熊本豪雨から4年…「復興を感じる旅」人吉・球磨が舞台の映画ロケツアー
「よーい、はいっ」
6月末。相良村で行われていたのは映画の撮影です。
作品のタイトルは、「囁きの河」。映画のテーマは、球磨川の流域を襲った熊本豪雨です。7800以上の家屋が被害を受け、死者・行方不明者は69人にのぼりました。
あれから4年。復興への歩みを進める人たちの姿を描きたいと企画された映画の制作。
プロデューサーで大学教授の青木辰司さんは熊本豪雨の前から90回以上人吉を訪れ、思いを寄せてきました。
■「囁きの河」プロデューサー・青木辰司さん
「まずはここに住む方々が、人吉がこれだけ球磨川から痛めつけられたにも関わらず、でも『球磨川大好き』、『球磨川とともに生きていく』とおっしゃっている意味は何かということを監督が深く考えてこのテーマで撮りたいということになった」
撮影の現場にはスタッフ以外にも撮影を見守る人が。
東洋大学で自然や人々との交流を楽しむ「グリーンツーリズム」を研究する青木さんは今回、被災地をまわりながら映画の撮影を見学するツアーを企画。東京から9人が参加しました。
■「囁きの河」主演・中原丈雄さん(人吉市出身)
「やっぱり人に見てもらえるのは嬉しいしやりがいがありますよ。(被災した場所の)1か所1か所をなるべく多くを見てもらえるっていうのは、とてもこの映画にとってもいいことじゃないですかね」
映画の撮影は、球磨川沿いに建つ人吉旅館でも行われました。
熊本豪雨のときには国の有形文化財に登録されていた建物の2階部分まで水が押し寄せ、1年あまり休業を余儀なくされました。
■参加者
「天候だけをみていても水害はわからないなって分かった(普段)多摩川の近くに住んでいて(水害の前は)水のにおいも違ってくるなと思う。真剣に避難することを考えていかなくてはと思った」
旅館での撮影には、女将の娘、嘉恵さんも出演者として加わります。
■堀尾里美さんの娘・嘉恵さん
「場所がやっぱり人吉っていうのが私にとってはとても馴染みのある場所なので、緊張しつつも楽しくやることができました」
ここでは撮影の見学だけでなく女将の堀尾里美さんが当時の体験をツアーの参加者に語りました。
■人吉旅館女将・堀尾里美さん
「泥だけがひざ下くらいにぎっしり詰まっていた。この泥はどこからきたんだろうってくらい。泊まりに来たお客さんがいっぱい『大変だったね』、『よくきれいになったね』って話してくれるので毎晩うれし涙を流します。公開したときは全国の皆様に人吉で球磨川と共に生きる人たちの姿を見てほしい」
ツアーは見学だけにとどまりません。熊本豪雨を経験した地元の人との交流の場も設けられています。
■本田節さん
「『防災食』というやはりどんな時でも出来たての温かいもの、そして心も体もほっとできるということで」
始まったのは、防災食づくり。講師は人吉市内で食堂を営む本田節さんです。
球磨川沿いにある本田さんの店は熊本豪雨で濁流が押し寄せ2メートルの高さまで浸水しました。そんな中、本田さんは豪雨から4日後に炊き出しをスタート。仮住まいする人や復旧に携わる人たちを元気づけました。
本田さんが紹介したのはカセットコンロでのコメの炊き方や缶詰で作るカレー、ホットプレートだけで作れるスパゲッティのレシピです。
■参加者
「サバ缶がカレーになるなんて思いませんでした」
■本田節さん
「命それから私たちはそのことによって、食によって地域がつながっていくということも伝えたい」
夕食は、地元の人が持ち寄った料理とともに…
■参加者
「地元の方がいろいろ関わってくださって、こんな風にもてなしてくださると思ってなかったんです。本当にびっくりして」
「やっぱり災害の爪痕があったし、『川と共に生きる』。やっぱり大変だなと思うだけど逆にそれでもこの地域がいいんだっていうかね、そういうのを感じますよね」
映画を通して人吉・球磨の「今」を伝える復興ツアー。被災地を感じる、新しい旅のカタチです。
映画「囁きの河」は来年春頃の上映を目指しています。