中高生のときは五輪出場も期待されたスイマー、山梨県甲府市出身の荻野（旧姓・秋山）夏希選手（33）。挫折を味わい、大学で競技を離れたものの、再びプールに。結婚、出産を経た今、世界大会を目指す姿を取材しました。
■産後わずか1カ月半で練習再開
「桃ちゃん、行くよ、桃ちゃん」。そう言って長女・桃ちゃんを家族に預ける荻野選手（プロングホーンスイムチーム）。
「ママ、行ってらっしゃい。頑張ってね」と見送られて向かった先は、甲府市の緑が丘水泳場です。
水泳のマスターズ世界大会出場を目指し、黙々とトレーニングに励む荻野選手。産後わずか1カ月半で練習を再開させました。
荻野選手
「体の調子から『これなら行けるかな』と思い、泳ぎ始めた。未知というのが一番。どこまで自分が行けるのかワクワクしている」
■中高で日本新記録も突如…栄光と挫折
「努力した分だけ結果に残る。そのうれしさがたまらない。それが一番の支え」。
2006年、山梨英和中3年時に取材した際にそう答えていた荻野選手。旧姓の「秋山夏希」と言えば、紛れもなく日本競泳界のホープでした。
中学時代は100mバタフライで全中3連覇。得意の200mでは日本中学新記録で2連覇を飾りました。
山梨英和高に進むと、全国高校総体（インターハイ）で200mを日本高校新記録で制覇。100mも日本タイ記録で頂点に。2冠を達成しました。
荻野選手
「（当時は）五輪が全てだった。もうそのときには本当に五輪しか見えてなかった」
しかし、そこからスランプに。山梨学院大2年のときに競泳界から姿を消しました。
荻野選手
「試合に出たときに悔しいと思わなくなってしまった。家族や応援してくれる方に本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。泳ぐのが怖くなってしまった。だんだん水泳が嫌いになって遠くなっていってしまった」
■新たな気持ちで競泳界に復帰
大学を卒業し、小学校の体育の教員に。児童たちと触れ合う中で、荻野選手の気持ちに変化が生まれました。
荻野選手
「（児童が）苦手なご飯が食べられるようになるなど努力の結果に本当に私も励まされた。（児童と）一緒に頑張れる教員になりたいと思い、また水泳を始めた」
2018年の国民体育大会（現在の国民スポーツ大会）の予選会。7年ぶり、27歳で迎えた復帰レースを取材した際には、こう答えていました。
荻野選手（当時27歳）
「きつかった。気持ちとしてはすごく楽しいレースだった（今後は）まず水泳を楽しむ。行けるところまで行きたい」
4年前に結婚すると、夫婦そろって大会へ挑戦する楽しみも増えました。
そして2023年、福岡県で行われたマスターズ世界大会で、荻野選手はある感覚を思い出します。
荻野選手
「8番だった。そこでまた悔しいという気持ちが出てきた。もう一度本腰を入れて、しっかり水泳と向き合って試合に臨みたいと思った」
2025年8月にシンガポールで行われるマスターズ世界大会への挑戦を決意。ママとなった今も、練習に打ち込んでいます。
これまでの経験を生かし、練習メニューを自ら考案。フォームのチェックも全て自ら行います。
荻野選手
「妊娠と出産で運動しない期間が1年近くあったので本当にゼロからのスタート。（育児の）隙間を縫って頑張っている。表彰台を目指して頑張っていきたい」
■家族の応援を力に世界大会へ
「おかえりなさい。ママ帰ってきたよ」。どんなに疲れて帰っても、笛吹市の自宅では家族が温かく出迎えます。
荻野選手
「『お疲れ様』と一言言ってくれるだけで頑張ってよかったと思える瞬間がある。（家族全員が）娘のことを愛してくれている、それを見ると頑張らなければと感じる。本当に（家族に）支えられて今いい環境で水泳ができている」
夫・誠亮さん
「挑戦しているのが格好いいと本当に思う。妻が泳ぐことができる環境を作ってあげたい」
新たな気持ちで競泳の世界に戻ってきた荻野選手。栄光も挫折も知るからこそ、伝えたい思いがあります。
荻野選手
「うまくいく、いかないに限らず頑張ることに挑戦してほしい。不安もどうしてもつきまとうが一歩踏み出してみると世界は広がる。何か目標を決めて果敢に挑戦してもらいたい」
荻野選手は、3月に千葉県で行われるマスターズ世界大会の選考レースに出場。世界大会出場となれば、長女の桃ちゃんも現地で応援する予定で、既にパスポートも取得済み。「格好いい母の背中を見せたい」と意気込みます。
（「YBSスポーツ&ニュース 山梨スピリッツ」2025年2月2日放送）
