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【独自解説】「仏壇にパンを供えている」価格高騰の中、ついにコメが店頭へ⁉“ひどい条件付き”で備蓄米の入札開始へ 専門家らが怒りの徹底討論「備蓄米放出だけでは圧倒的に無理」

2025年3月7日 16:00
【独自解説】「仏壇にパンを供えている」価格高騰の中、ついにコメが店頭へ⁉“ひどい条件付き”で備蓄米の入札開始へ 専門家らが怒りの徹底討論「備蓄米放出だけでは圧倒的に無理」
備蓄米が店頭へ⁉コメの価格どうなる―

 コメの高騰が続く中、農林水産省は備蓄米放出についての詳細を発表しました。果たして、起死回生の一手となり得るのか?値段は下がっていくのか?元経産官僚・岸博幸氏と弁護士・野村修也氏の見解を交え、農業ジャーナリスト・松平尚也氏の解説です。

■関係者からは「転売は一部に過ぎないのでは」の声も…備蓄米放出の詳細発表

 2025年3月4日、大阪市内のスーパーでは、コメの価格が軒並み5キロ4000円超(税抜き)と高値が続いていました。買い物客からは、「この値段なら、以前は10キロ買えていた。『仏壇に、ご飯を供えないといけないけど、パンを供えている』と誰かが言っていました」といった声が聞かれました。

 コシヒカリの小売価格(一袋5キロ・東京)は、2025年1月時点で4363円と、2024年2月と比べて約2000円高くなっています。そんな中、切り札として期待されているのが、『備蓄米の放出』です。凶作や災害で供給量が大幅に減ったときに活用される備蓄米は、政府が毎年20万トンほど買い入れ、5年間保管。2025年1月には制度が改正され、流通に支障が生じたときにも活用できるようになりました。

 農林水産省は2025年3月4日、備蓄米入札の詳細を発表。時期は同年3月10日~12日で、まずは『北海道産ゆめぴりか』『新潟県産コシヒカリ』など全41品種15万トン(2024年産のコメ10万トン+2023年産のコメ5万トン)が入札にかけられます。事前に資格を得た『JA』 などの集荷業者を対象としていて、スーパーなどの店頭や飲食店には、同月下旬~同年4月にかけて出回る見通しとなっています。

Q.備蓄米を出すのは、いわゆる有事のときですよね?
(農業ジャーナリスト・松平尚也氏)
「備蓄米は災害か著しい凶作・不作の年にだけ放出できるものでしたが、『流通における目詰まり』を理由に、今回初めて放出されることになりました」

Q.市場へのインパクトとして、この15万トンはどう思われますか?
(松平氏)
「もともと農水省が把握できない“消えたコメ”に合わせて21万トンを放出することになっていて、まずその中から15万トンが、2025年3月下旬に店頭に並ぶということです。今回の備蓄米放出では、卸から小売りに原則“精米したコメ”を販売することになりました。精米すると保存期間が短くなるので、農水省は転売防止策の対応をしている状況です。ただ、一部の関係者からは、備蓄米放出を発表した時点で価格が下がるのではという予想があったのに、いまだ下がってないという状況の中で、『そもそもコメが不足していて、転売は一部に過ぎないのではないか』という声も出てきています」

 松平氏によると、入札の条件は『JA全農などコメの年間仕入れ量が5000トン以上の集荷業者』や『卸売業者等への販売計画・契約を有する者(入札の際に販売計画などの提出が必要)』となっていて、1回の入札で決定するのではないかとの見解を示しています。

Q.オークション形式ではない、ということですか?
(松平氏)
「具体的には、一般的な官公庁の入札と同様で、恐らく入札書に金額や社名を書いて専用の箱に入れ、高い価格の応札業者から順番に落札する仕組みです」

■コメの価格高騰は『農水省の行政の失敗の結果』 気になる今後の価格は?

