中内佑記者ルポルタージュ“共同親権” 親権は誰のために 賛否に揺れる声を聞く
離婚した両親がともに子どもの親権を持つ「共同親権」ー。
日本では認められていませんが、いま、法律が変わろうとしています。
共同親権によって親子のあり方にどのような影響があるのか。
当事者は賛否に揺れています。
この日、ある女性に話を聞くことができました。
(中高生2人の母親)「こんにちは、よろしくお願いします」
札幌市の40代の女性です。
高校生と中学生、2人の子どもがいます。
しかしー。
「5年くらい会えていないです。夫と別居後に子どもを学童と保育園に預けて仕事に行ったらそこから連れ出されて。『来たら警察呼ぶぞ』と脅されて、当時の私には知識がなく、脅されたものに従っただけですよね」
夫からのモラルハラスメントなどを理由に10年前から別居している女性は、親権を巡る裁判や調停がいまも続いています。
夫が面会を拒否しているため、子どもたちは5年もの間母親である女性と会えずにいます。
(中高生2人の母親)「母親と駐車場でチョークで絵を描いたりとかシャボン玉したりとか、自転車買ったら自転車に乗る練習をしたりとか。ありふれた日常が…日常ではなくなっているので、現在の法律ではどこにも救いがないんだなとは思っています」
日本の法律では、離婚した場合に親権が認められるのは片方の親だけです。
未成年の子どもがいる夫婦の離婚は年間9万組以上で、別居した親と子どものつながりが途絶えたり、養育費の未払いが深刻な問題となっています。
いま、こうした状況を変えようという動きが加速しています。
4月、衆議院で民法の改正案が可決され、今国会での成立が見込まれています。
成立すれば、離婚の際に両親で話し合い、現在の「単独親権」に加えて、両方の親が親権を持つ「共同親権」が選べるようになります。
養育費を請求できるようになるほか、子どもが別居する親と会いやすくなります。
法律改正に不安を募らせる人も…元夫の暴力に苦しみ離婚した女性
一方で、こうした法律の改正に不安を募らせる人もいます。
元夫と面会していた子どもを迎えに来た30代の女性です。
女性は別居した親子の面会をサポートする施設を利用していて、女性が元夫と接触することはありません。
元夫の暴力に苦しみ離婚したからです。
(DVが原因で離婚した女性)「元夫と同じような見た目の人がいるとハッと思って動悸がしたり、息が苦しくなったりしますし。寝れなかったりとか、そういうのも面会前後や調停前後はありました」
しかし、共同親権となれば子どもの進学先や引っ越しに両方の親の合意が必要となります。
また、改正案ではすでに離婚が成立していても、別居する親が共同親権への変更を申し立てることができます。
DVや虐待の危険性がある場合は却下されますが、家庭裁判所が適切な判断をしてくれるのか懸念されています。
(DVが原因で離婚した女性)「共同親権になれば子どもの進学だったり、いろいろなところで両親の許可が必要になったりするようなので、そこでの話し合いを持たなければいけないっていう時点でちょっと困りますね。うちの状況でいうとDVがあったんですけど、それを相手が認めていなくて。単独親権にあてはまるか判断してもらえるかどうかもわからないですし、そういう点で不安があります」
共同親権に不安…父親からDVを受けた高校生
小学生のころに両親が離婚した男子高校生も“共同親権”に不安を感じる一人です。
日常的に父親からDVを受けてきたといいます。
(父親からDVを受けた男子高校生)「自分は戦隊ものとか仮面ライダーが好きだったので、ごっこ遊びをしているときに全力で蹴り返してきたり殴り返してきたり、お前なんかいらないとか人格を否定されるような暴言を毎日吐かれていたっていう感じです」
(記者)「物心がついた時から?」
(父親からDVを受けた男子高校生)「物心つくよりも前からですね」
精神状態が不安定になり、心療内科に通ったことも。
この先、父親が親権を求めてくるのではないと危惧しています。
(父親からDVを受けた男子高校生)「自分の父親は共同親権になった時に会いたいって言ってくると思うんですよ。必ず自分に被害があるようなことをしてくるような人間なので。子どもの意見も何も汲み取っていないような法律で、究極の求めることは共同親権なんでいらない。もし推し進めるのだとしたら加害親に一切利益がないような法律に変えてほしい」
専門家「子どもを守るための体制づくりを」
専門家は、子どもを守るための体制づくりが急務だと指摘します。
(早稲田大学 棚村政行名誉教授)「日本の場合は全体として制度の改正が遅れてしまったことで、同時に運用のあり方と支援について議論しないといけなくなった。子どもの気持ちをどのように手続き的に守っていくのかが課題になる」「心理的・精神的に追い込むDVの基準づくりが必要。家庭裁判所や弁護士などの研修、体制づくりが求められていると思う」
それぞれの立場で共同親権に思いをめぐらす当事者たち
子どもの親権をめぐり係争中の女性はー
(親権を巡り係争中の女性)「何かの行事があるとつらい。クリスマスしかり正月しかり。皆さん誕生日を祝うじゃないですか。おめでとうって言ってもらったり、言ったり。私は子どもにずっと言えてません」
子どもたちのためにも、もっと前に共同親権があればと考え続けてきました。
(親権を巡り係争中の女性)「あたり前のように共同親権が選べるような時代だったら、何よりも子どもの養育にもっと関われたのかなって。この10年、あの子たちは母親を取り上げられた状態だと思っています。子どもを生んだ以上、成人するまでは責任を持つべきだと思っています」
それぞれの立場で共同親権に思いを巡らす当事者たち。
いま一度、そのあり方を考え、審議を尽くす必要があります。