徐々に視覚機能が低下…「ロービジョン」を知っていますか?見えづらいと感じたら
きょうのニュースなワードは『ロービジョン』。皆さん、聞いたことがあるでしょうか?
眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正しても視力が0.5以下、視野が欠ける、ひどくまぶしいなど、視覚機能の低下によって生活に何らかの支障が出ている状態のことです。
高齢化に伴って増加傾向になると予測されていて、愛媛県内では2030年、2万人が「ロービジョン」になると推定されているということです。
見え方に不安がある人、誰しもが頼れる相談所を目指して…松山盲学校が奮闘中です。
先月、松山市の三浦工業に登場したのは…マッサージスペースです。
丁寧な施術と会話で社員たちを癒していたのは、松山盲学校・理療科の生徒たち。現場実習に訪れていました。
今年で創立117年を迎える松山盲学校。県内で唯一の視覚障害者のための学校で、現在、小学部から高等部まで18人が学んでいます。
全校生徒の半数、20歳~55歳の9人が所属するのが…解剖学や生理学など医学の基礎を学び、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格の取得を目指す理療科です。
理療科に通う生徒はみなさん、年齢や見え方、入学した目的は様々で、多くが生まれつきではなく病気などで徐々に視覚機能が低下した“中途視覚障害者”です。
今年入学した和田由希子さん、55歳。
本科保健理療科 1年 和田由希子さん(55):
「私は網膜色素変性症といって段々見えなくなっていく病気なんですけど、近視の方が眼鏡外した感じ。さらに私は霧状視野が始まっているので、霧の中にいる感じ」
発症前は、絵画教室で絵の先生をしていました。
和田さん:
「老後に備えて資格をとった方がいいかなと思って入学しました」
いま、あん摩マッサージ指圧師の国家資格取得を目指し、寮生活をしながら勉強中です。
そして…
丸山さん:
「これ重りが一枚10キロなんで片手が20キロついてることになるんですよ」
記者:
「両腕で40キロ?すごい」
記者:
「すごい筋肉ですね」
丸山さん:
「継続は力なりってよく言いますけど、それが体で表現できたら一番かなって思って」
放課後に寮で毎日筋トレに励む丸山颯人さん、25歳。20歳の時、「レーベル遺伝性視神経症」という難病を発症しました。
専攻科理療科 3年 丸山颯人さん(25):
「今は電気などの光がなんとなく分かる程度なので、皆さんの顔の表情とか服の色味などは全然分からない状態ですね」
2年前、盲学校に入学し、「いつか自分の治療院を持つ」という夢に向けて勉強しています。
丸山さん:
「患者さんが自分の施術を受けた中で気持ちがよかった、すっきりした楽になったって意見が聞けたら自分の幸せにもつながっていくので、それを求めて頑張っています」
そんな松山盲学校でいま、熱く燃えているのが…
深井校長:
「落胆しないで一緒に将来を考えませんか?という成人向けのチラシ、今年作りました。どうでしょうか、効果は出るでしょうか…?」
今年度赴任した深井校長です。盲学校を見え方に不安を抱える人みんなの“相談所”にしようと、奮闘中です。
松山盲学校 深井千代校長:
「見え方、見えにくさは本当に千差万別。もっと本校が持っている技術、知識や知恵を県民の皆さまに使って頂けたらなと思ってます」
深井校長、まずは学校でどんなことができるのかを知ってもらおうと、自ら営業部長となってこの半年間で県内140か所以上の自治体や企業を訪問。
子供向け、成人向けに新たにチラシを作るなど、学校のPRに力を入れています。
深井校長:
「診断や診療は本校ではできませんけど、日常生活を豊かにしたり一緒に考えるということは、本校は一緒にできると思いますね。地域で困ってらっしゃる方につながりたいっていうのが、教職員みんなの思いです」
盲学校だからこそできること。例えば…
保健理療科 2年 菰田雅人さん(51):
「アイフォン、アイパッドとかも そうなんですけど、視覚障害者用の教えてくれる場所がないんです。ここ来てみて、それもひとつの目的だったんですけど」
今や生活には欠かせないパソコンやスマートフォンなどICT機器の使い方です。学校では2学期から新たに、毎週火曜日に「ICT講座」を開講し、画面表示を音声に変換するソフトなど、視覚障害があっても機器を使えるようにする道具やコツを専門の教員が伝えています。学校の生徒でなくても見えづらさがある人であれば誰でも無料で受講でき、オンラインでの指導も可能です。
盲学校が「みんなの目の相談所」を目指す理由。それは…
丸山さん:
「目が見えなくなって、盲学校に入るまでの期間、自分は家の中で引きこもりがち、全く外にも出ずに自分の目の病気と向き合うのにかなり時間がかかってしまって」
和田さん:
「5~6年半引きこもりみたいな感じだった」
菰田さん:
「勤めてた会社も仕事できなくなって、2年間くらい休職して家でずっと『どうしようか』と考えてたんです」
見えづらくなった、その先の生活を一緒に考えたいからです。
視覚障害が原因で生活に支障をきたしている人の支援を行う、ロービジョンケアの専門医宇田医師もその重要性を訴えます。
いしづち眼科 宇田高広医師:
「最初は皆さん突然見えなくなると喪失感、受け入れられない状態が続きます。そこで情報を得られないと5年間くらい引きこもってしまうような状態で、時間だけ過ぎてしまうというデータもあります。例えば整形外科とかだとリハビリがあって、そのままつながっていくんです。けれども、眼科の場合はそれがなかったんですね。見えなくなったら終わりというか治療法ないから、となってたんですけど」
宇田医師は、11年前に「みきゃん愛ネットワーク」を立ち上げ、県内の教育機関や、病院の関係者などと情報共有し、見えづらさを抱える人の支援につなげるための活動を展開しています。
いまは、春から県内の眼科などで患者に手渡してもらうための新たなパンフレットを制作しています。
宇田医師:
「とりこぼしなく、切れ目なく医療から福祉、教育の方につなげられたらいいなと思います」
いま、見え方に悩んでいるあなたへ。理療科で学ぶ皆さんが伝えたいことは。
専攻科理療科 3年 松浦佑美さん(24):
「今は自分ひとり孤独を感じられてる方も多いと思うんですけど、学校に入学してから病気、見え方は違うんですけど同じ視覚に障害がある仲間ができるので、孤独感はなくなって救われる面はあると思います」
本科保健理療科 1年 和田由希子さん(55):
「盲学校もそうですし、視聴覚福祉センターとか、助けてくださるところはありますので、まずは気軽に相談に来られたらいいのではないかなと思いますね」
専攻科理療科3年 丸山颯人さん(25):
「勉強をしていって資格をとろうというのが第一目標であったのに、普段の寮や学校内でのたくさんの人とのふれあいの方に楽しみを見いだせるようになってくるというのもよさだと思うので、いまはそれがすごく大きいですね、自分の中で」
本科保健理療科 2年 菰田雅人さん(51):
「自分で移動もできないし、読み書きもできなくなってしまうんで、そんな中で一歩踏み出して学校の教育相談に電話して、生活指導の先生が対応してくれたおかげで今があると思うので、一歩踏み出したら先が広がってくるとは思う」
松山盲学校では、年齢や病気に問わず随時、見え方に関する相談を受け付けています。