防災グッズセットを買ったまま置いていませんか? プラスしたい「あなたに合った備え」とは
愛媛・高知で最大震度6弱を観測した豊後水道での地震から一か月。元日に発生した能登半島地震などの影響もあり防災グッズの需要が高まっています。
もしもに備えて、何を準備しておくかが重要ですが、これまでの大災害で問題となっていたのが長期避難をした時の食事の栄養バランスです。物流が滞り調理方法も限定される災害時。しっかり備えておかないと最悪の場合、災害関連死につながるおそれもあります。
私たちが考えておきたい災害時の栄養バランスを専門家に聞きました。
通常の3倍の需要!最大震度6弱の地震を受け購入進む「防災グッズ」
愛媛県内のホームセンターでは4月17日の豊後水道での地震を受けて直後から防災グッズを買い求める客が急増していました。
コーナン三津浜店 林 耀平さん
「長期保存がきく商品が結構売れておりまして、通常のだいたい3倍くらいは売れている」
水を使わないタイプの防災食など、一部の商品は完売し入荷待ちの状態だったといいます。
身近なところで発生した地震の影響で、注目が集まっている防災食。
しかしDCMが2021年に全国のホームセンターで実施した防災食の調査では炭水化物やたんぱく質が摂れるものを備えている人はおよそ6割、一方でビタミンを摂取できるものを備えている人はおよそ4割となり、備蓄の「栄養バランス」を見落としている人が多いということが分かっています。
2016年の熊本地震などでも注目された長期避難時の栄養バランス。
少しでも健康に避難生活を送るためにはどんな準備が必要なのでしょうか。
災害時には何が足りなくなる?必要な栄養素とは
災害時の栄養バランスについて災害食が専門で、松山東雲短期大学の栗原和也講師に聞きました。
「発災から72時間は生きていくために水分やエネルギーの確保が重要だが発災4日ごろから、タンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維などが不足しやすくなります。避難が長期となり持病を悪化させるなどすると最悪の場合、災害関連死につながるおそれもあるんです」
大規模災害時には物流が滞るだけでなく、電気やガスなどのライフラインが止まることで食品保存や調理方法が限定されてしまい、日常のように十分な食事をとることができません。
また、避難所で配られるものはおにぎりやパンが多く塩分や脂質の摂りすぎにも注意が必要です。
栄養素に偏りが生まれるとどんな不都合があるのでしょうか。
まずタンパク質は筋肉や骨などを作る栄養素のため、長期間不足すると筋力が衰えます。特に高齢者は筋力が落ちてきている中、避難所であまり運動せずタンパク質も不足していると寝たきりなどになりやすく、その後自立した生活が難しくなるおそれがあります。
また水溶性のビタミンが不足するのも注意が必要です。ビタミンB群やCは体の中に多くを貯蔵できないため、毎日ある程度決まった量を取り続けないといけません。バランスを崩した状態が続くと欠乏症になるおそれもあります。またストレスによってビタミンCの消費量が多くなり免疫力が落ちることで風邪や感染症にかかりやすくなるため注意が必要です。
これらの栄養素を蓄えるために米やパンなどのエネルギー源となるものに加え、肉や魚の入った缶詰、野菜の入ったレトルトのおかず、保存のきく乾燥野菜や野菜ジュース、粉末状の野菜もあるため主食、主菜、副菜の部分を意識して備えると良いということです。
愛媛で広がる「栄養を備蓄」するための活動
BISAI-FARM 林昭子代表
「ブロッコリーやキャベツ、カリフラワーと…20種類くらい植えていたが収穫が終わったものもある」
宇和島市内で野菜を栽培している林さん。農家ではなく、実はこの畑で災害時用の野菜を栽培しています。
地域の耕作放棄地を活用し育てた野菜を、ギリギリまで収穫せず畑に「備蓄」。災害時には炊き出し用に使い、普段は子ども食堂や一人親家庭に提供しています。
