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映画評論家が選ぶ2023年の映画ベスト3 ヒット作から見える今年の傾向

2023年12月28日 22:25
映画評論家が選ぶ2023年の映画ベスト3 ヒット作から見える今年の傾向
映画評論家が選ぶ2023年の映画ベスト3は…

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『君たちはどう生きるか』など多くの話題作が公開された2023年。ゴールデングローブ賞の投票権を持つ映画評論家の松崎健夫さんに2023年に公開された映画ベスト3を選んでもらいました。

■人気シリーズ最新作 “見て良かった”と思わせる驚きのアクション 

松崎さんが最初に挙げたのは、トム・クルーズさん主演の人気シリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。主人公のイーサン・ハントが、全人類を脅かすAI兵器が悪の手に渡るのを阻止するミッションに挑む物語です。松崎さんは劇中のあるアクションシーンに注目したといいます。

松崎:ピョンって飛ぶシーンあるじゃないですか。崖下に落ちるという。(注:イーサン・ハントがバイクで崖から落ちるシーン)本編を見た時に「えっ、これだけ」と思ったんですよ。

何回も何回も飛ぶ練習をして、撮影の準備も実際にやる前に同じようなセットを組んでスタントの練習をするとか、ものすごい準備をかけてあのシーンを撮ったはずなのに、本編見ると本当のわずかのシーンで、あのシーンのためにそんなに時間かけたんだということの驚きと、トム・クルーズの「いやいや、もっとすごいシーンあるよ」っていう自信の表れだったと思うんですよ。

実際、映画を見るともうあのシーンに限らずにいろんな見たこともないアクションもいっぱいあったりして、そのことに驚いたっていうのがひとつですよね。見て良かったと思わせるような、観客の事を大事にしているなっていうところも、僕はやっぱり評価したい。

■東北出身の名匠が“震災”を描く『キリエのうた』

続いて選んだのは、映画『キリエのうた』です。映画は、歌でしか声を出すことができない路上ミュージシャン・キリエが石巻、大阪、帯広、東京で過ごした13年を描く物語。劇中では東日本大震災が描かれ、元BiSHのアイナ・ジ・エンドさんが主演したことも話題となりました。手がけたのは『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』など数々のヒット作を世に送り出してきた岩井俊二監督です。

松崎:岩井監督は宮城県出身で、今まで『friends after 3.11』のような震災に関するドキュメンタリーや、復興支援ソング『花は咲く』の作詞などを手がけましたが、ご自身の作中で震災のことを描いた作品はなかった。それを今回初めて本格的に映画の中で描いている。身近だからこそ、咀嚼(そしゃく)して作品として昇華させるためには10年以上かかったんだろうなっていうことを感じました。

ストーリーも面白くて、(劇中では)4つの年代が描かれて登場人物バラバラで、これは何を描こうとしているんだろうと思っていたらバラバラだった時間軸と場所がひとつに集約していって、観客の頭の中で物語がつながっていく快感がありました。

そして主人公のキリエ役のアイナ・ジ・エンドさんの歌声。もうあれに尽きるんだと思うんですけど、あの映画でキリエという役の持っている存在感と、そのバックグラウンドみたいなものを彼女は見事に表現していて、「震災」「物語の面白さ」「音楽性」その3つが合わさっているところがこの映画は素晴らしいと思いました。
次に挙げたのは『セッション』や『ラ・ラ・ランド』を手がけたデイミアン・チャゼル監督作『バビロン』。ブラッド・ピットさんやマーゴット・ロビーさんら豪華俳優陣が出演し、1920年代のサイレント映画からトーキーに移り変わる激動のハリウッドを描いた作品です。

松崎:バビロンは映画に音がついていなかった時代から音が付く時代に移行していく端境期を描いていて、映画が変わっていく時代にどういうことが起こったのかを描いています。実は今も(映画界は)端境期にあると思っていて、それは近年、Netflixなどの“配信映画”が本当に映画と言えるのかどうかが、いまだに議論されていて、ちゃんと答えが出てない状況があります。

だから、例えば『バビロン』であれば、1920年代という100年も前の話で、つまり今から100年後の2120年ぐらいになったときには「配信の映画の問題とかあったんだって」となっている可能性もあるんです。

当時サイレントからトーキーになった時代には、音が必要になることによって、仕事ができなくなった人もいれば、それを機会にスターになった人たちもいるっていう、(映画内で)色んな人たちの悲喜こもごもの人生模様が見えるところも、何か今につながるところがあるなと感じていて。例えばこういう過激な描写はダメですということがあったりとか、実際に映画史の中にいた女性の監督が出てきたり、昔のことを描いているんだけど、何か現代につながっていることがあるなと。映画史的な観点からも『バビロン』は今年の映画の中でちょっと忘れてはならない映画の1本だなと思いました。

■3作品から見える2023年公開映画の特徴とは

松崎:3本にまず共通点があって、それは上映時間が長いということ。全て3時間くらいある。(映画が)全体的に上映時間がだんだん長くなっている傾向がある。

ここ20年くらいの話でいうと、特にハリウッド映画の場合は、プロデューサーが一番権限を持っていて、監督に編集権がないわけです。プロデューサーからすると、1日の上映回数が多い方が収益が上がります。例えば3時間の映画と90分の映画があったら、3時間の映画を1回上映してる間に90分の映画は2回上映できるから、90分の方が利ざやが増えるわけですね。昨今はクレジットを見ると、監督自身がプロデューサーに入ることが増えて、編集の権限を監督が持つことで、切れなくなった、それで長くなったっていうのはあると思う。

もうひとつは配信の問題で、配信でやるっていうことは別に2時間だろうが、4時間だろうが、長さ関係ないという。見る側が、長くて見ないのかどうかは選ぶだけの問題で、2時間にしなきゃいけないっていう制約がなくなっている。だんだんと上映尺が長くなるのには複合的な理由があると思いますね。


松崎健夫
映画評論家としてテレビ・ラジオ・雑誌などの様々なメディアで活躍。デジタルハリウッド大学客員准教授、ゴールデングローブ賞非会員国際投票権者、日本映画ペンクラブ会員、国際映画批評家連盟所属