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【何が…】「世界のFUNAI」破産決定の衝撃…前社長も現会長も「知らなかった」関係者が語る裏側 船井電機のトップだった前社長「不正な行為は一切ない」

2024年12月15日 9:00
【何が…】「世界のFUNAI」破産決定の衝撃…前社長も現会長も「知らなかった」関係者が語る裏側 船井電機のトップだった前社長「不正な行為は一切ない」
船井電機本社

 今年10月に突然、破産手続きが開始された、大阪の家電メーカーの船井電機。直前まで社長を務めていた人物が読売テレビの単独インタビューに応じ「不正な行為をしたことは一切ない」と語った。一方で、前社長も民事再生手続きを申し立てた現会長も破産手続きについて「知らなかった」と打ち明ける。様々な関係者の証言をもとに「世界のFUNAI」“破産”の真相に迫った。

■突然の解雇に頭が真っ白に…元従業員が語る“破産”当日

 500人以上の従業員が突然解雇されたのは10月24日。給料日前日のことだった。

20代の元従業員の男性
「誰も今日でクビになるとは思っていなかったと思う」

 就職活動を行っていた当時、上場企業であったことや認知度が高い企業だったことから、安定を求め就職を決めたという元従業員の男性。この日、午後の業務が始まってからしばらくすると、食堂に集められ、その場で『会社の破産手続き開始』と『即時解雇』を告げられたという。

 男性は「解雇というものは、数か月や数週間前に告げられるものだとイメージしていたので、急に解雇といわれると頭が真っ白になった」と振り返る。男性は再就職に向け、現在、面接などを受ける日々を送っているというが、「失業保険も開始されておらず、10月の給料も出ていない状態で生活費や家賃がどこまで耐えられるのか」と先の見えない生活への不安を打ち明けた。

■「テレビデオ」で一世風靡『世界のFUNAI』と呼ばれるも…負債は約460億円に

 大阪府大東市に本社を置く船井電機は1961年に船井哲良氏が設立。1980年代にはテレビとビデオが一体となった「テレビデオ」などのヒット商品を世に送り出し、2000年に東証一部上場を果たした。液晶テレビでは北米で高いシェアを誇り、2004年度には3500億円余りを売り上げるなど、一時は「世界のFUNAI」と呼ばれるまでになった。

 しかし、中国や台湾メーカーの台頭で価格競争にさらされ、業績が低迷。さらに、2017年には、カリスマと呼ばれた創業者の哲良氏が亡くなり、その後、船井電機にとって転機となる出来事が訪れる。

 2022年、大手外資系コンサル出身で出版会社社長の上田智一氏が社長に就任したのだ。しかしその2年後の今年10月。東京地裁は破産手続きの開始を決定。今年3月時点での負債額は約460億円に上っていたとされる。

■破産に至る2つのポイント「脱毛サロン買収」と「不透明な役員交代」

 企業の経営状況などを調査する信用調査会社「東京商工リサーチ」の藤本真吾氏は、船井電機が破産手続きの開始に至るまで2つの大きなポイントがあったと話す。

ポイント①「脱毛サロンの買収」
 2023年4月、テレビ事業への依存から脱却を図るため大手脱毛サロンの運営会社を買収した上田前社長。しかし思うような収益を上げることはできず、1年足らずで売却することになった。
 読売テレビが入手した破産申立書には「上田氏が代表取締役だった期間に、美容脱毛業界大手に対する支援などにより多額の資金が流出」「流出した資金はおよそ300億円に上り、預金はほぼ尽きている」と記されている。

ポイント②「不透明な役員交代」
 今年5月、船井電機には、本業とかかわりのない人間が役員に就任した。交代や新たな役員が選任された経緯・目的は詳しく説明されず、外部や取引先が把握していなかったという。
 そのわずか4か月後、破産直前の9月に全員が突然辞任。上田前社長も同じタイミングで退任したのだ。

 最終的に「役員交代が信用不安になり、今回の破綻につながった側面がある」と藤本氏は指摘する。

■「破産はメディアで知った」上田前社長を直撃「不正な行為は一切ない」

「破産についてはメディアで知った。あってはならないことだと思う」

 10日、東京都内で読売テレビの取材に応じた、渦中の上田智一前社長。「不正な行為は一切していない」と話し、2023年の脱毛サロンの買収については、美容家電を事業として立ち上げるためだったと語った。

 上田前社長は、脱毛サロン買収などで「300億円が流出した」という指摘に対して、「テレビ事業が非常に大きな赤字を出していたから、もともとあった現預金が減っていた。300億円の内容は、ちゃんと説明できるもので、使途はすべて明確になっている」と語り、「テレビ事業の売却にも目途がついていた。工場の売却も進め、かなりの現預金が残るはずだ。破産申立書に書かれた(預金がほぼ尽きていたという)ことには誤りがある」との認識を示した。

 さらに、「不透明な役員交代」との指摘について、「船井電機の資産、不動産などを売却するため、詳しい人に役員として入ってもらった。株主総会なども通しているし、不透明なところはない」と断言した。

 一方で、突然解雇された従業員に対しては、「一緒に働いていたメンバーが年末に仕事をなくすのは遺憾で残念。非常に困惑している」と少し言葉を詰まらせながら話した。

■「必ずや再生する」破産直前に就任した会長 民事再生手続きの申し立て

 こうした中、すでに裁判所が決定した破産手続きに『待った』をかける動きがある。破産手続き開始直前の今年9月に船井電機の会長に就任した原田義昭元環境相だ。

 「破産について全く知らなかった」と語る原田会長。実はこの破産の申し立ては、創業家の取締役の一人が取締役会の決議を経ずに行ったものだったのだ。その取締役の関係者によると、「会社の経営が混乱していて、取締役会が開ける状態ではなかった」という。

 原田会長は「この取締役は、破産申し立て時にはすでに解任されていて、申し立てができる立場にない」と主張。破産手続きの開始決定の取り消しを求め、即時抗告を行うとともに、事業の再建を目指して民事再生法の適用を東京地裁に申し立てた。原田会長によると、船井電機は会社単体では債務超過の状況だとしても、グループ全体では約200億円の資産超過にあるとして、テレビ事業を売却し、新規事業を立ち上げることで経営再建を目指している。

 原田会長は2日、東京都内で開いた会見で、「経営に混乱があったことは認めざるを得ない」とした上で、「それを乗り越えて『必ずや再生するのだ』という思いで、民事再生の申し立てを行った。船井電機は、伝統と実績を重ねた企業。近いうちに再生させて国内外に事業活動できるように努力したい」と語った。

■元従業員たちの切実な思い「一連の騒動の真相はっきりさせて」

 ただ、取材に応じた元従業員は、「ここ数年の業績を見ても、何年生き残れるか分からないところはあった。たとえ民事再生が認められたとしても、将来性のある別の会社に行く人が多いと思う」と語り、自身も船井電機で再び働く意向はないという。

 先月、大阪府門真市のハローワークで行われた再就職の説明会には、多くの元従業員の姿があった。元従業員の一人は「家族が心配しているみたいで、地元に帰ってきてもいいかなとかいう話をしている。FUNAIブランドに誇りはあるが、それがなくなるのがショック」だと打ち明けた。

元従業員の男性
「この一連の騒動の真相という部分をはっきりさせてほしい」

 取材で浮かび上がった、伝統ある日本企業の経営の混乱。一刻も早い真相究明が求めらるとともに、どの方向に進むにせよ、従業員が置き去りにされることは許されない。

最終更新日:2024年12月15日 9:00