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愛媛FCに見え始めた「遠くの景色」最強の盾を貫け【J3第33節 愛媛vs.奈良プレビュー】

2023年10月28日 10:29
愛媛FCに見え始めた「遠くの景色」最強の盾を貫け【J3第33節 愛媛vs.奈良プレビュー】
愛媛FC 山口竜弥選手

明治安田生命J3リーグは第33節を迎え、首位の愛媛FCは、28日(土)に、アウェーで7位の奈良と対戦する。

前節は佐藤諒の2ゴールで相模原を下し、今季6度目の連勝を飾った愛媛。2位鹿児島に勝点差7をつけ、今節含めて残りは6試合となった。

「一時期の壁というか、そこは乗り越えた感はあるかなと」

指揮を取る石丸清隆監督は、そう切り出した。勝ち点差を見れば、28節・鹿児島戦、29節・富山戦に連敗したショックは完全に払拭し、再び独走体制を築きつつあるように思える。

「ただ前節の勝利で、周囲の雰囲気も含めて、ちょっとまたその(連敗前の)雰囲気に近いなというような… しっかり、目の前の試合に意識させたいなというのはある」

「優勝」「J2復帰」

前節の勝利で、周囲も当然ながらそれを意識しはじめる。そしてそれは、重圧という形で選手たちに降りかかる。鹿児島・富山に連敗する前に感じたその雰囲気を、石丸は敏感に感じとっている。

「今までもずっとそうだったけど、どこかで意識がちょっと違う方向に行っていたことがあった。今週は、毎日の練習や、次の相手にどれくらい100%で挑めるかっていうところに焦点を当てている」

今節の相手・奈良は前節、アウェーで岐阜を3−1で下し、3試合ぶりの勝利を飾った。自動昇格圏の2位・鹿児島との勝ち点差は7。今月24日にJ2ライセンスが条件付きで交付され、昇格に向けクリアすべき条件は戦績のみとなっている。

愛媛のあとは、2位鹿児島・3位富山との「直接対決」も控えており、ここで首位を叩いて勢いを加速させたい試合となる。

「ボールは持つけど、攻撃的というよりは、むしろリスク管理のポゼッションなので難しい。攻撃的に来てくれるならやりやすさはあるんですけど、攻撃はあまり激しくは来ない。それでもあの牙城は崩したいなって思うんです」

最終ラインから丁寧につないで試合をコントロールする相手に「付き合わなきゃいけない状況も出てくる」と石丸は話す。

「ゲームの中で全てはコントロールできないから、多少我慢も必要。でもそのスタンスを持ち続けても、攻撃する回数は増えない。行くところ、行かないところをしっかり区別してやっていきたい」

相手のブロックをどう動かし、どこを突いていくか。

「優勝」「昇格」という景色が見えるところまで来たからこそ、改めて目の前のことに集中させなければならない。

「みんな、すぐに遠くの景色を見たがるんですよ」

優勝争いの話を向けると、石丸はいつもそう言って笑う。

結果とは、目の前にあるものの積み重ねによってもたらされるもの。7月に首位に立って以降、石丸は常にそう言い続けてきた。

一方で「遠くの景色」を見たいという欲求を、力に変える者もいる。

「奈良も昇格への望みをかけてやってくる。けど僕らも絶対に昇格しなければいけない強い決意があるし、それは他のクラブとは比にならない大きなものがあると自分では思っています」

31節北九州戦、32節(前節)相模原戦と連続で途中出場した山口竜弥だ。

今季、不動のサイドバックとしての地位を確立しているもののケガもあり、28節・鹿児島戦から3試合欠場していた山口は、「驕りとかではないんですけど」と前置きしてこう言った。

「ケガで3試合出られなくて。自分がチームに利益を与えることができない悔しさを痛切に感じていて。実際、チームも勝っていなかったですし… 自分が復帰したときはプレーだけじゃなく、普段の立ち居振る舞いであったり、試合以外でも、チームに何か利益を与えられるんじゃないか?と考えていました」

前節・相模原戦も後半から出場。左サイドの推進力、積極的なクロスと運動量で、しっかりと存在感を見せた。

「自分がストロングポイントでないといけないなと思っていますし、このチームに来た時からそういう決意を持っているので。自分のところから作って、試合結果を左右するっていう気持ちでやっているし」

まっすぐな選手である。開幕当初から「優勝」「J2復帰」、そして「愛媛をオンリーワンのチームにしたい」と言い続けてきた。

「技術や個人戦術というよりかは、チームの結束力と強いメンタリティー。どれだけ自己犠牲で戦えるかどうかが、残り6試合、大きく左右してくると思います」

山口の場合は、「遠くの景色」を常に見据えているからこそ、目の前のことに集中できるのだろう。

「愛媛FC自体、昇格の経験が多いわけじゃないですし、それは慣れていないから浮き足立つものだと思います。だから、みんなで乗り越えていかないといけないし、その中で今は成長できる。チームとして上積みできる最大のチャンスだと思っているので。ここが伸びしろだと」

言葉は熱く、しかし冷静に未来と現状を見つめながら。

「残り6試合、それを意識して臨んでいけば、必ず愛媛FCには明るい未来が待っていると、強く感じています」

32試合を戦って、リーグ最少・25失点の奈良と
32試合を戦って、リーグ2位・50得点の愛媛。

相対する矛と盾。最強の盾を前に、矛の「伸びしろ」はいかほどか。

前回対戦は6月17日の第14節。ホームの愛媛がベン・ダンカンのゴールを守り切り、勝利している。リーグ屈指の盾を、愛媛の矛が貫くことができたなら、優勝、そしてJ2復帰という「遠くの景色」に矛盾はなくなるはずだ。