【課題】少子高齢化が進む中、介護士を目指す人材が減少 マイナスなイメージを払拭するため「働きやすさ」を追求する介護施設の取り組みとは?
今後ますます進む少子高齢化。そこで欠かせないのが介護士の存在です。ところが今、介護の道を志す人が少なくなっているといいます。現状を取材しました。
■負担が増す介護現場
料理を配膳する介護スタッフ
「失礼します。きょうの夕ご飯きょうは鶏肉の煮物ですね」
島根県松江市にある介護施設「もちだの郷(さと)」。介護士や送迎スタッフなど100人を超える職員が働いています。長く働いている介護士たちは最近ある傾向を感じるといいます。
介護歴20年 紙谷茂樹さん
「働きだしたときよりも介助する人が増えたかなと。最初の時にはもっと元気な方がおられた気がしますけど」
介護士による介助を必要とする利用者が以前より増えているといいます。
厚生労働省によりますと、日本全国で働いている介護職員の数は、2022年度の時点で約215万人。少子高齢化が急速に進む中、2040年には、今より65万人多い280万人の介護職員が必要だと試算されています。
■介護の道を志す人が減少
その一方で…。
YMCA米子医療福祉専門学校 矢野正博 事務長
「定員は40名なんですが、10年以上前から20名を切る状況。そして昨年・今年と1桁、介護福祉学科に関しましては年々少なくなっているのが現状です」
鳥取県米子市にある医療福祉専門学校では、介護士を養成する学科のみ入学者が極端に減少。全校196人の内、介護福祉学科の学生はわずかに15人ほど。2025年度からは募集を停止することになりました。
島根県でも吉賀町にあった医療技術専門学校が、入学者の減少により2年前に閉校。国家資格である介護福祉士を養成する施設は、2025年度島根県は3校、鳥取県はわずか1校になります。
※松江市内の専門学校も今年度から募集を停止していたため、実質、島根県の養成施設は2校に。
YMCA米子医療福祉専門学校 矢野正博 事務長
「やっぱり大きいのは、福祉の現場に関してのマイナスなイメージが非常についてるということ。その施設を運営するスタッフですね、安全に受け入れて運営をするっていう人員不足による理由で、福祉施設が経営が出来なくなることは起こりうると思います」
■ネガティブなイメージが広がっている介護職
こちらは民間のシンクタンクがまとめた介護職のイメージ調査。社会において必要とされている業界だと思われている一方で、「体力的・精神的にきつい」「給与水準が低め」「離職率が高い」といったネガティブなイメージが高いことがわかります。
こうしたネガティブなイメージを介護の現場はどう感じているのでしょうかー。
■職場改善が進む介護の現場
社会福祉法人 隠岐共生学園 名越 英貴 事務局長
「やりがいに任せっきりで、働きやすさの方を追求できてなかったというところがやはり課題なのかなと思ってます」
働きやすい職場の実現へ。介護事業所では今、さまざまな取り組みが始まっています。
介護士の細田剛史さん。22年前に車関係の仕事から転職し「もちだの郷」で介護士として働いています。
もちだの郷 介護士 細田剛史さん
「利用者さま1人1人とそれぞれの個性があって関わる中で、みなさんの笑顔だったり『ありがとう』という言葉だったり、すごく感謝されるところが、私は好きでこの仕事をしております」
夫婦で介護士をしている細田さん。取材の翌月にどうしても休みたい日がありました。
~スタッフ内の会話~
細田さん
「ちょっとご相談なんですけど、来月娘の誕生日が20日にあるので、ここ有休をとらせていただきます。それともう1つですね、これもまた娘なんですけどイベントがあるので夫婦で休ませてもらおうかなと思いますので、いいですかね?」
同僚
「お互い様です、それは」
細田さん
「ありがとうございます」
■休みやすい職場へ
施設を運営する社会福祉法人隠岐共生学園では、最大20日の有休休暇に加え、子どもの育児に使えるべび育休暇(年3回)、孫の育児のために休める孫育休暇(年3回)という2つの休暇制度を今年から新たに設けました。
※2つの休暇は有休を使い切った場合にとることができます。
これは、ライフワークバランスを実現したいという職員の声から生まれた制度です。
細田さんの同僚の介護士
「お互い子どもさんが小さいとか、うちらも父親抱えたりしてね。分かり合ってもらえて休みをとらせてもらってます」
■子育てと共働き(夜勤を含む)の実現
介護施設のサービスは365日休みがありません。細田さんも早番・日勤・夜勤と大きく3つのシフト制で働いています。そこで大切にしているのは「家族との時間」です。妻の理香さんも介護士として同じ職場で働いているため、夜勤もあります。
仕事と家庭の両立ができるのかー。不安もあったといいます。
もちだの郷 介護士 細田剛史さん
「一度やってみてダメなら(共働きは)止めようと思ったんですけれども、会社の主任さんや上層部の方が娘が1人にならないようにということで、配慮して勤務を組んでくれて希望休も月3回あるので、家族との時間も過ごせていいなと思っています」
平日は家族3人の時間はあまりとれませんが、メリットもあるといいます。
妻・細田理香さん
「夜勤手当の部分でやっぱり介護って給料がどうしても低いというイメージじゃないですか?そこでちょっとプラスになる分、収入面では安定してるかなっていうふうには思います」
介護の仕事と働きやすさ。隠岐共生学園の年間休日数は120日。これも介護施設の全国平均より10日多いということです。
※厚労省によれば、介護施設の年間休日は平均110日
社会福祉法人 隠岐共生学園 名越英貴 事務局長
「給料であったり、休暇であったりっていうところをいかにスタッフに還元できるか?というところが安定して運営していく条件の1つになってくると思います」
■島根県も「職場改善」を促す
島根県では去年から、働きやすさやキャリアアップへの補助など「人材育成」に取り組む事業所の認証制度を作り、業界の職場改善を促しています。
島根県高齢者福祉課 細田浩之 課長
「なかなか特効薬っていうのはないんですけども、入ってきた方を本当に大事にしていただいて、入ってきた方たちが成長を感じられる。そういった職場にしていってもらいたいなと」
ネガティブなイメージを払拭し、社会に必要かつ魅力のある業界へ。
仕事のやりがいと福利厚生の両面の充実が求められています。