【特集】依頼者も思わず涙「お母さん、喜んでくれていたら良いなぁ」思い出の着物が洋服として生まれ変わる!依頼者の想いに寄り添い、想いを形に…困難な裁断も完璧に仕立てる、凄腕“着物リメイク職人”に密着
『捨てずに、生かす―』新たな命を吹き込めば、服は人生を豊かに。上加世田(かみかせだ)みほさん(49)は、これまで60枚あまりの着物を洋服に生まれ変わらせてきました。リメイク―それは、その人の人生に寄り添うこと。依頼者の想いを形にする『着物リメイク職人』の日々を追いました。
■「ケンカもよくしたけど、良いお母さんやったなって」義母の留袖を洋服に…依頼した娘の涙と息子の想い
大阪市北区・天満駅近くのビルの一室にある、上加世田さんのサロン『copia』。大阪・松原市から訪れた五島広文さん・峰さん夫妻は、「1年前に亡くなった母の形見を洋服にリメイクしてほしい」と依頼しました。
(五島峰さん)
「私たちの結婚式で着ていました」
母の形見―それは、夫・広文さんの母・雅代さんが着ていた留袖です。
(峰さん)
「着物を大事にしていたのは知っていたので、ただ捨てるのもなぁと思って…」
そんな母・雅代さんが毎年楽しみにしていたのが、年に1回撮る家族写真。30年以上続けてきた、五島家の恒例行事です。
(五島広文さん)
「楽しみにしてたもんね、写真」
(峰さん)
「毎年、『遺影を撮っている』とか言いながらね。なかなかそんなん…と言っていたんですけど、本当に、まさかのタイミングで…あっという間やったね」
Q.どんなお母さんでしたか?
(峰さん)
「ケンカもよくしましたけど、結論は仲良かったんかなぁ。お茶目なところはいっぱいあったけど、すごく強い人やったと思います。すごく良いお母さんやったなって…」
(広文さん)
「“身に着けよう”という意識が、僕にとっても嬉しいです」
母の面影を感じる留袖は、峰さんの『ワンピース』と広文さんの『ベスト』に仕立て直すことになりました。
(着物リメイク職人・上加世田みほさん)
「着物は一着分の分量が決まっているので、“本当にここで切って大丈夫か”を確認しながら、最後までするようにしています」
一着しかない、大切な着物。『裁断』は“やり直し”がきかず、技量が試される一発勝負。リメイクする上で、最も大事な工程です。
家族の思い出が詰まった留袖が、どんな形に生まれ変わるのでしょうか―。
■「コンセプトは“絵を背負って歩きたい”」着物に詳しく、こだわりの強い常連さんが、いつも上加世田さんに依頼するワケ
この日サロンにやって来たのは、常連客の荒川忠議さん。これまでも、祖母の着物をジャケットやストールにリメイクしてもらった経験があります。今回は、「自宅に眠っていた女性用の着物を自分のコートに作り変えてほしい」と依頼しました。
(常連客・荒川忠議さん)
「コンセプトは、“絵を背負って歩きたい”」
(上加世田さん)
「あはは(笑)」
(荒川さん)
「でも、『はい、着物です』も、おもしろくないわけですよ。せっかくの絵羽(模様)やから。一続きの絵になっているから」
Q.着物に詳しいんですね?
(荒川さん)
「もともと実家が機屋(はたや)なんです。小さい頃から、糸を紡いだり織ったりというのを見ていたので」
さらに、荒川さんはこの道24年の日本舞踊の役者。舞台衣装用の着物をたくさん持っているそうで、こだわりが強いのも頷けます。
(上加世田さん)
「襟は、どうしましょうか?これは…女性っぽいな」
(荒川さん)
「紐は、なくてもいいかな?」
襟のデザイン一つとっても、次から次へと案は出ますが、なかなかまとまりません。
(荒川さん)
「じゃあ、そういうことで、お願いします」
(上加世田さん)
「あはは(笑)」
(荒川さん)
「細かい部分は、いつものように“呪文”を唱えていただければと思います(笑)」
Q.結局“お任せ”ということですか?
