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「鼓舞師」と「仕切り屋」は引き継いだから大丈夫――元宝塚男役スター・愛月ひかる、退団と“その後”を語る

2022年2月16日 7:00
「鼓舞師」と「仕切り屋」は引き継いだから大丈夫――元宝塚男役スター・愛月ひかる、退団と“その後”を語る
元星組男役スターの愛月ひかるさん

2021年12月に宝塚歌劇団を退団した元星組男役スターの愛月ひかるさん。正統派二枚目から個性の強い役まで幅広い役を演じた。退団後、テレビ初出演で語った宝塚への愛、第2の人生の“夢”とは――。熱烈な宝塚ファンである日本テレビアナウンサーの安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が迫った。(前・中・後編の前編)

■退団の実感は湧いていない

(中島アナ):ご卒業おめでとうございます。今回は退団後、テレビ初出演です。どんなお気持ちですか。

「ちょっとまだ緊張しております。(退団して)まだそこまで実感は正直湧いていなくて、稽古の長いお休みかなぐらいの感じなんです。星組の舞台を見て自分がいないことに気づいて初めて『辞めたんだな』と感じるんだろうと思います」

<愛月ひかる。千葉県市川市出身。8月23日生まれ。2007年に93期として入団し宙組に配属。その後スペシャリスト集団「専科」を経て星組に組替えとなり2021年12月26日に退団。長身で恵まれた体格を生かした正統派二枚目の役からラスボスなど個性の強い役まで重要な役を幅広く演じた。>

(安藤アナ):愛月さんと言えば「ハット」。こだわりはどんなところですか。

「やはりかぶったときの角度ですかね。斜めになる角度。前から見た時に絶対に顔の右半分が隠れるようにかぶるということでしょうか。振りで踊ったりしてたまに顔が上がるときに右側がふと見えるのが、お客さまがキュンとするポイントだなと思います。そこをいつも心掛けてかぶっておりました」

(安藤アナ):かなり研究されたんですか

「『不滅の棘(とげ)』という作品に再演で出させていただいた時に、初演で主演だった春野寿美礼さんが観に来てくださったんです。その時に帽子のかぶり方もっと『こうやって手を使ったらいいんだよ』などと教えていただいたのも勉強になりました」

「宙組時代は大空ゆうひさんの役を(新人公演で)させていただくことが多く、大空さんのハットのかぶり方も本当に素敵で、それを下級生時代、間近で勉強できたことは自分にとってすごく大きいことでした」

(安藤アナ):手のこだわりを聞いてもいいですか。

「(手をハットのつばに)ただ添わせるだけの人もいるんですが、しっかり『グッっと持って添わせる方が素敵だよ』と春野さんにも言っていただいて。それからはしっかり持つようにしています。後ろも持ってかぶってもいいと教えていただいて、確かに高さが自分でわかった方がきれいに斜めにかぶれるので、それもすごく勉強になったことの1つです」

■「星組のみんなに会いたい」

(安藤アナ):お正月は箱根駅伝を見ていたとのこと。現役時はいつもお正月公演があるので、お正月を家族で過ごすことで辞めた事を実感すると聞きます。

「本当にそうですね。私は東京が実家なので、東京公演がお正月のときは実家に帰ることもあるんですけれども、ほとんどは一人で過ごすことが多いです。元旦から公演のこともあるので、なかなか家族でゆっくり団らんというのは確かに現役の時はできなかったことです。家族も喜んでいました」

(中島アナ):そして、今会いたいのはやっぱり星組の皆さん。

「みんなが今とても大変な状況の中で稽古を頑張っていると思います。エールを送りにいってあげたくなっちゃいます。まだ誰とも会えていないんですが、私はいつもみんなに『気合入れ』をする役割だったんです。『気合入れていこう』って言ってあげたいですね」

「仕切っちゃうんです。急にみんなを仕切ってテンションを上げさせるって感じなので、いつも不意打ちで鼓舞していました。みんな『突然?』みたいになるんですが(笑)」

■「寂しさよりも幸せな気持ち」

「そうですね。もう宝塚の舞台で男役を表現すること、お芝居することもないのかなと思うと、寂しい気持ちはもちろんあります」

(安藤アナ):やっぱり愛月さんと言えば“ラスボス”感のある役。昨年の退団公演『柳生忍法帖』では芦名銅伯を演じました。

「最強のやつが最後に来たなと。『自分で自分を殺めることでしか死ねない』という、最強のやつが来たなと思いました。ラスボスは任せてくださいという感じだったので役作りとはあまり思わず、やりたいようにさせていただいたんですけども。(ラスプーチンやプガチョフなど過去に演じた役の)すべてが詰め込まれていたなと思います」

「(そうした役を演じるのは)役者として楽しかったです。私も最初は王子様みたいな役がやりたくて宝塚入ったはずだったんですが、任される役が途中からどんどんそれていって。最初は戸惑いもありましたが、タカラジェンヌとしてではなく一人の役者として、演じること、(役を)作っていくことがすごく楽しい。もちろん苦しい役もたくさんありましたが、勉強になる役がたくさんあったので、とてもいい経験だったと思います」

(中島アナ):(『神々の土地』での)ラスプーチンの登場シーンで銀橋から手がザっと出てくる時に、ぞわーっとしたのを覚えています。

「あのシーンは(演出の)上田久美子先生が音までこだわってらっしゃって。無音になった状態で、まず手からの登場になるんです。銀橋に手を叩くときに『ちゃんとベチャっていう音がするように叩いて出てきてほしい』と。そういう先生のこだわりもあって、毎日こだわって出ていたんですけれども、前の方で見ていたちっちゃい子に泣かれた時はさすがに『ごめんね。怖いよね』と思いました」

