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NPT会議で演説「核なき世界」実現への課題とは…岸田首相の“挑戦”

2022年8月3日 18:20
NPT会議で演説「核なき世界」実現への課題とは…岸田首相の“挑戦”
国連で演説する岸田総理

岸田首相は、日本の首相として初めてNPT再検討会議に出席し「核兵器のない世界」を呼び掛けた。ロシアによる“核の威嚇”で世界の分断が深まる中、被爆地・広島選出の首相として訴えた思いとは。その舞台裏を取材した。

■“核なき世界”へ…「現実的な歩みを一歩ずつ」

「被爆地広島出身の総理大臣として、"核兵器のない世界"に向け、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならないと考えます。この会議が意義ある成果をおさめるため、協力しようではありませんか」

8月1日にアメリカ・ニューヨークの国連本部で始まったNPT(核拡散防止条約)再検討会議。

日本の首相として初めて会議に出席した岸田首相は、代表者演説で核廃絶への思いを訴えた。被爆地、広島県選出の首相として提案した取り組みは、通称「ヒロシマ・アクション・プラン」だ。

ロシアによる核の威嚇を非難し、「核兵器の不使用」を訴えたほか、核兵器国に対し「核戦力の透明性の向上」を呼びかけた。

また、「核兵器の減少傾向を維持」することの重要性を強調し、CTBT(核実験を全面的に禁止する条約)の早期発効を目指し、来月の国連総会に合わせ首脳級会合を主催すると表明。

さらに、若い世代の被爆地訪問を促進するため、日本が1000万ドルを拠出して国連に新たな基金を作ることや、各国の政治指導者を広島に招く「国際賢人会議」を11月23日に開催すると表明した。

■取材カメラを前に語る思い「下がっている機運を反転」

その3時間前。岸田首相は宿泊先のホテルで首相秘書官と打ち合わせに臨んでいた。日本テレビの単独取材で語ったのは、会議にかける並々ならぬ思いだった。

「2015年の前回の会議はあと一歩のところで成果文書をまとめることができなかった。大変残念な思いをしたが、今回はそれよりさらに状況は厳しくなっている。核兵器のない世界に向けての機運が著しく低下している中での会議となる。だからこそ、日本の総理大臣として初めてこの会議に出席し、下がっている機運を反転させ、再び核兵器のない世界に向けて取り組みを盛り上げていく機会にしたい」

危機感を滲ませた岸田首相。政府関係者によると、「会議は外相が出るのが通例」という慎重な意見がある中、「NPTには俺が出るんだ」と出席へ強いこだわりを見せたという。

演説原稿は、岸田首相自身が全編にわたって何度も推敲を重ね、会議の直前までペンを入れた。そして、自らの思いを直接世界に訴えたいとの思いから、英語でスピーチすることを決めた。

政府関係者は、「原稿をブロックで入れ替えたり、最終的には、てにをは、など細かいところも修正したりしていた。英語でスピーチをすることになり、総理自身が練習しては直し、ということもぎりぎりまで行っていた」と振り返る。

核軍縮をめぐっては、厳しい現実が立ちはだかっている。NPT再検討会議は191の国・地域が参加する国際会議で、核保有を米露英仏中の5か国に限定し、核軍縮交渉を義務づけている。

岸田首相が外務大臣として出席した2015年の会議では、エジプトなどがイスラエルを想定した非核化会議の早期開催を求めたことにアメリカなどが反発し、最終文書の採択は見送られた。

核軍縮が進まない状況にしびれを切らす形で2017年、核兵器禁止条約が採択された。核保有国と非保有国の対立が深まる中で、追い打ちをかけたのがロシアによる“核の威嚇”だ。核保有国の間でも亀裂が深まり、核軍縮に強い逆風が吹いている。

■「合意は相当難しい」“橋渡し役”を果たせるか

NPT再検討会議は8月26日まで開かれ、各国の共通の目標を盛り込んだ最終文書をとりまとめられるかが焦点だ。

前回に続いて失敗に終わることになれば、岸田首相が核軍縮の「礎石」と位置づけるNPT体制の存在意義が低下し、核廃絶の道は遠ざかる。政府関係者は「合意は相当難しい」と話し、交渉は難航するとみられている。

岸田首相は演説後の会見で、「来年のG7広島サミットにつなげるためにも会議で具体的な成果を出すために努力をしていきたい」と意気込みを語った。

日本が“橋渡し役”を果たして会議を成功に導き、「核兵器のない世界」の実現に向けて歩みを進めることができるのか。岸田首相の取り組みは続く。

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