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【速報】生野区タクシー暴走7人死傷“認知症”被告に禁錮3年 遺族に「自殺するよ」「お金は保険で」

2024年9月4日 11:36
【速報】生野区タクシー暴走7人死傷“認知症”被告に禁錮3年 遺族に「自殺するよ」「お金は保険で」
事故現場(去年3月 大阪市生野区)

 去年、大阪市生野区でタクシーを運転し赤信号の交差点に進入するなどして歩行者ら2人を死亡させ、5人にケガをさせた罪に問われていた元タクシー運転手の裁判で、大阪地裁は4日、禁錮3年の実刑判決を言い渡しました。

 判決を前に、事故で亡くなった女性の遺族が取材に応じ、「事故のニュースを見ていても、自分の大切な人が巻き込まれるなんて思いもしなかった。認知症というだけで罪が許されることはなくなってほしい」と悲痛な胸の内を語りました。

■争点は“認知症の影響” 弁護側「過失責任問えず無罪か刑の減軽を」 検察側「事故前の運転に異常なし」

 起訴状などによりますと、元タクシー運転手の斉藤敏夫被告(76)は2023年3月、大阪市生野区で赤信号を無視して交差点に進入し横断歩道を渡っていた歩行者らをはねた後、車を急加速させたりバックさせたりして、走行中の原付バイクや乗用車に次々に接触。原井恵子さん(当時67)と松中英代さん(当時73)を死亡させたほか、5人にケガをさせた罪に問われています。

 斉藤被告は個人タクシー業を営んでいて、前日にも事故を起こしており、当日は車の修理のため守口市内の自動車整備工場に立ち寄った後、保険手続きをするため大阪市天王寺区の個人タクシー組合の本部に向かう途中で、不慣れなエリアで道に迷っていたということです。また事故当時、右足でアクセルペダルを、左足でブレーキペダルを踏んでいたこともわかっていて、ブレ―キペダルは右足で踏むことを自動車教習所で教わることは分かっていながら、斉藤被告は「教習所が間違っている」と考えていました。

 先月始まった裁判で、斉藤被告は「言い訳はしない。自分が100%悪い」と起訴内容を認めた一方で、弁護側は「情報処理の遅延など認知症の影響が相当程度あり、本件以前から事故が増えていた」として、「過失責任は問えず、過失が認められたとしても程度は低く、事故当日は道に迷い、普段と異なる状況に置かれていたことなど酌まれるべき事情がある」として、無罪や刑の減軽を主張しました。

 一方、検察側は「事故当日、現場まで約3時間、約45キロにわたり走行していたが、その間、運転に異常は認められず、他の車両や歩行者、構造物などへの衝突も確認されていない」としてブレーキ操作などを的確に行う能力を有していたと指摘していました。

■遺族が涙で訴える中…被告は愚弄する言動 検察は禁錮5年求刑

 7月には、法廷で遺族による意見陳述が行われ、事故で亡くなった1人、原井恵子さんの夫は涙声で次のように語りました。

 「事故によって私たちのささやかな幸せが一瞬にして破壊されました。事故の当日、亡くなった妻を見て、30分前まで一緒にいたのに、できることなら私が変わってあげたい、自分も一緒に死にたいと思いました」

 途中、車いすに座っていた斉藤被告は身を乗り出して「自殺するよ」と遺族に詰め寄る場面があり、裁判長が制止したり一時的に被告を証言台から遠ざけたりするなど、法廷は一時騒然としました。

 続けて原井さんの夫は「認知症を考慮して加害者を守るだけでなく、何も言えない被害者の人権も優先してほしいです。被告に厳罰をお願いいたします」と訴えました。

 それ以前の裁判でも、斉藤被告は被害者参加制度を使って参加する遺族らがいる中で、何度も両手を頭上に挙げて、指をマルにするポーズを作りながら「保険でお金が払われる」などと言い放ったといいます。

 検察側は「およそ真摯な反省も見られない」と指摘した上で「高齢者ドライバーによる事故が後を絶たないことは周知のとおりで、一般予防の観点からも厳しい処罰が相当だ」として、禁錮5年を求刑していました。

■判決を前に…遺族「何を見ても妻を思い出す」

 判決を前に、原井さんの夫が取材に応じました。

 自宅には、原井さんが好きで描いていた絵が仏壇のそばなど家中に飾られていました。幼い頃から絵を習っていて、個展に出したり賞を取ったりすることもあったといいます。

 原井さんの夫は涙を流しながら、「家にあるもの何を見ても妻を思い出して悲しくなる。ずっと支えてもらってばかりで、優しい人でした。孫の成長を楽しみにしていました。私にはいま生きるすべがありません」と話していました。

■裁判所は「認知症あっても運転 能力は有した」と指摘 一方で「 小さくない影響もあり減罪」

  4日の判決で、車いすに乗って法廷に現れた斉藤被告は、時折うっすらと笑みを浮かべながら自身の代理人弁護士や裁判長の方を見て、小さな声で何かを話していました。

 判決で大阪地裁は「認知症の症状は認められるが、事故を起こす直前には赤信号で止まれていたなど運転操作に異常はなく、事故当時もブレーキで止まるという基本的な運転能力は有していた。履行できる可能性があった注意義務を違反したと認められ、過失責任に問える」と指摘。斉藤被告に対して、禁錮3年の実刑判決を言い渡しました。

 一方で、「認知症が小さくない影響を及ぼし、一定程度は減殺(げんさい)されるべきともいえる」とした上で、「何ら落ち度のない被害者2人の尊い命が失われ、5人が傷害を負っていて結果は重大。突如亡くなった被害者の無念は察するにあまりあり、遺族の心痛は計り知れない」と量刑の理由を述べました。

 判決を受けて、亡くなった原井恵子さんの夫は「(禁錮3年の)刑は軽すぎると思う。人を2人殺しておいて、3年というのは…。(被告は)これまでの法廷の様子をみても被害者への謝罪もないし、演技しているようにも見える。そもそも認知症があるのにタクシーを運転していたことに驚いた。こうした事故がなくなるように、法整備をしていただきたい。なんとかしてほしい」と話しました。