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【特集】聞こえない自分たちの世界を知ってほしい…聾学校の高校生 「写真甲子園」に挑戦 レンズの先にあるものとは

2024年6月30日 7:22
【特集】聞こえない自分たちの世界を知ってほしい…聾学校の高校生 「写真甲子園」に挑戦 レンズの先にあるものとは

高校生の写真部日本一を決める「写真甲子園」。この春、鳥取聾学校の生徒も参加。応募までの活動を追いました。

◇ ◇

4月16日。
放課後、鳥取聾学校のとある教室に集まったのは、写真部に所属する8人。今年度初めての部活で発表されたのはー。

鳥取聾学校写真部顧問 尾田将史 教諭
「『全国高等学校写真甲子園』に久しぶりに応募したいと考えています」

写真甲子園とは、高校生が単独ではなく、「チーム戦」で競いあう、唯一無二の大会。予選審査を通過すると7月末から北海道で行われる本選に出場することができるという、写真部員憧れのコンテストです。

鳥取聾学校写真部 菱川玲 部長
「緊張はありますけど、それよりも甲子園に出られるっていうことがすごい楽しみ」

実はここ数年、部員数が足りず大会に応募できていなかった鳥取聾学校。今年は部員が5人揃ったので8年ぶりの応募です。

■戦う相手は聞こえる高校生…鳥取聾学校写真部の部員たちが写し出したい世界とは?

~テーマを決める部員たち~
「聴覚障害者にとって、必要なものを強調するような写真が撮ってみたい」
「やりとり。先生と生徒でやり取りの場面を撮ってみたい。手話でね」

話し合いの結果、決まった撮影テーマは「聞こえない日常」。

大会に参加する多くは聞こえる高校生だからこそ、毎日当たり前につけている「人工内耳」や手話での会話など、聞こえない自分たちにとっての当たり前を被写体として表現したいと話します。

■自身も聴力障害者・顧問の先生が自分の経験から部員たちに伝えたいこととは…

鳥取聾学校写真部顧問 尾田将史 教諭
「前にピント合わせてここにピント合わせて」
「いい感じいい感じ だけどもうちょっと上からもうちょっと上から」

写真のイロハを熱心に指導するのは、顧問の尾田将史さん。自身も鳥取聾学校写真部のOBで、高校1年生の時に写真甲子園に出場。顧問としてまた出場したいという強い思いがあります。

鳥取聾学校写真部顧問 尾田将史 教諭
「結果っていうよりも、それに向けたプロセス。目指すまでの道のりで自分にとって何ができたか、生徒たちが自分の力を発揮できたか、ここが重要。その分、おまけに結果がついてくるという風に私は考えています」

尾田さんは鳥取聾学校を卒業し大学に進学。卒業後は社会科の教員としてろう学校に20年近く勤めています。

鳥取聾学校写真部顧問 尾田将史 教諭
「写真はコミュニケーションの一部だと思っています。社会の中は聞こえる人で成り立っていて、逆に聞こえない人はそれが難しい。だけど将来的には必ずその中に入るわけで」

聞こえることが当たり前の社会。写真を撮る中で生まれるコミュニケーションを通じて、卒業後もこの社会で生き抜く力を身につけてほしいという思いで指導しています。

■組み写真とは?~必要なのは写真に込められたストーリー~

作品を送るまで残り1週間となったこの日、行われていたのはー。

鳥取聾学校写真部 菱川玲 部長
「タイトルをつける前に写真の流れというか、物語性をつけるために写真を並べて流れがいいかっていうのを、みんなで打ち合わせしているところです」

写真甲子園では、6枚から8枚の写真を組み合わせて「組み写真」として審査が行われます。それぞれの写真に必要なのは「物語性」。写真を見ていくだけでストーリーを伝えられるかも、評価の基準です。

~部員同士のやりとり~
「ずっと光と影使ってるから、こっちのほうでもいいんじゃないかと思った」
「多数決で決めます。せーの、じゃあこの7枚でいきます!」

■手話に人工内耳…全力をささげた写真がこちら

完成した作品は…

「ありがとう」の手話。
無造作に置かれた人工内耳。
手話を使って楽しく笑う高校生たちの日常。
聞こえにくいけど それが彼らの当たり前。
青春の1ページを写し出した作品が完成しました。

鳥取聾学校写真部 菱川玲 部長
「撮れました。本番に向けてのあらかたが決まったので一安心」

■本選に向け…運命の結果発表

全国から、過去最多の604校が参加。その中で北海道の本選にいけるのはわずか16校。果たして結果は…。

鳥取聾学校写真部顧問 尾田将史 教諭
「(鳥取聾学校の名前は)ない。しょうがない」

予選通過は、そう簡単なものではありませんでした。

鳥取聾学校写真部顧問 尾田将史 教諭
「残念じゃないって言ったらうそになるけど、まあ残念な気持ちもあれば、やっぱり甘くないなって、一緒に一つの目標に向かって頑張るっていうプロセスを経験できるっていうのが写真甲子園に向けたいい取り組みでした。リベンジしたいなって気持ちもありますね」

夢は叶いませんでしたが、大会に向けて、チームとして一歩成長したそれぞれの部員たち。尾田さんと部員たちがのぞくファインダーには、もう来年の甲子園が写っています。