【特集】「自由出勤」「子連れOK」自由な会社が“衰退業界”に革命を起こす!“どんぐり”で「木を切らない林業」を推進 業界の働き方の常識を覆す風雲児に密着
高齢化や働き手の減少により、荒れ果てた山が増えている日本。こうした現状を変えようと、世界遺産「熊野古道」がある和歌山・田辺市で“どんぐり”を植樹する中川雅也さん。重い苗木の運搬にドローンを導入し、体を壊すリスクを軽減。また、「自由出勤」「子連れ出勤」「6時間勤務」等“働き方改革”にも力を入れるなど、人手不足の林業に革命をもたらしています。子どもたちの未来に、豊かな山を残すため―奮闘する中川さんの活動を追いました。
「木を切らない林業を始めたい」世界遺産「熊野古道」の町から、日本の山を再生へー
小さな箱に子どもたちが次々入れているのは、“どんぐり”です。
(中川雅也さん)
「地元のおじいちゃんやおばあちゃんが散歩の時に拾ってくれたり、小学生が通学中に拾ったどんぐりを入れてくれる箱になります」
どんぐりを集めているのは、和歌山・田辺市にある「株式会社 中川」。立ち上げたのは、中川雅也さんです。なぜ、どんぐりを集めているのでしょうか?
(中川さん)
「木を切らない林業を始めようと」
会社がある和歌山・田辺市は、面積の約9割を森林が占める、自然豊かな町です。世界遺産となった「熊野古道」を抱えるこの地域は、1000年以上前から森と共に暮らしてきました。中川さんは、この町から日本の森を再生しようと取り組んでいます。
今、日本各地で、森林所有者の高齢化や林業の人手不足が原因で、山が荒れています。荒れた山は雨を蓄えられず、土砂災害の被害拡大の原因となっています。
この問題を解決しようと中川さんが始めたのが、「どんぐりを使った植樹」です。地元の人たちが集めてくれたどんぐりを一つ一つ大切に育て、苗木にしています。どんぐりにしたのは、ある理由が―。
(中川さん)
「広葉樹の苗木だと、倒れてしまっても、また根元から生えてきますし、どんぐりがたくさん降り注いでくれるので、獣たちの食べるものを作ることができます。スギ・ヒノキだと、切ってしまったり倒れてしまうと、次植えないと山が再生しませんが、人が減って山に携わることができなくなる時代が近いので、そうなる前に少しでも広葉樹に変えて、『人間と獣と自然との共存』をしっかりとやっていこうと」
危険・過酷・人手不足…林業界に起こした“革命”…きっかけは息子のある一言
急斜面での作業は、林業のプロでさえ危険と隣り合わせ。この過酷さが、人手不足の要因の一つとなっています。そこで中川さんは、林業の世界に「ドローン」を導入しました。
ドローンなら、約15kgにもなる苗木の袋を軽々と持ち上げることができます。これまで人が背負って、1時間ほどかけて運んでいた苗木も、ドローンなら数分で運搬できるようになりました。
(中川さん)
「体を壊すリスクが一番高い『運搬』という部分を、ドローンで解決しようと。女性の方も、林業の従事者として雇用できるようになりました」
人手不足を解決するため、「働き方」も改革しました。
(従業員)
「夕方までに『明日出勤』とか決めますけど、翌朝起きて体調が悪かったら、LINEで『具合悪いんで休みます』と連絡してくれれば良いです。しんどいのに無理して来られたら、こっちが心配になりますから」
(中川さん)
「自分でしっかり出勤するのかしないのかを判断をして出てきてもらえれば、それだけモチベーション高く仕事ができるので、『自由出勤』という形を取っています」
従業員27人を抱える中川さんの会社は、事務所に子どもを連れてくることも認めました。こうした改革で「働きやすい会社」と口コミで広まり、従業員を募集していないのに、今年も約20人が「働きたい」と連絡してきました。「自由な会社」を作るきっかけは、7年前に当時3歳だった息子から言われた一言でした。
(中川さん)
「『遊んでほしい』と言われたときに、求められるお父さんになろうかなと。とことんまで、そこに振ってみようかなと」
この経験を基に、会社の勤務時間を1日6時間に設定。早朝から働き、午後は家族との時間になりました。
(中川さん)
「環境、気にしてるよね」
(中川さんの長男・睦己くん)
「アホウドリが海洋プラスチックを食べて減ってきてるっていうのを知って…」
家族と共に食卓を囲む時間が、何よりの幸せだといいます。
(中川さん)
「些細なことを話し合える時間って、無駄だけど、僕にとってはすごく貴重で。明日からも頑張ろうかなと思えるタイミングですね」
機材の使い方も経営のノウハウも包み隠さず他社に伝授…すべては「日本という地域をみんなで守る」ため
この日は、地元の中学生と山へ。自然学習として、山に植樹をする授業を行いました。次の世代に持続可能な山を受け継ぐために、どんぐりの苗木を植樹し、自然の大切さを伝えました。
(参加した中学生)
「もう1回、見に来ような」
「50年後やな」
「おじいちゃんになってからやな」
中川さんの活動は、地元の伝統産業にもつながっています。田辺市の特産品・紀州備長炭は、原料として、どんぐりから育つ硬くて丈夫な「かしの木」が使われています。
(堀部剛史さん)
「重たくて比重のある炭が、良い炭になりやすい。この地域が、山が多いというのがあり、とても良いことだと思います。30~40年後には、次の世代の炭焼きさんが、木を切れるようになるのかなと」
「どんぐり」と「自由な働き方」で始めた林業の改革は、全国に広がりつつあります。この日、従業員と共に訪れたのは、岐阜県のとある山間部。中川さんの活動に共感し、林業を新たに始めた人たちに、機材の使い方など一から伝えます。
会社運営のノウハウも、秘密にすることはありません。
(「郡上里山」興膳健太さん)
「広葉樹の森を作るとか、そういうところにすごく共感したので、『全て教えてください』とお願いに行ったら、『何でも教えてやるよ』と快く教えてくださいました」
(中川さん)
「弊社がやっていることを真似してもらえることで、みんなの所得が上がるのであれば、より里山が豊かになりますし、何より『日本という地域をみんなで守るんだ』という意識が、木を植えるという1つの行動をすることで、どんどん関わる人を増やすことができるなと」
国土の67%を森林が占める日本。林業の衰退は、日本の危機でもあります。中川さんは、日本の未来のために森を変えようとしています。
(中川さん)
「子どもたちに、将来地元に帰ってきてもらいたいなという気持ちが、やっぱりあります。父親として、今ある自然を残し続けるというのは、やらなきゃいけないことなのかなと。自分がおじいちゃんになったときに、『これ、おじいちゃん頑張ったからだよ』って笑いながら話せる最期って、すごく幸せなのかなと思っています」
(「かんさい情報ネットten.」2024年1月12日放送)