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【特集】「あんだは、なすてロミオなのっしゃ」東北弁で演じるシェイクスピア 方言にかける想い

2024年12月22日 10:00
【特集】「あんだは、なすてロミオなのっしゃ」東北弁で演じるシェイクスピア 方言にかける想い

多賀城創建から1300年を迎えた今年。

国宝に指定された「多賀城碑」。
そして、多賀城の象徴ともいえる、「南門」の復元。
祝賀イベントも数多く開かれ、東北の歴史に関心が集まった1年だった。
そのなかで先月、異彩を放つ市民劇が上演された。

東北弁のシェイクスピア

イギリスの劇作家、シェイクスピアの原作「冬物語」を、古代東北・陸奥国の中心、多賀城に舞台を置き換えた「みちのおくの国の冬物語」。
奈良の都から今の東北地方を統治するために派遣された陸奥守は、妻が不貞をはたらいたと誤解し、嫉妬心から大切な家族や家臣を次々に失うという物語。

演じたのは、地元の学生や社会人などアマチュアの劇団員たち。
そして、この芝居の最大の特徴は…

役者
「おだずなよ(ふざけるなよ)」
「おれはおしょすい(はずかしい)」
「どいな?むんつけだ(ふてくされた)顔」
「おっかねが(恐ろしい)」
「なにほでなす(間抜けなこと)語ってんだが 見でみさいん」
「もすこいな(かわいそう)」

東北弁のシェイクスピアだ。

観客は・・・

観客
「いぎなり(とても)よかった」
「難しかったけど面白かった」
「先入観で難しいと思ったが、シェイクスピアのイメージだったがなじみやすい身近な感じに聞こえる」

シェイクスピアは優れた人間観察力と心理描写を武器に、16世紀から17世紀にかけて作品を生み出した世界的な劇作家で、400年以上にわたって日本でも繰り返し上演されてきたが、東北弁で演じられるのは極めて異例だ。

役者
「東北弁? シェイクスピアのイメージと違うが、なんかこれ合っている!みたいな」
「東北弁でシェイクスピアをやるのはそれだけで面白い」
「基本的な人間の喜怒哀楽や生活の悩みは一致している」

劇団シェイクスピア・カンパニーは1992年に設立

東北弁でシェイクスピアを演じることを目的として、1992年に設立された劇団シェイクスピア・カンパニー。
主宰者で、脚本・演出を手掛ける下館和巳さんはこう語る。

下館和巳さん
「『むんつける』なんて標準語にできない。方言じゃないとつかめないというこの感覚。方言は標準語では何と言うのか分からないから方言なのである」

塩釜の海産物店に生まれた下館さんは、東北一円の漁師や仲買人の方言が飛び交う環境で育った。

下館和巳さん
「訛りがなんとも愛おしいという中で育った。僕の耳はアクセントや訛りの森」

その後、イギリスに留学中、シェイクスピアに魅せられ、帰国後に東北学院大学の教授としてシェイクスピアを教える傍ら、劇団を率いてきた。

この30年あまりの間、青森の霊場・恐山や縄文遺跡、鳴子温泉など東北各地でその土地の方言を使ったシェイクスピアを上演。

「ロミオとジュリエット」のアノ台詞は東北弁だと…

代表作「ロミオとジュリエット」の有名なセリフ、「おおロミオ、ロミオ、あなたはなぜロミオなの」

それが“下館シェイクスピア”では…

下館和巳さん
「『ろみお、あんだはなすてろみおなのっしゃ』って言うと仙台の客は笑う。あれがもし標準語で語られていたら、シンパシーを感じられなかった」

観客から共感を得る一方で、東北弁シェイクスピアは当初、東京の演劇界などから猛烈な批判を浴びたと言う。

下館和巳さん
「演劇界では方言は亜流。冗談でやっているんでしょと。シェイクスピアに対して冒涜だと」

「シェイクスピア時代のイギリス」と「東北」は似ている?

ではなぜ、東北弁で演じ続けてきたのか?
それはシェイクスピアの時代のイギリスと東北が似ているからだと言う。

下館和巳さん
「シェイクスピアの頃は、南のイタリア・ギリシャ・フランスが西洋の中心。当時のヨーロッパの中でイギリスは日本のなかの東北」

大英帝国以前のシェイクスピアの時代、イギリスはヨーロッパの中でまだ弱小国とされ、それゆえに英語はイチ方言に過ぎなかったと言う。
上流階級はフランス語をしゃべり、英語は庶民の言葉…
英語で芝居が上演されることなどまれだった時代に、イギリスの庶民に誇りと自信を与えたのがシェイクスピアの英語劇だったという。

下館和巳さん
「観客にいたパブのおやじとか肉屋の丁稚とか溜飲を下げたと思う。俺たちの言葉だと。シェイクスピアも他の人も英語に自信を持っていなかった。我々が舞台の上で東北弁でしゃべらないのと似ている」

本場・イギリス人からも、東北弁シェイクスピアは受け入れられている。

演劇を観たイギリス人
「7回目です、下館先生の芝居を観るのは。奥州の歴史とシェイクスピアと一緒でそっくり」

方言には、震災で失いかけた「地域の誇り」を取り戻す力があった

下館さんが方言の力を再認識するきっかけがあった。

それは、東日本大震災。

震災の2年後から被災地を巡回上演すると、“方言の芝居を観たい”という被災者の笑顔と笑い声に包まれた。
下館さんは「方言には、震災で失いかけていた地域の誇りを取り戻す力があった」と振り返る。

下館和巳さん
「奇をてらっているとしか思われないが、シェイクスピアの力で、恰好が悪いと思われている東北弁に光を与えられている気がする。方言はいのちだから、なくすことはできない」

2019年、下館さんらはシェイクスピア劇の聖地・ロンドンのグローブ座に招かれ、東北弁で上演。
本場イギリスでも評価されるようになった。

そして今年、多賀城創建1300年に花を添えた東北弁シェイクスピア。

今、次なる構想が進んでいる。
それは、ロンドンのグローブ座のような劇場を建設すること。

この劇団を設立して以来の悲願だ。

下館和巳さん
「演劇ってなんなんだろう?それは、あたたかさ。人の匂いとかぬくもりを感じられる劇場をつくりたい。非常にめんこい木造の劇場を」

最終更新日:2024年12月22日 10:00