損害賠償求める民事裁判も始まるなか… 乗客家族「謝罪してほしい」 知床観光船沈没事故
知床観光船の事故から逮捕まで、およそ2年5か月。
桂田容疑者の、事故後の対応に家族の怒りが高まる中、調査で明らかになったのはずさんな安全管理体制でした。
(井上純一カメラマン)「知床半島沖合の上空です。観光船の姿は見当たりません」
2022年4月23日、乗員・乗客26人を乗せ、海底120メートルに沈没した観光船KAZUⅠ。
20人の死亡が確認され、いまも6人の行方が分かっていません。
事故から10日後に、水中カメラが撮影した、KAZUⅠの船内。
水深およそ113メートル、水温2度と表示されています。
海水が勢いよく流れ込んだ衝撃か、窓ガラスは大きく割れ、座席には事故の被害者のものとみられる、黒いリュックも確認できます。
(桂田精一容疑者)「この度はお騒がせして申し訳ありませんでした」
「知床遊覧船」の運航管理者を務めていた、桂田容疑者。
事故当日は荒天が予想され、ほかの観光船の船長が止めたにもかかわらず、KAZUⅠは出航しました。
(他社の観光船船長)「僕は止めましたよ。行くんじゃないよ、だめだよとは言いました」
桂田容疑者は会見で―。
(桂田精一容疑者)「海が荒れれば引き返す条件付き運航ということを、豊田氏と打ち合わせ当時の出航を決定いたしました。午後に天気が悪くなる場合は、船長判断で戻ってくることを長年やっております」
会社はとりあえず海を出て、荒れたら引き返すという「条件付き運航」を行っていたのです。
これは、会社が作成した運航基準です。
風速8メートル以上、波の高さ1メートル以上で運航しないと定めていますが「条件付き運航」の文字はどこにもありません。
KAZUⅠの船体にも問題が―。
事故原因を調べていた運輸安全委員会は、去年9月公表した報告書で、船体前方のハッチのふたに不具合があったと指摘。
船の揺れでハッチが開いて、海水が入り浸水が広がったことが、事故の直接的な原因と結論付けています。
(運輸安全委員会 最終報告書より)「本件会社社長は、船に関する知識も経験もなく、船長に対して助言等の援助を行う能力はなかった」
帯広市内に住む男性です。
観光船に乗っていた7歳の息子と母親が、いまなお行方不明のままです。
事故の前日、網走の観光地を楽しむ動画が送られてきたといいます。
そして事故当日の朝、「今から船乗る!」というメッセージが、最後のやりとりになりました。
(息子と母親が行方不明 帯広市の男性)「ただただ桂田が許せないという思いで、そういうのが強いですね。なぜ、こんなにたくさんの人が亡くなったり行方不明になったりしていて、なぜ事件をおこした張本人が、いまも普通に生活していられるんだろうと。何不自由なく普通に暮らしている。ゆるされないなと」
STVの取材に桂田容疑者は―。
(武田記者)「報告書の結果でましたが…」
桂田容疑者は、事故後に会見を一度開いたきり取材に応じず、家族の前で直接謝罪もしていません。
(山﨑記者)「被害者家族の弁護団が、訴状を提出するため札幌地裁に入ります」
ことし7月、乗客の家族ら29人は桂田容疑者に対し、およそ15億円の損害賠償を求める裁判を起こしました。
(小柳さん)一方で裁判に参加しない家族も―。
福岡県久留米市の小柳宝大さんの父親です。
カンボジアで働いていた宝大さんは、一時帰国した際に知床を訪れ、事故に遭いました。
宝大さんはこれ以上争うことを望まない―。
父親は裁判に参加しないことを決断しました。
しかし―。
(宝大さんの父親)「知床遊覧船と桂田氏を許したわけじゃないですよね。謝罪はしてもらいたいですよね」
家族の怒りが高まる中で、桂田容疑者の逮捕に踏み切った、第一管区海上保安本部。
今後の捜査で、ずさんな安全管理の実態解明が進められます。