味の利いたお漬け物とかが食べたくなる。やっぱり酸のあるもの合うんじゃないですかね。」

その日の夜、成都市内の飲食店で開いた晩餐会。中華料理と日本酒との相性を確認します。それは、1年間の努力の結果が問われる場でもあります。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「謙虚に受け止めるしかないですね。どういう反応が出ても今までやってきたことの全てなので。」

冒頭、訪れた人々を前に「今田酒造」が手掛けた酒を紹介します。順調な滑り出しと思えましたが、温度に関する質問を受けた際、ある異変に気付きます。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「冷たすぎる。酸味だけしか感じなくて、甘み・うま味が感じられないの。出しておこう。」

氷の中から瓶を取り出し、提供するタイミングと温度を調整します。

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「必ず絶対こういう時って私、温度チェックしていたんだけど、それが場の緊張もあるし、ちょっとやばいやばいっていう。緊張感が。」

そして、麻婆豆腐が供されると、今田さん自らが純米酒「と」を注ぎます。「中国と広島を繋ぐ」との思いを込めた酒との饗宴の幕開けです。

■中国人の女性
「美味しい。酸味がいい。」
「麻婆豆腐などの辛い料理とペアリングすると、余韻がより良く感じられます。」
「このお酒は四川料理との運命の出会いです。四川の人はみんな、このお酒が好きになると思います。」
■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「女の子のおいしいと言われると、とろけますね。」

想定外の発見もありました。

■中国人の男性
「四川の人は食事をするときに、口の中がひりひりしたら、お酢をつけて食べるんです。ですので、このお酒は酸味を特徴にして、四川料理と合わせる考え方がすごくて。知恵を持っている人じゃないと出来ない。」

■今田酒造本店杜氏・社長 今田美穂さん
「これが世界でお酒を紹介することの面白さかも。四川省まで来たからわかったことですね。おもしろい。おもしろいわ。もうやめられないですね。」

四川料理の本場で知った日本酒の新たな可能性。更なる改良を加えた中国向けの酒の仕込みは、今シーズンも間もなく幕を開けます。