災害時を想定した栽培のため、利用する耕作放棄地は津波などの避難場所の近くにあります。
林さんがこの活動を始めた理由は去年参加した東日本大震災の視察ツアー。
BISAI-FARM 林昭子代表
「視察ツアーで災害が起きた時に野菜が不足しているということをいろんな所から聞いた。実際に2018年の西日本豪雨のときにも、宇和島市吉田町で避難所生活をしていた人の弁当も野菜の比率が少なかったというのも被災者の方から聞いている。こういう農園ができていったら災害時に野菜不足は解消できるのではないか」
林さんは農作業を通じた地域の多世代交流も含めてこの活動を続けています。
そしてもう一組。松山市にある済美高校の家庭クラブの生徒たちが取り組んでいたのは、災害時の栄養バランス問題を解消できる商品開発です。
済美高校家庭クラブ 山田麗さん
「市役所の方との会話で被災地で配られる弁当とか栄養の偏っているものが多いと話があったので、それだったら私たちで栄養の偏りのない防災食をつくって災害に備えられないかと考えました」
メンバーの多くは栄養や調理など食と健康について学ぶ食物科学コースの生徒ということもあり、南海トラフ地震など未来の災害に備えて、地域のために自分たちが何かできないかと動き始めた活動です。
開発しているのは、長期避難の際に不足しがちな栄養素をバランス良く摂取できるふりかけ作り。
済美高校家庭クラブ 藤原杏優菜さん
「ごはんにそのままかけるよりも混ぜる方が摂れる量が多くなりますし、おにぎりだったらラップで完結するので洗い物も少なくて済みます」
生徒たちは、地域の専門家とともに栄養バランスや風味についてアドバイスを受けながら商品開発を進めていて今後、実際の炊き出しを再現し、衛生面や調理効率などを研究した上で商品化していくということです。
必要な防災食は「家族構成や健康状態」で変わってくる
松山東雲短期大学の栗原和也講師は、防災食を考える上で、家族構成や健康状態も考えることが重要だと話します。
▼ 飲み込む力や噛む力の弱い人
・避難所で火や電気が使えるとは限らないため調理方法が限られます。避難所で配られるものが硬いという方はレトルトなどの柔らかくなっている商品を準備しましょう
▼ 乳幼児・妊婦
・妊娠中の人はつわりで食べられないことも想定した備蓄を。また胎児の発育に必要な葉酸やタンパク質などの栄養素を防災食やサプリメントなどで補給できると安心。また便秘になりやすいため食物繊維も考えましょう。
・ 乳幼児がいる人は、粉ミルクなど調乳ができるような備えを水が使えるかわからないため、缶に入ったミルクを準備するのも有効です。避難所でストレスを感じると母乳がでないこともあるため母乳が出ないことを想定した準備が必要です。加えて水が使えず、消毒ができない可能性もあるので赤ちゃんのために様々な状況を想定して準備をしてあげましょう。
・ 離乳食も調理が難しいことがあるため瓶に入ったものや水で戻せる乾燥したものを備えておくと安心です。
▼ 育ち盛りの子ども
・ 成長にはエネルギーだけでなく、タンパク質が重要骨を作る大切な時期なので、カルシウム成長期には貧血を起こしやすいため、鉄分などもバランスよく備えてあげましょう
▼ 高血圧などの疾患のある人
・ 避難所で配られるものは総菜パンやカップ麺など塩分が多く含まれるものが多いため減塩を意識した食料を準備しておきましょう。その際に鰹節などの「風味」をプラスして塩分が少なくてもおいしく食べられるような工夫をすると良いでしょう。
栗原さんは南海トラフ地震などの大規模災害を念頭に「避難した後も、災害関連死や病気にならないようにするために、日頃からどういった食事がバランスが良い食事なのかを知ることが重要。食選択の力を身に着けておいてほしい」と呼び掛けます。
災害が発生した直後をイメージするだけでなく、助かった後どのように生活を送り、再建へ歩んでいくのか。
地震が相次ぐ今だからこそ、しっかりイメージして備えをすることが求められています。