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【特集】「駐車スペースが足りない」“2024年問題”の裏で勃発する休憩所争奪戦!『働き方改革』で改善された社員の分は業務委託に…ドライバーに立ちはだかる“新たな壁”と“法の抜け穴”

2024年7月28日 11:00
【特集】「駐車スペースが足りない」“2024年問題”の裏で勃発する休憩所争奪戦!『働き方改革』で改善された社員の分は業務委託に…ドライバーに立ちはだかる“新たな壁”と“法の抜け穴”
働き方改革で生まれた“新たな壁”

 2024年4月からトラックドライバーの労働時間の規制が強化され、運送業界の働き方は激変。荷物が届かなくなることが懸念される『2024年問題』ですが、現状どうなっているのでしょうか?一方、国が決めた『休憩』を巡って“新たな壁”に悩むドライバーも…。『長距離ドライバー』『宅配ドライバー』それぞれに密着し、見えてきた実態と新たな課題とは―。

長距離ドライバーの負担抑える『中継輸送』、実情は4時間ノンストップで運転・トイレも行けず…国が『休憩時間』定めるも、肝心の駐車スペースが足りない⁉

 今、物流業界全体で、大きな変化が起きています。

(「読売テレビ」山本真帆記者)
「この運送会社は4年前に買収され、古いトラックから新しいトラックに移行しつつあります」

 大阪・四條畷市にある運送会社『トーワカーゴ』は2020年、大手企業から合併・買収される“M&A”が行われ、新しいトラックを増やす余裕が生まれました。新しいトラックは、これまで運転席の後ろにあった仮眠室を上部に取り付けることで荷台が広くなり、積める荷物の量が増えました。

 この“M&A”の背景にあるのは、『物流の2024年問題』。これまで上限がなかった物流業界の時間外労働が、2024年4月から年間960時間に制限されたことで、消費者へ荷物が届かなくなることなどが懸念されています。

 買収された旧『東和運送』では、送料が安く設定される中で利益を確保するために、ドライバーの労働環境が悪化していました。

(『東和運送』時代ドライバーだった『トーワカーゴ』・藤原多加子部長)
「今もし監査が入れば、一発アウトの会社だったかなと思います。『お客様の荷物を届けたい』という乗務員の気持ちは変わらないのですが、働く体制が…トラックの中でしか寝られず、とにかく走るのが仕事でしたので」

 その状況を変えたのが、大手運送会社による買収でした。日本全国に120か所以上ある拠点を生かし、ドライバーの働き方を一変させました。

(『フジトランスポート』・川上泰生執行役員)
「この5年間で拠点は倍近くになり、トラックも増えていっている中で、輸送の効率化ができているのが我々グループの力になっています。これからの輸送は、『中継輸送』がキーワードになってくると思います」

 『中継輸送』とは、中間地点でドライバーを交代する仕組みです。例えば、前日に荷物を乗せたトラックが山口県を出発し、翌日朝までに埼玉県へ届けるとします。しかし、残業時間に上限ができたため、中間地点の京都でドライバーを交代します。

 中継地点の京都府から埼玉県まで運ぶのは、職務歴4年半の若手ドライバー・かなさん(26)。かなさんは前日の深夜に埼玉県を出発し、別の荷物を京都府内に届けました。その後、休憩をはさんで、山口県から来たドライバーとトラックを“交換”。そして再び埼玉県へ戻ることで、長距離を一気に移動する必要がなくなり、ドライバーの負担を減らすことができます。

 取材した日、関西は警報級の大雨でしたが…。

Q.こんな大雨でも行くのですか?
(『フジトランスポート』ドライバー・かなさん)
「仕事ですからね(笑)雨で休みになるわけではないので」

 かなさんには、雨よりも心配していることがあります。

(かなさん)
「毎回不安に思うのは、休憩を取れる場所がなかったりすることです」

 国は『ドライバーが連続して運転できるのは4時間まで』と定め、これまでは荷物の積み込み作業の時間が“休憩等”に含まれましたが、2024年4月以降は『“純粋な休憩”を30分以上確保すること』が求められています。

 ただ、この“休憩”が、ドライバーの新たな悩みの種に…。

(かなさん)
「本当に“満員電車に座れた気分”で、とめられたらラッキーです(笑)」

 夜が遅くなるにつれて、トラックの交通量も増えます。かなさんは、京都を出発してから3時間を過ぎたところで、サービスエリアに入りました。

 しかし…。

(かなさん)
「とまれる所があったら、とまりたいですけど…こんな感じで、トラックが溢れています」

Q.全然とめられないですね…。
「そうなんですよ…」

Q.とまっているトラックのドライバーたちは、休憩しているんですか?
「そうです」

 また、休憩を取らなければならないトラックが駐車スペース以外にも大量にとまり、通行にも支障をきたしています。かなさんは空車のないサービスエリアを出ることにしましたが、本線に戻る道にまで駐車中のトラックがずらり…。

