×

日本作品のアカデミー賞も 映画評論家が語る2024年注目の映画

2024年1月2日 22:15
日本作品のアカデミー賞も 映画評論家が語る2024年注目の映画
2024年注目の作品は?映画評論家・松崎健夫さんに話を聞く
2024年を迎え、映画界ではゴールデングローブ賞やアカデミー賞など注目の賞レースが続々と開催されます。賞レースの行方はどうなるのか、2024年の注目すべき作品は、そしてこの正月休みに必見の映画は何なのか、ゴールデングローブ賞の投票権を持つ映画評論家の松崎健夫さんに話を聞きました。

■正月オススメの映画① 歴史上の人物を意外な切り口で描く超大作

この正月休みにオススメの映画として松崎さんが最初にあげたのは、『ブレードランナー』や『グラディエーター』で知られる巨匠・リドリー・スコット監督の最新作『ナポレオン』。フランスの皇帝ナポレオン・ボナパルトが妻・ジョゼフィーヌとの奇妙な愛憎関係の中で、次々と戦争を仕掛けながら皇帝に上りつめていく物語です。

松崎:人海戦術のすごさ、戦闘シーンでのエキストラが何千人といるわけです。それを当時の衣装でやっているという画(え)のすごさが、最近の映画ではやっぱり見たことがない。

また、ナポレオンについて描いた映画は数限りなくあるんですけど、実は妻のジョゼフィーヌを描いた映画というのは少なくて、今回合戦シーンもすごいんですけど、“ナポレオンとジョゼフィーヌ”というタイトルにしたいぐらい夫婦の話になっているのが、僕はすごくいいなと思いました。2時間半全部を戦闘シーンにしてもいいようなものを、主軸を夫婦の話にして、ドラマとして見やすくなっているっていうところも含めてオススメです。

■正月オススメの映画② 役所広司さんの演技に注目

正月休みにオススメの映画として、松崎さんが次に挙げたのは映画『PERFECT DAYS』。東京・渋谷で働くトイレの清掃員の日常を描いた物語で、主演の役所広司さんは、この映画で第76回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞しました。

松崎:トイレはもちろん題材のひとつですが、東京の片隅で地道に生きている役所広司さん演じる男性の生活を描くことに特化した映画になっている。

役所さんが、派手な演技とかいわゆる熱演といわれるような熱い演技をしているんじゃなくて、淡々と毎日過ごしていることを静かに演じている。だけど、その内側にある葛藤みたいなものを見いだして、毎日が同じで穏やかに過ごしているように見えるけどそうじゃないということを、セリフでも言わない、表情にも表さないけど、そのことが表れているっていうところの演技のすごさ。それをカンヌの審査員たちは評価したんだと思う。

年明けからは、ゴールデングローブ賞やアカデミー賞をはじめとした注目の賞レースが開催されます。松崎さんに賞レースの注目作を聞くと、ゴールデングローブ賞にもノミネートされている2本の日本映画を挙げました。

松崎:今年は『すずめの戸締まり』(新海誠監督)と『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督)。どちらもアメリカで公開されている。去年、例えばゴールデングローブ賞では『犬王』が(ノミネートに)入っていたんですよね。アカデミー賞はちょっと入ってなかったんですけど、ああいう形で日本のアニメが候補になり得る気がしていて、宮﨑監督の作品は、過去に『千と千尋の神隠し』が長編アニメ映画賞を取っていますから、それはちょっと期待していいんじゃないかなという気がします。

2023年は、ハリウッドスターたちが加盟する映画俳優組合が、待遇改善やAI=人工知能の映画製作への活用の制限などを求めストライキを敢行。7月から11月まで撮影や宣伝活動がストップする事態となりました。2024年の映画界にその影響は現れてくるのでしょうか。

松崎:ストライキの期間、ハリウッドでは全く映画が作られなかったわけで、2023年は影響はないんですけど、完成してなかった映画がそのまま止まっちゃったということだったり、撮影するはずだった映画が止まっちゃったことの影響は、2024年からぼちぼち、2025年には出てくると思うんですよ。ハリウッド映画で公開するものがないということになりうると思う。

ただ、僕が個人的に思うことは、ハリウッドの映画はないかもしれないけど、映画は世界中で作られている。たとえば日本でこういう映画があるから、これをやろうと言って、アメリカの観客にとっては、外国の映画を見るチャンスになるんじゃないか。我々にとってもアメリカに売り込むチャンスになる気がするんです。日本のドラマでも配信で世界中で見られていることがあるじゃないですか。以前に比べると、だいぶ垣根は低くなっていて、もちろん向こうで成功させるのは難しいけれども、僕はチャンスのような気がするんですよね。

■松崎さんが選ぶ2024年注目の映画は “原爆の父”描く話題作

そして、2024年の注目映画として松崎さんが挙げたのは、『ダークナイト』や『インセプション』などで知られるクリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』です。“原爆の父”と呼ばれた物理学者、ロバート・オッペンハイマーの知られざる人生が描かれていて、米・ゴールデングローブ賞では作品賞を含む8部門にノミネートされるなど話題を集めています。

アメリカで公開された際は同時期に公開していた映画『バービー』とともに大ヒットを記録。2作品を続けて鑑賞する“バーベンハイマー”という造語が生まれ、バービーと原爆投下を連想させる、2つの世界観を掛け合わせたファンアートが次々と誕生したことで、日本では物議を醸しました。すでに世界中で公開されている本作ですが、日本では2024年に公開することが発表されていて、配給会社のビターズ・エンドは「本作が扱う題材が、私たち日本人にとって非常に重要かつ特別な意味を持つものであるため、さまざまな議論と検討の末、日本公開を決定いたしました」とコメントしています。

松崎:オッペンハイマーどうなのかなっていうのがやっぱり一番気になるところで、(注:取材日時点では公開未定)日本では公開されていないから、「韓国に見に行きました」「オーストラリアのIMAXで見ました」とか、みんなも外国に行って見に行っている。そこまでして見たいと思っているけど、日本でやってこなかったという状況があった。

(劇中では)彼が原爆を作ったことで苦悩したり、水爆の実験に反対したりということがちゃんと描かれている。しかもその当時、アメリカでは赤狩りが横行するようになっていて、共産主義者のシンパだっていうことを理由に、オッペンハイマーが排斥されていくことが描かれている。今の時代にもつながるような、その人の背景を理由に排斥していくということのメタファーのような映画。見ていないのに批判をするのではなくて、見てからやっぱ議論することの方が重要だと思うので、できればIMAXで撮影した作品なので、IMAXで上映してほしいなっていうのが希望ですね。