身近に迫るクマ 私たちはどう向き合う? 12月でも出没 冬眠はしない?
距離が近づく人とクマ
12月1日、北海道羅臼町に設置されたカメラの映像です。
ヒグマがにおいを付け存在を示す「背こすり」をしています。
(武田記者)
「カメラに映っていたこちらの木がカメラに映っていたクマが背こすりをしていた木。爪のあとが残っていて高いところは2メートル50センチくらいまで傷がある」
木にはクマの爪でひっかかれた跡や毛がついていました。
(中標津猟友会羅臼支部 桜井憲二さん)
「ここはクマの通り道で足跡がいっぱいつく。俗にいう『獣道』ですよ」
カメラを設置したのが羅臼町の漁師で猟友会に所属する桜井憲二さんです。
地元にはどんなクマがいて、どんな行動をしているのか。
桜井さんが住む町内会ではクマの生態を把握しようと、春から冬にかけ、町内の数か所にカメラを設置し、観察しているといいます。
桜井さんたちが仕掛けたカメラには先ほどのような「背こすり」や木登りをするクマ。
時には地面に腰を下ろしてじっとする様子も。
川の近くに設置されたカメラには川岸を歩いたり、水の中を歩くクマも映っています。
ほかにも親子とみられるクマなど、桜井さんが確認したところ、全部で7、8頭の個体が映っていたということです。
(中標津猟友会羅臼支部 桜井憲二さん)
「(カメラは)7、8年前からつけていたけど、年々増えてきましたよね。前は1、2頭だったのが頻繁に映るようになった。クマと人との距離がめちゃくちゃ近い」
桜井さんが言うように、道内では年々クマの出没が増えていて、私たちの日常生活にも影響を及ぼしています。
北海道内では市街地にも出没し、住宅の庭を歩いたり、札幌市でも、住宅の庭でクマが草を食べる様子がみられました。
(山﨑記者)
「ハンターらが船着き場に戻ってきました。発見された人体のようなものが警察車両に運び込まれています」
痛ましい事故も起きました。
ことし5月、釣りの名所でもある幌加内町・朱鞠内湖で、釣りに来ていた男性がクマに襲われ死亡しました。
10月には道南の福島町・大千軒岳で、登山をしていた北大生と消防士が、それぞれ同じクマに襲われ、北大生が死亡しました。
クマのニュースでは「OSO18」の駆除も大きな話題となりました。
道東の標茶町などで、4年前から60頭以上の牛を襲い、通称「忍者グマ」とも呼ばれたOSO18は今年の流行語にも選ばれるほど。
一方、北海道では、冬眠するはずの12月に入っても市街地でのクマの出没が続いています。
今、自然環境で何が起きているのか。
私たちはどうクマと向き合っていけばいいのでしょうか。
流行語にも・・・2023年のクマ
振り返って見るとクマのニュースの多さが目を引いた1年でした。
北海道内の今年1年のクマによる人身事故は5月の幌加内町朱鞠内湖と、10月の福島町大千軒岳の事故で2人が亡くなっているほか、7人の方が負傷しています。
また8月には2019年から道東地方で66頭もの乳牛を襲っていた「OSO18」が駆除されたというニュースもありました。
道警に寄せられたクマに関する目撃情報や痕跡の通報を表したグラフではことしが異例の多さだということがわかります。
なぜこれほどクマの出没が多かったのかでしょうか。
2023年の新語・流行語のトップテンにはクマに関する用語が選ばれました。
授賞式に登壇したのは「アーバンベア」という本の著者でクマの研究で知られる酪農学園大学・佐藤喜和教授です。
(授賞式での佐藤教授)
「こういう言葉が少しでも流行しないように、研究者としてできる限りのことをしたいと思っています」
流行語になるほどクマの話題が多かった理由について佐藤教授は―
(酪農学園大学 佐藤喜和教授)
「年々増え続ける傾向にはあるが、その中で特に突出して多かった理由は秋のエサ不足と言うか、木の実の不作・凶作傾向が北海道内でも広くあった」
「やはり1990年代以降クマの生息数が徐々に回復をして、それに伴って分布が人の生活圏の近い方まで広がってきている」
「人の生活圏の近くで定着してきたクマたちというのが、人の存在とか人間社会のさまざまなものに慣れてきている。それほど身近に音や気配を感じても怖がらず生活できるようになっているというようなことが影響している」
Q12月に入ってからもクマの出没が多い印象だが、冬眠に入っていないのか?
「基本的には北海道のヒグマの場合は12月、今ごろから下旬にかけて、かなり個体差はあるが、どんどん冬眠に入っていると思う」
「今年のように秋の木の実が少なくて、森にエサが少ないのであれば、早い段階で冬眠に入ってしまうだろうと思う」
「いっぽうで最近のように雪が少なく、いつまでも森の中で地面まで見えている状況が、去年もそうだが、ことしも同じような状況になっている。そうすると地面に落ちた木の実などがいつまでたっても見つけられるような状況なので、エサさえあれば冬眠に入るのが遅くなるかもしれない」
増え続けるクマ・・・私たちはどうする?
(授賞式での佐藤教授)
「人に慣れ、増え続けるクマに対し、佐藤教授は対策の見直しを訴えています。単なるクマ問題と問題を問題を矮小せず適切な予算と専門人材の育成をお願いしたい」
佐藤教授はこれまでのクマ対策では不十分な段階に来ていると話します。
(酪農学園大学 佐藤喜和教授)
「何かあった時にだけ対応できる仕組みはやっぱりもう不十分で、日頃からいつでも備えておいて、そういった問題が起きないような対策をしていく」
「そう考えると、日常の中で、例えば大雨、台風、地震、津波に備える地域防災のような考え方で、ハザードマップを作ったりとか日常的にモニタリングをして異変があった時にはすぐに対応できるような準備をしたり、本当に地域防災としてクマに強い地域づくり、クマが進入できない街づくりというのを進めていく。そのための予算と人を配置するっていうことが何よりも大事だと思う」
ことしのクマに関する話題でいいますと、駆除をしたハンターや自治体への苦情が相次いでいることについてこの番組でも取り上げました。
佐藤教授は「クマとは共存できない」「クマを駆除しないで欲しい」という極端な考えの間に答えがあると話しています。
人間側がクマが出て来ないような街づくりをしっかりした上で、出てきたクマに対しては駆除をしますよ、ときちんと説明できるような状況にすることが大事だと話しています。
そして市民もクマ対策は行政がやることと他人事の意識ではなく正しい知識を持って正しく恐れる、もしもの時にどう行動できるかについて考えてほしいということです。