(かなさん)
「油断できないのがここからで、加速しなきゃいけないけど、狭くて怖いから減速するんです。だから全然加速できないし、この速度で合流するのは危ないじゃないですか。次は遠州森町パーキングエリアなので、とめられたらいいなーと思っているんですけど…」

 しかし―。

(かなさん)
「いやー、厳しいですね…」

 3か所目の掛川パーキングエリアでも…。

(かなさん)
「また、ダメでした」

 4か所目の藤枝パーキングエリアでは…。

(かなさん)
「あと7分で運転開始から4時間なので、どうしてもここでとまりたいんですけど、ちょっと…空いてそうな所はないですね」

 運転は、4時間ノンストップ。トイレにさえ一度も行けていません。

-(車内の電子アナウンス)
-「連続走行時間をオーバーしています。休憩してください」

(かなさん)
「超えちゃいましたね…残念です」

 国は、『満車』で駐車できない場合には、4時間30分まで運転を許可しています。ただ、“休憩所探し”がドライバーの大きな負担になっているのです。

 かなさんは、静岡県内でようやく休憩を取ることができました。

(かなさん)
「駐車スペースが足りないです。でも、時間帯によって混んでいる時間・混んでいない時間はあるので、一概に『枠を増やしてほしい』と言いがたいのも事実です。時間の兼ね合いで、溢れかえっているのは『深夜割の時間の問題』などが絡んでいると思うので、もう少し違う解決方法もあったのではないのかなと。今後に期待して、頑張りたいと思います」

「もし規制がかかったら、今の荷量は運びきれない」実は“法の抜け穴”業務委託ドライバー 『働き方改革』で残業できない社員の分まで、220個の荷物を一日で…

 『2024年問題』の波は、宅配ドライバーにも。

Q.午後からの配送分ですか?
(『万事屋うっちゃん』宅配ドライバー・浦島佳太郎さん)
「そうですね、大体60件ぐらいです」

 京都府を中心に、大手宅配の下請け配送を担う会社で働く浦島佳太郎さん(24)。この日は、すでに朝7時から勤務を始めています。

(浦島さん)
「こんにちはー!こちらお願いします」
(お客さん)
「はーい、ありがとう」
(浦島さん)
「どうもー!」

 お客さんに、浦島さんの印象を聞いてみると―。

(お客さん)
「元気が良くて、ステキだなと思います」

 順調に配達を進める浦島さんですが、呼び鈴を鳴らしても住人が出てこない家が。不在でしょうか…?

(浦島さん)
「今日に時間指定を入れてくれてはったんで、いるかなと思ったんですけど、いなかったです」

 日時指定があったものの、不在のため、持ち帰りとなりました。

 さらに、別の家でも…。

(浦島さん)
「いないかな…。不在票書くか…」

Q.いなかったですか?
「いなかったです、つらい…つらいです」

 配達員の労働時間を増やす大きな要因の1つになっているが、『再配達』です。近年では『置き配』も増えていますが、荷主業者によっては“盗まれるリスク”を鑑みて、推奨していないところも多いといいます。

(浦島さん)
「ちょっとリスクがあるな、と。よく電話で『置き配しておきましょうか?』と聞いたら、『ちょっと不用心やし』と言う方も中にはおられるので、そこは怖いかなと思います」

 午後5時、一本の電話が入りました。

Q.何の電話ですか?
(浦島さん)
「今のは、ドライバーさんとのやり取りです。社員のドライバーさんがもう帰るので、再配達で戻った荷物を僕らが全部引き継いで、夜で回ります。今から、それを貰いに行きます」

 実は、この4月から残業時間の上限が設けられたのは、社員のドライバーだけ。浦島さんは“業務委託”ドライバーのため、今回の時間制限は適用されません。いわば、法律の“抜け穴”です。

(『万事屋うっちゃん』内田巧代表取締役)
「会社には150名ほどドライバーが在籍しているのですが、もし業務委託ドライバーにも規制がかかったとすると、約1.5倍から2倍の人員を確保しないと、今いただいている荷量を運びきることはできないので、正直難しいかなと思います」

 業務委託ドライバーは、今まで通り荷物を届けるための“最後の砦”です。

 午後6時。車には、夜配送の約50個の荷物が追加されていました。浦島さんの勤務時間は、すでに11時間を超えています。

Q.結構、配りましたか?
(浦島さん)
「1時間で大体30個ほどは、はけたと思います。朝に戻った荷物が夜に再配達希望がかかって、いつも夜の荷物が多くなることが多いんですけど、今日はそれがなかったので、だいぶ楽かなと思います」

 浦島さんはこの日一日で、220個の荷物を運びきりました。

 『時間通りに、すぐ届く』―そんな便利さと引き換えに厳しい環境に置かれてきた物流業界を、変えることはできるのでしょうか?消費者にも突きつけられている課題です。

(「かんさい情報ネットten.」2024年6月4日放送)