 備蓄米が放出される一方、コメの価格について松平氏は、「備蓄米が放出されてから4~5月ぐらいには3500円(一袋5キロ)ほどまで価格が落ち着く予想だが、そもそもコメの生産量を増やさなければ、今後も高止まりは続く」と話しています。

Q.下がっても3500円ほどまでなんですか?
(松平氏)
「現時点での予想ですが、2025年2月の価格が前年比で1.8倍ということで、東京都では1キロ900~1000円になっている状況です。段階的に下がっていく中で、日本ではコメは年に1回(9~10月)しか収穫できないため、7~8月が最も端境期(不足する時期)ですから、6月にどれだけ民間在庫があるかどうかで、その後の価格に影響してくるかと思います」

Q.『減反政策』でコメの生産量を減らしていたのに、今になって急に「コメがない」と言われても、異常気象や人手不足・後継者不足など様々な原因で、生産量を増やすのは難しいですよね?
(元経産官僚・岸博幸氏)
「当然いろんな理由を言いますが、煎じ詰めて言えば、『農水省の行政の失敗の結果』です。これまで減反政策をずっと続けて、国内の需給の管理ばかりをやって、なるべく供給量を増やさないようにして価格を維持するということをやった結果、農家の数が減って耕作放棄地が増えました。その中で突然需給のバランスが崩れると、こうして価格が上がって、結果的に、農水省の行政の失敗に私たち国民が高い金を払うことになっているわけです。本当にひどい状況です」

 さらに岸氏は、「今後もコメ不足と高値は続く」といいます。

(岸氏)
「今回、備蓄米を出すから価格が下がるといわれています。でも実は、備蓄米を出す場合の入札の条件は『買い戻し』、つまり入札した業者は原則1年以内に同じ量のコメを返す必要があるんです。今この瞬間はともかく、少し長い期間で考えると、返さなければいけない=今後も足りない状況が続くということです。民間の業者は当然儲けようと思っていますから、コメ不足が続くなら、そう簡単に価格を下げるとは思いません。だから私は、この備蓄米の放出では、そんなに下がらないのではないかと思っています」

Q.『買い戻し』について江藤農水相は「1年にこだわらない」とは言っていますが、原則返さなければいけないんですね?
(弁護士・野村修也氏)
「基本的には、JAが儲かる仕組みがあるわけです。高くなることによって兼業農家を維持し、その方々がいろんな形で農協に還元してくれるという構図を、もう一度見直さないといけないと思います」

(岸氏)
「農水省が民間企業の行動や市場を全くわかっていないから、こういう“ひどい条件”を付けた入札をするんです。本当に、あり得ませんよ」

■日本の農業の今後について徹底討論「備蓄米放出だけでは対応として圧倒的に無理」

Q.今後、“儲かる農業”への転換は、難しいものですか?
(松平氏)
「日本は海外に比べて中山間地が多い中、減反政策はなくなりましたが生産調整の目標を管理していて、約4割の水田が休んでいます。ただ、石破首相は生産調整の緩和と農家への直接補償を言っていますので、構造的な問題もありますが、今必要なのは主食のコメを安定的に購入できるよう増産し、そのリスクを政策で補うことが非常に重要かと思います。もう田植えの時期が5月に迫っていますので、備蓄米放出だけでは対応として圧倒的に無理だと思います」

(岸氏)
「松平さんがおっしゃったように、生産量を増やすのは大切です。日本のコメはおいしいから海外で高く売れるので、ちゃんと輸出まで視野に入れて、どんどん生産量を増やす体制を作らなければダメなんです」

Q.輸出には規制があるんですか?
(岸氏)
「基本的にはありません。ただ、これまで農水省も後押ししていますが、JAや個別の農家は輸出の経験があまりありませんから、そこが弱いです。だから、そこを変えないといけません」

(野村氏)
「世界では、コメを食べる人が増えてきていますからね。また、輸出していれば食料安全保障になって、それこそ不作になったときには輸出を止めれば、日本国内は維持できます」

(岸氏)
「何度も言いますが、本当に『農水省の行政の失敗のツケ』を私たち国民が高い値段で負っているんです。これは本当に、もっと怒らないとダメです」

 放出された備蓄米は、早ければ2025年3月下旬以降に店頭などに並ぶ見通しですが、大阪市内のスーパーの店長は、「本当にスーパーに並ぶのか半信半疑。期待感はものすごくあるが、威力がどのぐらいあるのかは出てみないとわからない」と話していました。詳細が発表されたものの、依然不明な点も多い備蓄米の放出。今後の動向が注目されます。

(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年3月4日放送)

最終更新日:2025年3月7日 16:00