【特集】酒蔵の”女性蔵人”は『二刀流』 もう1つの顔にも迫る(宮城・大崎市)
12月、ユネスコの『無形文化遺産』になることが正式に決まった日本の「伝統的酒造り」。
コメどころ 宮城・大崎市内の酒蔵では、まさに今 酒造りの最盛期を迎えている。
こで唯一 女性の蔵人として奮闘する江口紗季さん。
世界から評価された日本の酒造りを次の世代に引き継ぐ決意。
そして、知られざるもう1つの顔に迫る。
蔵人の江口紗季さん。
日本の伝統的な酒造りと向き合う江口さんには、叶えたいもう1つの夢がある。
ことし9月。大崎市松山の酒蔵では、1年の酒造りの始まりに合わせて神事が行われていた。
ここ「一ノ蔵」に所属する蔵人は32人。
古くは江戸時代にルーツを持つ歴史ある酒蔵で、初めてにして唯一の女性蔵人が江口紗季さん(33)。
広島県出身の江口さん。学生時代に酒造りに興味を持ち、震災からの復興に関わりたいという思いも重なって、宮城県内の酒蔵に就職した.
仕込みから日本酒ができあがるまで、32人の蔵人が24時間交代制で酒造りと向き合うこの酒蔵。
この日、朝7時に出社した江口さんは、日本酒の〝もと〟となる「醪(もろみ)」のタンクをかき混ぜる作業に取り掛かっていた。
一ノ蔵・江口紗季さん
「40分~50分ずっとかき回さなければならないので大変」
繊細でありながら、体力勝負の一面も持つ酒造り。
長さ4メートルの「櫂(かい)」を操りながら、発酵の進み具合を確認していく。
蔵人になって9年目。
伝統を引き継ぎながらも、新たなスタイルの酒造りを模索する江口さんの姿は、老舗酒蔵の中でも一目置かれる存在だ。
同僚
「非常に真面目で負けん気の強い男勝り。頑張って仕事している」
一ノ蔵・総杜氏 門脇 豊彦さん
「人一倍努力家。体格的に大きくないのは(体力勝負の酒造りにおいては)マイナス要因だけれど、そこを補填しようと工夫しながら一生懸命に取り組む姿はすごい」
午後5時。
この日の自分の担務を終えて、カジュアルな服装に着替えた江口さん。
酒蔵を出て、向かう場所があった。
それはー。
キックボクシングのジム。
江口さんのもう一つの顔は、プロのキックボクサー。
タイの国技である「ムエタイ」に、日本の空手を組み入れたキックボクシング。
もともと、学生時代に体力づくりの一環で始めたという江口さんの才能に目を付けたのは、このジムの会長を務める笹羅さん。
笹羅ジム・笹羅崇裕会長
「真面目に(ジムに)来ていた。いくら天才がいても真面目にやってる人には敵わない」
去年 プロテストに合格し、今は週に6日 ジムに通っている。
身長146センチと小柄な江口さんが見据えるのは、新たにできた「ペーパー級」という最も軽い階級のチャンピオン。
そのためには1戦1戦、着実に勝利を重ねることが大切になってくる。
12月1日。
神奈川県横浜市にある横浜武道館で行われた江口さんのプロ5戦目。
持ち前のスタミナを活かし、運動量で自分の試合展開に持ち込んだ江口さん。得意技のハイキックで、相手を圧倒した。
その結果はー。
「3対0を持ちまして、勝者 青コーナー江口紗季!」
判定勝ちをおさめ、プロ3勝目をつかみ取った。
試合後の江口さん
「きょうも無事に勝つことができました。これもみなさんの応援のおかげだと思っています。ありがとうございました」
日本酒の蔵人とプロキックボクサーの二刀流に挑む江口さん。
一ノ蔵・江口紗季さん
「自分の夢はキックボクシングでも頂点に立ちたいし、酒造りでも最高のお酒を造りたい」
その挑戦を応援してくれる人たちの後押しに支えられながら、江口さんはただひたむきに歩みを進めていく。