(中島アナ):(『ロミオとジュリエット』の)“死”の役も『髪の毛のなびき方』が好きだというファンの方もいらっしゃいます。

「そう言っていただけましたね。かつらもあれだけ激しくダンスを踊ると絡まってしまって。毛が絡んでしまうと顔にかかったものがはけてくれないので、自分が舞台上に出ていない間は、かつらを脱いでストレートアイロンでお手入れをずっと公演中はやっていました」

■サヨナラショーに込めた思い

(中島アナ):サヨナラショーは本当に素晴らしい時間でした。

「サヨナラショーをさせていただけると伺った時に、『誰がために鐘は鳴る』から始めたら素敵なんじゃないかなと漠然と頭の中に思い描いていました。『シークレット・ハンター』は初舞台の公演で安蘭けいさんが歌われていた曲で大好きだった曲。あと、燕尾で大階段で踊ることをサヨナラショーで絶対にやりたかった。退団公演のキャリオカの場面でも燕尾は着ているんですけれども、大階段ではないのでまたちょっと違うなと。男役だけで群舞がしたいという思いから、振付の若央(りさ)先生とご相談させていただきました。曲は先生ともご縁のあるマノンの『マドリードへ』をボレロ調にしたら素敵なんじゃないかと先生のご提案からです」

(中島アナ):愛月さんのクラシカルな動きやダンディズムを全部吸収しようという様子で男役さんたちが並んでいるのを見て、『これは継承されたんだな』と確信したシーンでした。

「そう言っていただけですごくうれしいです」

(中島アナ):そして『うたかたの恋』。

「ずっとやりたい役でした。岡田(敬二)先生が、『せっかく大階段を使えるんだからライトで赤くしてあげるからじゅうたんはないけどやったらいいじゃない』と言ってくださって夢を叶えていただけました」

「私の星組としてのデビューが『タカラヅカスペシャル』で、その時も舞空(瞳)と2人で歌わせていただいたのが『うたかたの恋』でした。自分の星組でのスタートをもう一回ここ
でさせていただけたという気持ちで、うれしかったです」

(中島アナ):実際に歌ってみてどうでしたか。

「ゾクゾクしました。あの憧れの歌を、自分の目で見ているんですけど、その情景が夢の中に入ってやっているような何か不思議な感覚でした」

■お花渡しは同期から「りく一択」

(安藤アナ):退団挨拶のお花渡しは同期の蒼羽りくさんでした。

「決めていました。東京は絶対、りくにお願いしようっていうのはもう退団決めたときからずっと決めていて私の中では『りく一択』でしたね。ずっと宙組の下級生時代本当に切磋琢磨して一番のライバルでしたし、彼女しかないなって思っていました」

(安藤アナ):実は蒼羽りくさんからコメントをいただきました。

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愛ちゃんからお花渡しのことをお願いしてもらった時、とても光栄でしたしうれしかったです。新人公演の頃、アドバイスをいただいたことを話しながら帰ったことや、劇団の5階の階段で2人で語り合って泣き合ったこと、くだらないことで笑い合ったことなどを思い出して、愛ちゃんのとても大切な瞬間に私もいられることが何よりうれしかったです。

大階段を降りる愛ちゃんが清々しくとても素敵で袖でぐっときました。そしてお花を渡すまで本当に緊張しました。声をかけた時もいつもの笑顔で応えてくれてうれしくなりました。あの瞬間を一緒に過ごせて本当に感謝です。
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(安藤アナ):お花受け取った時の笑顔は印象的でした。

「(何を話したかは)2人の秘密なんですけれど、私たちが下級生時代によくネタにしていた合言葉みたいにしていたものがあって、それをりくが言ってくれたのでちょっと素の感じで笑っちゃいました。『覚えていてくれてよかった』って言われました」

「『何それ?』みたいな顔されたらどうしようと思っていたみたいで、終わった後に『ちゃんと覚えてて笑ってくれて良かった』って言っていました」

(安藤アナ):蒼羽りくさんからの言葉を聞いてどんな思いがありますか。

「もちろん同期なのでくだらないことを話していることがほとんどなのですが、怒られたときに話し合ったことや泣いたこともあったなってジーンとしちゃうんです。同じ気持ちを持ってずっと下級生時代を過ごしてきたので、一番私の気持ちを分かってくれているんじゃないかな」

(中島アナ):「楽屋が静かになっちゃうんじゃないか」という話もありました。

「私がいないときからきっと瀬央(ゆりあ)さんが十分うるさかったんですけれども、輪をかけてうるさい人が1人減っちゃうとね。シーンとするんじゃないかと心配しているんですけど、鼓舞する『鼓舞師』と仕切る『仕切り屋』は、全部生徒さんに引き継いでいますので大丈夫だと思います」

(安藤アナ):妻も『楽屋で愛ちゃんはずっとしゃべっているんだよね』と言っていました。

「静かなのが嫌で。朝、楽屋で集中されたい方もいると思うんです。イヤホンしてお化粧に集中されてる方ももちろん中にはいらっしゃるんですけど、私はそれが嫌で、朝からみんなでワイワイしゃべって、それが発声になるくらいのテンションでいきたいんです。朝からみんなと交流していたいタイプで、あまり黙っていることはないですね」

「話すのは本当にくだらないことです。でもみんなでワイワイしている中で『そういえば最近あの場面って…』などと、ディスカッションもできたりもする。そういう会話の中から生まれるものもあると思います」

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アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。アーカイブはYouTube「日テレNEWS」で期間限定配信中。

中編 に続く)

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