東日本と能登 2つのふるさとで被災した女性を動かすものとは…

2024年3月20日 18:56

東日本大震災と能登半島地震で2つのふるさとの被災を経験した女性がいます。
世界大会で3つの銀メダルを獲得するなどウエイトリフティングと共に人生を歩んできた彼女を支えるものとは。

ウエイトリフティングに魅せられた女性、浅田久美さん。

浅田(旧姓:長谷場)久美さん：
「私の最高の夢が叶えば2000年の9月20日午後2時半から試合が始まるんです」
「要するにシドニーオリンピックですね」
「筋がちぎれようが骨が折れようがとことんやるつもりでいます」

現在、石川県珠洲市に住む彼女に会いに行きました。

浅田さん：
「どうも、おねがいします」

「国際大会ってケースがなくて意外とちゃちいんですよね。」

第一印象は、豪快でおちゃめなひと。
世界の舞台で活躍したあとは指導者の道を進み、2012年には珠洲市でクラブチームを立ち上げ、後継者の育成に力を入れています。

浅田さん：
「子どもたちの最高の瞬間をずっと見守ることができるのは本当に最高です。私たちは子どもに関わることが本当に生きがいになってるし」

浅田さんが、変わり果てた街を車で案内してくれました。

浅田さん：
「ひどすぎる…高齢者が多いし倒れた家を撤去する予算とかお金とか元気がないんじゃないかなと思ってって」
「勢いが…そうなると人がいない街になっちゃうんじゃないかって思って」

16年前、結婚を機にこの街に移り住みました。

浅田さん：
「ここも…きれいな海です」
「似ているんですよ、最初にここに来たときに「あ、釜石と一緒だ」と思って」

浅田さんは釜石市出身。13年前の東日本大震災では、親のように慕う鵜住居の伯父・叔母の家が津波で全壊。親戚も亡くしました。

そしてことし、第2のふるさとが被災しました。
地震の影響でいつもの練習場所は使えなくなりました。

浅田さん：
「よいしょーよいしょーあらやだなんかグラグラするねー」

およそ1か月半、バーベルを触ることができませんでしたが、野球部の部室を間借りして、ようやく珠洲市での練習を再開しました。
女子の日本記録保持者や高校日本一の選手を輩出してきたクラブに、全国大会が近づいていました。

浅田さんは、岩手県の企業の協力などを得て、ばらばらに避難生活を送る選手たちを集めた県外での合同合宿を企画しました。
地震のあとから、ずっと会えていない選手がいます。

高校1年生の橋本侑大さん。

これからの成長に期待を寄せる選手でしたが、自宅が倒壊し、いまもビニールハウスで避難生活を送っています。
浅田さんは、侑大さんが競技を再開するきっかけを作りたいと思っていました。

浅田さん：
「ずっとそっとしていたんですけどもうだめ、時間、リミットは迫っていると思って」
「今回もほぼ無理やり「いこうよ」って「いつまでもだめだぞそれじゃ」って言って「わかってはいるんですけど」みたいなそんな雰囲気でね」

この日、出発の準備をする浅田さんの自宅に、侑大さんが姿を見せました。
浅田さん：
「おお～侑大、がんばらないけないよ」

侑大さんは、1月1日の地震で祖母のみち子さんを亡くしました。

侑大さんの母：
「この子がおばあちゃんに70歳の時の誕生日にあげた指輪を亡くなってから外したんですけど自分でずっと持っている。」
「私の母、おばあちゃんも本当に活躍をすごく楽しみにしていたのでまた続けてくれるのが良かったなと思って」

(Q.浅田さんからの誘いどう思いましたか)
侑大さん：
「もらったときは…やっぱりほっとするというか見放されている感じじゃないというか一緒に頑張っていくというエネルギーを感じたというか」

珠洲市からおよそ200キロ離れた福井県坂井市。
県外での合宿はこれが2回目です。

震災前から交流があった坂井高校のウエイトリフティング部が、浅田さんたちとの練習を快く受け入れてくれました。

浅田さん：
「さあ侑大、どうだ。そこまで落ちていない。良かった良かった。」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。侑大。」

侑大さん：
「飯田高校の橋本です、きょうからよろしくお願いします」

浅田さん：
「(去年の)ユースの合宿のときにお世話になりました。またよろしくお願いします。」

ウエイトリフティングは段々と重りを上げて自分の限界に挑戦する競技。
他の選手と一緒に練習することで、いつも以上に自分の力を発揮することを浅田さんは期待していました。

「楽しく追い込もう!」

新記録に挑戦するときは声をかけあいます。
拍手が記録を達成した証です。

手つかずの崩れた建物が残るふるさとにまだ復興の道筋は見えません。
それでも、彼らを突き動かすものは何か。前を向いていられるのはなぜか。
浅田さんが、子どもたちに言い続けてきた言葉があります。

「どうせやるんだったらてっぺんに」。