センバツ高校野球でホームラン数が激減…「飛ばない」バットにどう向き合う?強豪校に聞いた戦術に与える影響は
「12本から3本」。これは先日、群馬・健大高崎の初優勝で幕を閉じたセンバツ高校野球での「大会のホームラン数」です。
12が去年、3が今年の大会での数字です。去年は記念大会で試合数が多かったことを差し引いても、4分の1に減りました。
過去10大会を見てみても…3本という数字は、高校野球に金属バットが導入された1975年の47回大会以降、最も少ない本数となります。
この要因として挙げられているのが、今大会から正式に導入された新基準バットです。
様々なメディアでも取り上げられ「低反発の飛ばないバット」とも呼ばれています。
新基準バットが導入された目的は、選手の技術の向上により打球のスピードが上がり、最近の甲子園でピッチャーに打球が直撃して、大怪我を負うケースがありました。
そこで投手の安全対策に重点を置き、反発の少ないバットがこの春から正式に導入されることになったのです。
新基準のバットを使う選手たちの反応は
春夏合わせて3回の甲子園出場経験のある松山聖陵高校。
去年の10月から、新基準のバットで練習をしています。
田尻温人選手:
「(打った時の)感覚自体はあまり変わらないんですけど、打球の飛び方とかっていうのは全然違う。前までだったら、外野まで届いていたような打球が、外野に届いていなかったりとか、越えそうな打球も外野に捕られるような打球が多くなったりとか」
森悠興選手:
「前のバットは外野とかどんどん超えていくイメージだったんですけど、ライナーとか、強い打球だったらいけるなってイメージがあって。フライはあんまり伸びないかなって印象があります」
“新基準バット”これまでと何が違う?
新基準バットの大きな違いは2つ。
①ひとつめはバットの直径です。
これまでのバットは最大直径が67ミリでしたが、新基準バットは最大64ミリこれまでのものと比べ、3ミリ細くなっています。
②そしてもう一つは、バットの内側。厚みの変化です。中の金属の厚みが、これまでの3ミリから4ミリと、肉厚になっています。
それによって「バットの反発係数」が抑えられるのです。
日本高野連の実験では、このバットを使うことによって、打球の初速は3.6%減少。飛距離は5mほど落ちるという結果が出ています。
高校野球で金属バットが使用できるようになったのは1974年から。木製バット最後の年となった1973年のセンバツでは、今治西と江川擁する作新学院が準々決勝で対戦し、今治西が8者連続を含む20三振を喫し敗退しました。(今西0-3作新)
金属バット解禁2年目の1975年の夏の甲子園は金属バットを上手く使いこなした新居浜商業が旋風を巻き起こし、甲子園準優勝の快挙を成し遂げました。
木製と比べてバットの芯が広く、反発力の強い金属バットが導入されて50年。
トレーニング方法の進化や、選手の技術向上にともなって、金属バットにも大きな変化が訪れたといえます。
強豪校の監督たちの見解は
沖縄尚学高校の選手として、センバツで優勝経験のある荷川取監督は…
荷川取秀明監督:
「やはり理にかなった体の使い方、正しい体の使い方。木のバットと似たり寄ったりで、やっぱり芯に当てる技術。そういったのをまたですね、指導者も生徒も見つめ直すことで、(新基準バットを)導入することによってのプラスの部分というのもこれから先、出てくるのではないのかなっていう風に思っている」
県内でも、春の大会から導入されている新基準のバット。
この日、対戦相手として相見えた、甲子園経験のある両監督にお話を伺いました。
春6回、夏5回の甲子園出場経験のある、松山商業の大野監督は…
松山商 大野康哉監督:
「バットの影響は打球のスピードですとか、やっぱり飛距離ですね。そういったものも確実に表れている。外野手の守備範囲も明らかに変わってきますし、内野手のダブルプレーが、かなり取りやすくなるのではないか」
一方で、得点チャンスの作り方、捉え方に変化が出てくるのではないかという見方を示しました。
松山商 大野康哉監督:
「角度を出して飛距離を出すような打撃については、これから良いピッチャーに対しては通用しないと思う。やはり全員が低い打球を狙っていくということになると思う。やはり足(機動力)を使いたいですよね。どこのチームも足を使いたいと思うんですよ。今までの打って繋いでいくだけではなくて、小技や足を絡めて、常にランナー3塁を目指す。今までのように、ランナーセカンドが得点圏っていう風には思うことが難しいと思う。ランナーは(確実に)3塁に進めるような取り組みが各チーム出てくるんじゃないか」
そして、去年夏の愛媛大会を制した川之江の菅監督は、守備面での影響を指摘します。
川之江 菅哲也監督:
「やはり芯を外れた打球に関しては弱いなって感じますので、内野手の動きだったり、外野手も最後まで追えば捕球できる打球は増えているのかなと。ベンチで見ていても、詰まったのか捉えているのかがちょっとわかりにくい打球はある。前なのかなと思ったら打球が伸びたり、後ろに行ったのかなと思えば前だったり」
一方で「飛ばないバット」に対応するために選手の技術が向上し、対応できるようになるという見方を示します。
川之江 菅哲也監督:
「この1年、2年は多少影響があると思っているんですけれども、バッティングの技術が、この影響で高まると考えている。3年ぐらい経った時にはそれなりの球は打てるようになってくるという風に感じています。しっかり振ること、しっかり捉えること、うちから出して(スイング)っていう技術的なところを高めていかないと、このバットには対応できないかなと思っています」
春の愛媛県大会はあす決勝、そして夏の大会へと続きます。
新基準バットの登場によって、それぞれのチームが、今以上に特色ある戦い方になるかもしれません。ぜひ注目していきましょう。