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物流の「2024年問題」大消費地から遠い熊本での影響は?

2024年4月29日 21:25
物流の「2024年問題」大消費地から遠い熊本での影響は?

特集は「物流の2024年問題」。国内物流の根幹をなすトラック輸送。2024年4月からトラックドライバーの残業時間の上限規制が始まり、今後、人手不足や配送の遅れが懸念されています。
規制スタートからまもなく1か月。大消費地から遠い九州では影響がより深刻といわれる中、熊本県内の現状がどうなっているのか、見えてきました。

■熊本県トラック協会・下川公一郎会長
「4月に入ってからすぐに変化はないですけれども、ないというか、対応が100%できてスタートしているわけじゃない。 4月を迎えてしまったなというのが正直なところです。耐えているところですね。 全ての事業所がですね」

トラック業界で起きている「物流の2024年問題」。
運輸業界では2024年度からドライバーの時間外労働が年960時間、月80時間までに制限されるようになりました。

これまでドライバーの労働時間は、全産業平均より約2割長く、トラック輸送はドライバーの長時間労働のうえに成り立ってきました。そんな中、4月からドライバーの労働時間が制限されることで運べる荷物が少なくなり、物流が滞る懸念が生まれています。

■熊本県トラック協会・下川公一郎会長
「運ぶ使命感が今まで強かったので、多少(時間)オーバーしても何とか届けなきゃいけないと届けていたんですけれども、これからはその無理が効かなくなります」

国は、今年度の輸送能力が最悪の場合約14%、4億トン相当不足する可能性があるとして、対策を進めてきました。
こうした中、ドライバーからは…

■ドライバー
Q.少し変化はありますか?
「特にないですね。今まで通りの流れでやっていかないと狂ちゃうんでですね。フェリーを多用するようになったりは一応やってますね」
「(勤務時間)1日に3時間ずつは減ってくるのかな。今まで走れた時間からすると。結局、仕事の内容は変わらんからですね。ただ詰めるだけですよね。要は詰めて仕事をするみたいな感じで、逆に余裕が自分らは今のところちょっとないですね」

さらに現場からは、荷物の積み込み待ちをする「荷待ち」や荷物を積み込む「荷役」が、労働時間短縮を妨げているとの声がありました。

■ドライバー
Q.長時間の荷待ちとか、そういったことで改善は?
「それはまだありますね。荷待ちとかあったりしますね。そこが一番でかいと思う」
「どうしてもそこは対応してくれてるところと対応してないところとありますので、そこら辺うまくしてくれるとすごく助かるんですけどね」

ドライバーの荷待ちや荷役は長い間、運送事業者のサービスで対価が発生していませんでしたが、2018年の法改正で対価が受け取れるようになりました。しかし、対価を請求しづらい状況が続いています。

■熊本県トラック協会・下川公一郎会長
「中小零細企業が多い運送事業者なので、なかなかその話に行ったら仕事を切られるとかいう、そういう部分を持っているんですよね。だから、なかなかそう小さいところは商談に行けないというのも事実かなと思います」

こうした中、国土交通省は荷主などが2024年問題に適切に対応しているか監視を強化するため、2023年に「トラックGメン」を発足。県内でもトラック事業者から情報収集しています。

■熊本運輸支局トラックGメン・平野光祐さん
「荷待ち時間の問題ですね。恒常的な荷待ちが発生しておりまして、毎回荷物を取りに行きますと何時間も待たされるとかですね、多い時には9時間とか待たされるという話を聞いております。大きい10トントラックとかに手積みで荷物を載せていって、それに2時間とか3時間とか時間がかかると」

一方、ドライバーの負担軽減に取り組み始めた荷主もいます。
多い時は1日でスイカ2万5000玉を出荷するJA熊本市北東営農センター。
ここではフォークリフトでの積み下ろしを簡単にするパレットを使った荷役の効率化を進め、ドライバーの荷役や荷待ちの負担を軽くしました。1箱ずつ手積みしていた頃は1台2時間かかっていましたが今は30分ほどで積み終わります。

■JA熊本市北東営農センター・尾方健 販売係長
「働き方改革2019年だったと思いますけど、4年後5年後には輸送業界に対しても時間の規制が入ることを見越して、この施設の導入に踏み切ったところはあります。トラックが到着してから出発するまでの時間をいかに圧縮していくかが一番荷主側の役割かなと思ってますので」

このパレットが野菜の産地から大消費地の市場まで統一されれば、積み下ろしの手間が大幅に省けることから、農林水産省はパレットのサイズの標準化を推奨しています。しかしパレットのサイズに合わせて箱のサイズも変更が迫られるなど、荷主にも負担が生じます。
また農作物が多品目に渡る場合は、どうしても手積み作業が発生することから、なかなか導入が進みません。

■九州アイエヌライン熊本本社(運輸会社)沖慎太郎所長
「こちらで言うともう本当に大幅に変わられたんですけれど、まだ全体的にその全てが変わったかというとそうでもないとは思ってますね。まだ荷主さんの理解を得られなかったりとかですね、待機時間であったり、付帯作業であったりというのはまだまだ残っているところはあると思います」

さらに、今回の2024年問題でドライバーには大きな悩みが…

■ドライバー
「距離も走れない、回数もこなせないってなると、どうしても入ってくる収入が会社も少ないし、会社からこちらの方にくる分がどうしても減ってきますよね」
「どうしても走ってナンボですからね」
Q.給料がちょっと下がりそうなのは心配ですね。
「心配ですね。もう諦めるしかないですかね」
「いま働いている若い人には問題あると思いますよ。残業つかんから」

労働時間の短縮による収入の減少です。拘束時間が長い一方で、賃金は全産業平均より5~15%低いトラックドライバー。
残業規制で労働時間が減ると収入の減少につながり、人手不足がさらに深刻になる可能性があります。労働時間が短い中で賃金を上げるには運賃を高くしなければいけません。そうなると、商品の価格にも影響が…ただ、消費者の理解には高いハードルがあります。

■熊本運輸支局トラックGメン・平野光祐さん
「結局、物流っていう物が来る過程というのは見えてないのでですね。商品はここに物があるから見えるんですけど、これが運ばれてくるときにかかったお金ってやっぱり最終的な消費者に見えないからですね。物を運ぶというのは必ずコストがかかりますので、ある程度運賃を上げてですね、物流を維持していかないといけないと思っております」

■熊本県トラック協会・下川公一郎会長
「県内の荷主さんも中小企業の所が多いので、上げたくても上げられないと言われるのが第一番。そういう話も聞きます。最終的には商品価格を上げてもらわないと運賃も上がらないので、最終的には消費者が理解をしてもらわないと困りますというところに行きますよね。どこかの業界の犠牲のもとに国民の生活が成り立っているというのはちょっとおかしいのかなと世の中的に思いますので」

今は、物流の滞りやドライバー不足などの問題は表面化していません。しかし、2030年度には輸送能力が約34%、9億トン相当が不足する試算があり、熊本県内は全国平均を上回る38%不足するとの予測もあります。物流の2024年問題は、いま手を打たなければ今後、私たちの生活にも影響が出ることが懸念されます。