(荒川さん)
「ぼんやりしたイメージをお伝えするだけしかできないので、それを見事に形にしてくださるのが、この方。“この方でないとできないもの”を作ってほしいし、それに出会えた瞬間のためだけに、お願いしています」
上加世田さんに、全幅の信頼を寄せているようです。
(上加世田さん)
「今回で4着目なんですけど、レベル的には、もしかしたら一番難しくなるかもしれません」
『女性用の着物』から『男性用のロングコート』に仕立て直すのは、至難の業。緻密に計算してパーツを取らないと生地が足りなくなってしまうため、“職人の腕の見せどころ”です。
■おしゃれが好きで頑固だった少女時代 独立して偶然出会った『着物リメイク』への想い
幼少期からおしゃれが好きだった上加世田さん。服飾の道を志したのは、高校3年生の時でした。
(上加世田さん)
「勉強ばっかりしていて何になるんやろうと思った時に、好きなことを仕事にしたいなって。『洋服の仕事…あ、専門学校行こう!』って、頑固なほどに決めました」
卒業後は、洋服の型紙を作る『パタンナー』として勤め、2015年にオーダーメイドの洋服店として独立。そこに偶然舞い込んできたのが、「タンスの中に眠っていた祖母の着物をドレスに仕立て直してほしい」という依頼でした。
(上加世田さん)
「おばあさんから頂いたものとか、自分が結婚するときに作ってもらった着物とか…それぞれに思い出やエピソードがあるんです。“物だけではない部分”を残すのは、すごく大事だなって。私がリメイクすることで、笑顔になってくださる方が増えたらいいなって」
■神は、細部に宿る― 一切妥協しない丁寧な仕上げに常連客も「見事やわ!」
常連客・荒川さんのコートのデザインが固まり、細かな調整を経て、いよいよ裁断へ。限られた生地を最大限に生かすため、上加世田さんが見出した策は…。
(上加世田さん)
「生地がこれだけ足りないので、別の部分の布を継いで使います」
2枚の布を繋ぎ合わせる際の『柄合わせ』にも、こだわりが光ります。ピッタリ合っている気がしますが…。
(上加世田さん)
「もうちょっと合わせられそうな気がするんです」
Q.妥協できないですか?
(上加世田さん)
「妥協できないです(笑)」
納得するまで、譲りません。
(上加世田さん)
「繋がりました!良かったです。内袖の部分なので、手を上げない限りほぼ見えないんですけど、動いたら見える所なので、ズレているのと繋がっているのとでは違いますもんね」
神は、細部に宿る― 依頼者の想いを預かり、丁寧に仕上げていきます。
依頼から2か月後、いよいよ荒川さんにお披露目です。
(荒川さん)
「あぁ…いいね。着なくてもわかる」
(上加世田さん)
「あはは(笑)着てください(笑)」
出来上がったのは、縦のラインが美しいロングコート。裾に向かって広がる花柄やグラデーションなど、着物そのものの良さを生かしました。
依頼者の要望に応え、“細かなこだわり”が詰まっています。
(上加世田さん)
「まず、一番オーソドックスな、締めて着るタイプを…」
悩みに悩んだ襟のデザインは、ホックやボタンを施し、5通りの着こなしが楽しめるという粋な計らいに。
(上加世田さん)
「生地の余りが…」
(荒川さん)
「よう使い切ったね、ここまで。洋服も見事やけど、これが見事やわ!」
着物を余すところなく使った自信作―。喜んでもらえました。
■「お母さん、喜んでくれていたら良いなぁ」形を変え、受け継がれる家族の思い出
母の形見である留袖は、どんな形に生まれ変わったのでしょうか。
(広文さん)
「あ、凄い!」
(峰さん)
「すごーい!」
クラシックなベストと、華やかな柄を生かしたシャツワンピース。ボタンを外せば羽織ものにもなり、幅広い着こなしが楽しめます。
(峰さん)
「めちゃめちゃ嬉しい。仏壇の前で、クルクル回ります(笑)」
(広文さん)
「完璧です」
(上加世田さん)
「良かったです」
(峰さん)
「これは嬉しいわ…。本当に、ありがとうございました」
家に帰って、母・雅代さんにご報告。
(五島さん)
「似合いますか?」
(峰さん)
「お母さん、喜んでくれていたら良いなぁ」
(峰さん)
「おばあちゃん、喜ぶと思う?」
(長男・僚太郎さん)
「うん、多分喜ぶと思う。『あんらー!よかねぇ!』って(笑)」
(峰さん)
「うふふふ(笑)」
服は、人生を豊かにするもの―。家族の思い出は形を変えて、受け継がれていきます。
(「かんさい情報ネットten.」2024年6月3日放送)