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【独自解説】川遊びした100人以上が医療機関を受診する異常事態―原因は『ノロウイルス』か?専門家が危惧する死亡例もある感染症の恐れ…川に潜む“見えない危険”と、その対策

2024年9月3日 16:00
【独自解説】川遊びした100人以上が医療機関を受診する異常事態―原因は『ノロウイルス』か?専門家が危惧する死亡例もある感染症の恐れ…川に潜む“見えない危険”と、その対策
夏の川遊びに潜む“見えない危険”徹底解説

 2024年8月、熊本・天草市の『轟(とどろき)の滝』で川遊びした人たちが次々と体調不良を訴えている問題で、同月27日、熊本県が水質調査の結果を公表しました。果たして、原因は?現地を取材した『読売テレビ』西山耕平ディレクターの報告を交え、関西福祉大学・勝田吉彰教授の解説です。

■川遊びした人らが次々体調不良訴え、100人超が医療機関を受診 “最高の夏遊びスポット”で一体、何が…?

 天草四郎が率いた『島原・天草の乱』勃発の地、九州・天草。江戸時代、幕府の『キリスト教禁止令』に逆らう信者たちが隠れ住んだ、信仰の里です。

 同時に、美しい海と自然に囲まれた“最高の夏遊びスポット”としても有名で、中でも『轟の滝』は子どもたちにとっても最高の遊び場となっています。

 ところが―。

 2024年8月13日、そんな『轟の滝』で川遊びした高校生ら7人が、川遊び後に下痢・嘔吐に襲われ、3日後の8月16日に全員が病院を受診。その後も、同じ症状を訴える複数の患者が医療機関を受診する事態に。

 医療機関から保健所に報告のあった患者数は、2024年8月20日には46人でしたが、同年8月27日(午前10時)現在、124人に上ります。

 この情報を受け熊本県は、遊泳等を控えるよう呼びかける看板を設置。県によると、同じ看板を周囲6か所にも設置したということです。さらに、「川の水に感染症が疑われる原因があるのではないか」として、水質調査を実施しました。

 『ミヤネ屋』取材班は、2024年8月13日に『轟の滝』で遊んで体調を崩した地元の中学生らに、話を聞くことができました。

(体調不良になった中学2年生)
「熱が38~39℃出て、嘔吐がすごかったです。吐血しました」

Q.症状が現れたのは、いつぐらいからですか?
(体調不良になった中学生)
「川遊びに行った日の夜ぐらいに、症状が出始めました。腹痛・下痢・嘔吐・発熱が、2日間ぐらい続きました」

Q.川の臭いは、何かありましたか?
(体調不良になった中学生)
「臭いは特になく、水の量が少なかったぐらいです」

Q.「水が汚れているな」とか、そういう意識はなかったですか?
(体調不良になった中学生)
「それは、いつもと変わらなかったです」

■「子・親・祖父母の代まで、川遊びをして自然を学ぶスポット」だったのに、なぜ急に…?現地取材で見えた『轟の滝』の現状

(『読売テレビ』西山耕平ディレクター/2024年8月23日の取材時)
「熊本・天草に来ています。後ろに見えるのが『轟の滝』です。地元の人に話を伺うと、小さい子から親・祖父母の代まで、周辺の方々はこの滝で川遊びをして自然を学ぶというスポットだということです」

(西山ディレクター/2024年8月23日の取材時)
「観光協会の方に話を伺ったのですが、高校生らが体調不良を訴えた時は、この滝の上のほうにキャンプ施設があって、そこで食中毒が起こったのではないかと疑ったそうです。しかし、キャンプ場では飲食物の提供をしていないことが判明し、『水が原因なのではないか』ということで、現在、熊本県が水質調査を行っています」

Q.画面を通して見ると大変キレイな水に見えますが、いかがですか?
(西山ディレクター/2024年8月23日の取材時)
「ここから見ても透明で、透き通っています。安全対策としてゴム手袋をして、プラスチックのコップで水をすくってみましたが、浮遊物もほとんどなく、ほぼ無臭です。地元の方も、『昔からキレイな水だから、なんでだろう?』と不思議がっていました」

 そこで、我々は2024年8月23日、水質の専門家である熊本大学・川越保徳教授と共に、現地を調査。浅瀬の水は透き通っていましたが、深い所では…。

(熊本大学工学部・土木建築学科 川越保徳教授)
「水が溜まって、よどみがちです。本当にきれいだったら、あの深さなら全部見えるんですよ」

 川越教授によると、水がよどんでいる理由は「雨が降っておらず、水の量が減っている」ことだといいます。天草市では、2024年7月16日~8月18日までの約1か月間、まとまった雨が降っていませんでした。

 また、2023年5月に撮られた映像では“4つの滝”が勢いよく流れていますが、今では1つだけに。水の量が、かなり減っていることがわかります。

(川越教授)
「“流れている”というのが、大事です。新鮮な水と入れ替わっていかないから、一度汚れると、長い間それが留まってしまいます」

 さらに、環境悪化に拍車をかけているのが、連日の厳しい暑さです。

(川越教授)
「恐らく水温は、20℃を超えている状態ではないかと。微生物、特に細菌類は、温度が高いと爆発的に増えるスピードが上がります」

 実際に水温を測ってみると、約28℃でした。滝の周辺では細菌やウイルスなどが増殖しやすい環境となっていた可能性がありますが、そもそも、どこから来たのでしょうか。

(川越教授)
「野生動物が水に入っていくかもしれないし、水を飲むし、排泄もします。その糞便の中に病原性の微生物やウイルスが入っていたら、当然汚染されます」

 地元の野生動物に詳しい有害駆除隊の案内で向かったのは、滝から400mほど上流にある田んぼ。そこにあったのは、イノシシが土をほじった跡でした。侵入を防ぐための電気柵を設置していますが、最近はイノシシの出没が相次いでいるといいます。

