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「教育現場」「未成年遺族」伝え続ける事件の“教訓” 佐世保小6女児同級生殺害事件から20年《長崎》

2024年6月1日 7:00
「教育現場」「未成年遺族」伝え続ける事件の“教訓”  佐世保小6女児同級生殺害事件から20年《長崎》

佐世保市の小学校で6年生の女子児童が同級生に殺害された事件は、6月1日で20年を迎えました。

痛ましい事件が二度と起きないように。「教訓」を伝える活動が続いています。

佐世保市の大久保小学校。

校長室に置かれた机といすは事件で亡くなった女子児童が使っていました。

痛ましい事件が再び起こらないように。

黒田 優一校長は、6月1日は決意を新たにする日と話します。

(大久保小学校 黒田 優一校長)
「6月1日は二度とあのような悲しい出来事を繰り返さないということを、私たち大人が決意を新たにする日」

事件が起きたのは、20年前の2004年6月1日。

学習ルームで、当時6年の女子児童が同級生にカッターナイフで切りつけられ殺害されました。

亡くなった女子児童によるインターネットなどへの書き込みが、加害女児に殺意を抱かせたとされています。

5月、東京で開かれた犯罪被害者を支援するシンポジウムで、事件について話したのは、亡くなった女子児童の兄でした。

(被害女児の兄)
「時間的な感覚に関しては、きのうのことのように感じている」

この20年間の悩みや苦しみを伝え続けています。

(被害女児の兄)
「(事件当日)、校長先生からA4用紙1枚の紙を手渡された。本当に誰も何も話しかけてくれないような状況」

当時は、多感な中学3年生。通っていた中学校で突然、妹の死を知らされました。周りの教員はうつむき続け、無言。

戸惑いを感じた兄は、憔悴しきった父親の姿を目の当たりにし、“泣かない”決意をしたそうです。

(被害女児の兄)
「(父親)は妹の後を追って死ぬかもしれない。2つ誓いを立てた。

1つが父親の前で泣かない。絶対に泣かない。

そしてもう1つが笑顔。自分が大丈夫なんだよというアピールをしなければいけない」

気丈に振る舞い、カウンセリングを受けることはなかったといいますが、高校入学後、突然、体が動かなくなり、1学期で退学しました。

その後、精神科や心療内科に通いようやく、胸の内を明かすことができたそうです。

(被害女児の兄)
「遺族になった人たちが苦しむ時間を極力短くしてあげる。そして自分の足で普通の日常を送れるようにすることが大事」

当時のことを今も悔やんでいる人がいます。

(元佐世保市教育長 鶴﨑 耕一さん)
「はっきり言って私も含めてミスというふうに思うが、個々の先生たちはどう声をかけていいかわからなかった。誰か1人行ってサポートしてあげるべきだった」

鶴崎 耕一さん76歳。

事件発生当時、佐世保市の教育長で、対応にあたりました。

被害女児の兄をケアにつなぐことができなかったと振り返ります。

(元佐世保市教育長 鶴﨑 耕一さん)
「事件そのもののコアの部分に我々も目が行き過ぎていて、(兄の状態)を見抜けなかったというところもあった。(女子児童の兄も)どこかで吐露したいという思いがあった(のだろう)」

事件を受け佐世保市は、2015年度から「心の状況調査」をスタート。

児童生徒の自己肯定感や生活習慣などを把握し、理解しようと小学2年生から中学3年生までを対象に毎年実施しています。

(元佐世保市教育長 鶴﨑 耕一さん)
「我々側にいわゆる臨床心理士や心理療法のような知識がまるでなかったということもある。ある意味、教育と福祉と医療と、そういったものが交わっていくような世界を描き出していく必要がある」

事件後、誰を頼ればいいかわからず、もどかしさを抱き続けたと話す被害女児の兄。

(被害女児の兄)
「遺族の未成年の子どもに対して、声をかけることをためらわないでほしい。声をかけることが最初のスタートラインなので、そのスタートラインを支援者側が切らないでほしい。はっきりと言えることとしては、まずちゃんと個別で話を聞く。15歳ぐらいの子どもであれば、親を交えなくて話をしたとしてもいいのではないか」

事件以降、佐世保市は6月をいのちについて考え、見つめる「強調月間」とし心の教育を進めています。

また、教員は事件の記録をまとめた「調査報告書」を「教訓」として読んでいるそうです。

一方で、この20年で教育環境は一変。

インターネットやSNSなどが広く普及し、子どもたちがトラブルに巻き込まれる可能性が高まっていて教育現場は対応を迫られています。

(黒田 優一校長)
「犯罪に巻き込まれないとか、色々な情報を自分で判断して適切に取り扱う、情報モラル教育も含めて日々指導している」

事件から20年。

今は、在校生たちの「いこいの広場」に変わった“現場”。

亡くなった女子児童が好きだったヒマワリは、今年もきれいな花を咲かせました。

(黒田 優一校長)
「喜びを共有しながら、課題を共有しながら、学校と家庭と地域と一緒になって子どもたちを育てていきたい」

いのちの教訓をこれからも伝え続ける。

学校では6月1日、全校児童が登校して「いのちを見つめる集会」が開かれます。