【特集】気候変動と農業①「コメ」 生産現場や品種開発の現状は?
特集は気候変動と農業です。
青森地方気象台のデータによると県内各地で気温の上昇傾向が見られ、温暖化対策が進まない場合21世紀末の県の平均気温はおよそ4・7度上昇すると予測されています。
この気候変動に対する現状と取り組みを探ります。1回目のきょうは「コメ」です。
去年の記録的猛暑で県産米は品質の良い1等米の比率が60%台に激減。ブランド米青天の霹靂もデビュー以来初めての特A落ちを経験しました。温暖化が進むことを見据え生産者や県はどのような対策をしているのでしょうか。
★コメ農家 福士広基 さん
「去年は大変だったけれどもそれがあるからことしどうしようということは1年かけて考えて」
藤崎町のコメ農家福士広基さんです。75ヘクタールの田んぼに3つの銘柄を作付けしています。
去年記録的猛暑の影響で県内ではコメが白く濁る高温障害が多発。
福士さんもいつもの年であれば9割を超える1等米比率が3割ほどに激減しました。
そこで導入したのが…。
★コメ農家 福士広基 さん
「「飽水管理」ことしはもう全面すべての田んぼをそれで管理しています (水の深さは)3センチから5センチぐらいかななくなるまで手をかけない」
「飽水管理」は田んぼに水をためず土が湿った程度に保つ水管理で新潟や山形などではすでに行われています。
★県農産園芸課 舘山元春 課長
「これまでは冷害を防止するために 水を深く入れていましたが気温が高いときは逆に水が温まってイネが弱ってしまうので」
高温障害による品質低下を防ごうと県はことし初めて「飽水管理」を呼びかけました。
★コメ農家 福士広基 さん
「追肥も積極的にふだんはやらないけれどことしは暑いと思ったので前もってそれもやっておいて 暑さ対策は農家ができる分まではことしはやってみました」
一方去年の被害を受け国は各都道府県の高温対策を調査。その結果最も効果があったとされたのは高温に強い品種の導入でした。水や肥料の管理が効果的という回答を上回ったのです。
しかし品種開発には長い年月がかかります。県産米の品種開発を進める農林総合研究所を訪ねました。
品種開発はまず別々の品種をかけ合わせる交配から始まります。
★農林総合研究所水稲品種開発部 神田伸一郎 部長
「イネの花粉は43.3℃のお湯に7分間つけるとイネの花粉だけ死んでめしべは生きている状況になる これにお父さんとなるものの花粉をかけてあげると 別の品種や系統の子どもが実る」
★青森放送 能代谷俊朗 記者
「きょうはこちらの13パターンの交配の組み合わせで作業が行われます」
研究所ではまいとし150の組み合わせを交配しています。
イネのめしべに別の品種の花粉をかけていきます。
★農林総合研究所水稲品種開発部 神田伸一郎 部長
「これをトンとやると花粉がいま散りました」
交配したイネはハウスで育てられ秋に種を取り出します。そして種まきと収穫を繰り返し品質や食味、寒さや病気への強さなどで選抜します。
特に性質がすぐれた系統は6年目に「青系」という名前が付けられ、今度は高温に強いかどうかを調べる試験が行われます。
★農林総合研究所水稲品種開発部 神田伸一郎 部長
「外よりも4、5℃高くなるような設定をしておいて特にイネの白未熟粒は夜の温度が高いと出やすいという報告がありますので夜の温度をなるべく25℃程度を保てるような感じで管理をしてより白未熟粒が出やすい環境をつくってあげています」
このような試験を通して優秀なものだけを残していくので、ひとつの品種ができるまで10年以上の長い年月がかかります。
★農林総合研究所水稲品種開発部 神田伸一郎 部長
「ここで今ある従来の青天の霹靂とかはれわたりよりも品質の良いもの白未熟粒の発生が少ないものが選べれば確実に(暑さに)強いと言えると思います」
今の県産米は高温への強さは「中程度」ですが、高温に「やや強い」とされる系統も生まれています。
★農林総合研究所水稲品種開発部 神田伸一郎 部長
「青天の霹靂やはれわたりよりも昨年の高温でも白未熟粒が少ないものを選抜して青系229号青系230号という2系統を育成していますこちらは2系統とも従来の品種よりも 高温耐性があるのかなと考えています」
ただ歴史的には冷害に見舞われてきた青森県。高温に強いかを調べる試験は10年前から行われていますが品種開発は遅れているのが現状です。
★農林総合研究所水稲品種開発部 神田伸一郎 部長
「青森よりも南の方で高温登熟が重要視されているのでやっぱり正直なところ南の品種の方が特性としては上回っているのは間違いない 青系229号とか230号をより強くするという他県のより強いものを交配するとかあとは従来の青天の霹靂とかはれわたりにより高温耐性のあるものを交配して おいしくて高温にも強くて寒さにも強くて病気にも強いと良いとこ取りができればというのが理想」
高温にも強くおいしい県産米を作るために将来を見越した試行錯誤が続けられています。
「気候変動と農業」、あすは全国一の生産量を誇る「りんご」です。