 2024年8月10日には、滝から数百メートル上流で体重100kgはあろうかというイノシシが檻にかかりました。さらに、その後も2日間で7頭が捕獲されたといいます。

 こうした野生動物が、細菌やウイルスなどを水辺に持ち込んだのでしょうか…。

 また、風評被害などの影響も出ています。地元の旅館では20~30人のキャンセルが相次ぎ、現場を視察した天草市の馬場昭治市長によると、市にも問い合わせがあるといいます。

(熊本・天草市 馬場昭治市長)
「ふるさと納税の方々から、『米を買ってもいいのか』という問い合わせもあります。ただ、そういうのも全く影響はないので、安心して、今まで通り天草の物を購入していただければと思います」

■熊本県発表、『轟の滝』から検出されたのは『ノロウイルス』 川で発生するメカニズムとは

 そして、2024年8月27日、熊本県は水質調査の結果について会見を開きました。健康危機管理課・弓掛邦彦課長によると、「臭気・透明度・pHなど、水質には特段、異常のある数値は見られず」「滝つぼ・滝のすぐ上から『ノロウイルス』が検出された」「患者16人のうち6人の便からノロウイルスが検出された」ということです。ただ、滝と便のノロウイルスの遺伝子型は異なるといいます。

Q.滝つぼからノロウイルスは検出されるものなのですか?
(関西福祉大学・勝田吉彰教授)
「十分あり得ます。もっと上流のほうから、例えば動物の排泄物等で汚染されます。実は、貝で食中毒になる原因は、これが多いです。汚染された水が下流から海に入って、貝が取り込んだ中でどんどん濃縮されていく『貝のノロウイルス』はよくあります。ですので、メカニズムとしてはそんなにおかしい話ではないですが、まだ断定はされていないので、そこは慎重になるべきだと思います」

Q.「貝の中で凝縮」はイメージできますが、滝は流れているのに、ノロウイルスは薄まらないのですか?
(勝田教授)
「通常、上流の水で即感染というのは起こりにくいです。ただ、熊本大学・川越教授がおっしゃっていた『水がよどんでいて入れ替わりが鈍い』という説明も併せて考えると、あり得ることだと思います」

Q.雨が降っていなくて水がよどんでいると、他の滝でもノロウイルス等が発生する可能性はありますか?
(勝田教授)
「可能性はあります。決して“天草市内の”というわけではなく、『日本中どこでも起こり得る』ということだけは、誤解のないようにしてください。また、きれいな水であっても、自然の水をろ過しないで飲むのは絶対にNGです。というのも、ノロウイルスの話だけではなく、『クリプトスポリジウム症』という寄生虫の一種や、他のウイルスもあります。また、イノシシ・クマ・シカなど、動物と人間の距離が近くなっていると、よく報道されています。以前にもまして、こういった感染症のリスクは上がっていくと感じます」

■死に至ることも…ノロウイルス以外にも感染の恐れがある怖い感染症 川遊び時の感染対策とは?

 今回『轟の滝』で検出されたノロウイルス以外にも、川の水には、目に見えない恐ろしい感染症が潜んでいる恐れがあります。

 勝田教授も話していた『クリプトスポリジウム症』は寄生虫による感染症で、潜伏期間は3~10日、症状は下痢・腹痛・吐き気・倦怠感などが数日から2~3週間続き、重症化する場合もあるということです。感染経路は、『寄生虫がいるヒト・動物の排泄物に汚染された食品や水を摂取すること』『衛生設備が整っていない地域で食事や遊泳をすること』です。

 また、『レプトスピラ症』という細菌を原因とする感染症もあり、潜伏期間は3~14日、症状は頭痛・発熱・筋肉痛・下痢・嘔吐などですが、重症化すると黄疸・腎障害を発症することもあるといいます。感染経路は、『感染した動物の排泄物に汚染された水や土に触れること』です。

 『レプトスピラ症』は、2023年に集団感染を起こしています。沖縄・西表島(いりおもてじま)で、10代の男性5人が川で泳いだ後、発熱・頭痛で入院。このうち4人が『レプストピラ症』と診断されました

 また、2022年には、八重山保健所管内に住む70代の男性が『レプストピラ症』で死亡しました。

 国際医療福祉大学・松本教授によると、『クリプトスポリジウム症』の対策は「水を飲みこまないこと」、『レプトスピラ症』の対策は「水を飲み込まないこと」と「ケガをしないこと」。

 また、沖縄県はホームページで「川から上がったら早めにシャワーを浴びること」「川遊びをするときはヘルメット・グローブ・長袖のラッシュガード・マリンブーツ・プロテクターなどを着用し、肌の露出を最小限にすること」を呼び掛けています。

(勝田教授)
「キャンプなどに行っても、川の水をそのまま飲むのは絶対にやめてほしいです。偶然口に入ってしまって、その後、発熱などの症状があった場合は、医療機関を受診してください」

(『情報ライブ ミヤネ屋』2024年8月23日・27日放送分を編集)