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【解説】プーチン氏“戦争犯罪”で裁ける?逮捕にハードルも…国際会議など出国に“圧力”

2022年4月5日 18:50

ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で民間人とされる遺体が多数見つかり、国際社会からは「戦争犯罪だ」と一斉に非難の声が上がっています。『「大量虐殺」に非難が集まっていること』、『こうした行為を戦争犯罪で裁けるのか』、『過去、大統領に「逮捕状」が出たことも』、『今後、プーチン大統領が逮捕される可能性はあるのか』、この4つのポイントについて詳しく解説します。

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ウクライナ当局は、ロシア軍が撤退したブチャなど、キーウ州全体で民間人410人の遺体が見つかったとしています。4日、ゼレンスキー大統領は急きょ、現地を視察し、ロシアを強く非難しました。

ウクライナ ゼレンスキー大統領
「これらは戦争犯罪であり、ジェノサイド(大量虐殺)として世界に認識されるだろう。ここで行われたことを見れば、ロシアと交渉するのは非常に困難である」

■国際社会から「戦争犯罪」の声相次ぐ…バイデン大統領は「裁かれるべき」

民間人の多数の遺体とされる映像が世界中に報じられた直後から、国際社会は「戦争犯罪」との声を上げています。

フランスのマクロン大統領は「とても明確な戦争犯罪の手がかりがある」、そして「ロシア軍によるものであると、ほぼ確証できる状態だ」と発言しました。ドイツのショルツ首相も「ロシア軍の犯罪を調査しなければならない」と発言しました

そして、日本の岸田総理大臣も「人道上問題となる行為、国際法違反の行為については厳しく非難する」と述べています。

日本時間5日朝、アメリカのバイデン大統領も、「プーチンが戦争犯罪人であることが証明された」と強く非難しました。さらに、「追加制裁を検討」していて、「プーチン大統領は責任を負うべき」とし、「戦争犯罪を裁くための情報収集をしなければならない」と述べた上で、「プーチン大統領は国際法廷で裁かれるべきだ」との認識を示しました。

G7のリーダーたちが厳しい言葉で非難する一方で、ロシアのネベンジャ国連大使は4日、ブチャで遺体が見つかったことについて、「フェイクニュースだ」と反発しました。さらに、ロシア軍の関与を否定し「ロシア軍が民間人を殺害していないことを示す証拠を国連の安全保障理事会に提出する」と発言しました。

このようにロシア側は、「大量虐殺の情報はウソだ」という主張を繰り返しています。

■ICC「捜査を開始」…過去スーダン大統領に「逮捕状」も

プーチン大統領が実際に裁かれる可能性は、ゼロではありません。
実際に、戦争犯罪を調べて裁く国際機関のひとつが、「ICC(=国際刑事裁判所)」です。この機関は、戦争犯罪をした「個人」を捜査して逮捕状を出したり、裁判にかけたりする役割を担っています。2003年から活動を開始しており、今回のロシアのウクライナ侵攻に関しても、すでに先月2日、「捜査を開始」したことを明らかにしています。

過去には、このICCが一国のリーダーに逮捕状を出したこともあります。2009年、ICCは、当時スーダンの大統領だったバシル氏に「逮捕状」を出しました。現在、逮捕状の発行理由は、「人道に反する罪」「戦争犯罪」「ジェノサイド罪(大量虐殺)」の3つの容疑となっています。

当時、スーダンでは、多数の民間人ら30万人以上が犠牲となった「ダルフール紛争」が起き、政府軍と反政府勢力の間で激しい戦闘が行われていました。大統領には、民兵を組織して一般住民を襲撃させた疑いがもたれています。

ただ、バシル前大統領は、現在まで逮捕されていません。実は、スーダンは、ICCに加盟していません。ICCの裁判所はオランダにありますが、前大統領がスーダン国内にいる限り、拘束して身柄を送る必要が無いのです。

■プーチン大統領に“逮捕状”可能性は? 専門家に聞く

では、今回のウクライナ侵攻で、プーチン大統領が捜査対象になったり、逮捕状が発行される可能性はあるのか、ICCで裁判官を務めた経験がある中央大学の尾崎久仁子特任教授に話を伺いました。

まずはロシア軍の指揮官が捜査対象になりますが、犯罪への関与があれば、プーチン大統領を含む政府上層部の訴追も視野に入れるのがICCの任務と、尾崎教授は話しています。

逮捕状が請求される場合、捜査に当たった検察官がICCの中にある「予審裁判部」という所に「理由」を書いた資料を提出します。そして、裁判官が「逮捕状を出す理由がある」と判断すれば、逮捕状が発行されることになります。

■ロシアはICC非加盟…国外に出にくくなる“圧力”も

ただ、仮に逮捕状が出されたとしても、実際に執行して身柄を拘束するとなると、ハードルは高いです。ロシアもICCに加盟していないため、大統領がロシア国内にいる限り、身柄引き渡しの必要がありません。

もし、逮捕状が出ている大統領が「国外」に出た場合、例えば、国際会議などで、開催国がICCに加盟していれば、逮捕し引き渡さなければなりません。それでも、「外交特権」や実際に逮捕するかどうかは、その国の事情に左右されると、尾崎教授は話しています。

では、逮捕状の発行にまったく意味が無いかといえば、そうではありません。逮捕状が出されるというのは、いわば「指名手配」の状態で、国外に出るのが難しくなります。それにより、国際社会の場で活躍しづらくなる圧力にはなると、尾崎特任教授は言います。

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戦争犯罪として立件できるのか、これからICCやEU(=欧州連合)などによって証拠が収集されることになります。こうした中、国連の安全保障理事会は、5日に緊急会合を開き、ゼレンスキー大統領も安保理では初となる演説をオンラインで行う予定です。

(2022年4月5日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)

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