なぜ、映画『スーパーマリオ』は世界中でヒットしているのか 映画評論家が語った人気のワケ
■全世界で10億ドル突破。止まらない“マリオ旋風”
『ミニオンズ』や『怪盗グルー』などで知られるアニメーション製作会社・イルミネーションと任天堂が共同で制作した本作。日本発の人気ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』の世界を原作とした新しいアニメーション映画で、マリオやピーチ姫などおなじみのキャラクターたちが登場します。
映画配給会社によりますと、公開4週目に入ったアメリカではその勢いが止まらず、興行収入は4週連続で1位を記録。海外の累計興行収入は10億2637万6630ドル、日本円で約1410億円(1ドル/137.41円換算)を突破し、歴代アニメ作品興行成績10位にランクインしました。(5月2日時点 Box Office Mojo調べ)
日本で生まれたゲームキャラクターをモチーフにした映画がなぜ世界中で大ヒットしているのでしょうか? 「ひとつはマリオのゲームをやってきた人たちが今作の映画の予告映像やポスターのビジュアルを見て『これはマリオだよね』と思えたからではないか」そう語るのは、映画評論家の松崎健夫さんです。
■映画評論家が語る大ヒットのワケは“キャラクターデザイン”
松崎:映画化する際によく新しいキャラクターを登場させましたとか、キャラクターの造形を改変してみましたとかよくあるじゃないですか。それをやらなかったのが良かった。予告編ではマリオやクッパだけでなく、ピーチ姫やキノピオ、ドンキーコングなど少なくともゲームをやっている世代の人たちなら、見たことあるおなじみのキャラクターたちをちゃんと登場させている。最近は口コミが重要と言われ、推薦コメントを有名人にもらったりしますけど、この作品は一切なかったので、口コミに頼らず爆発的にロケットスタートできたのは、“映画を見たいと思わせる力がビジュアルにあった”からだと思います。
■まるでゲームをプレイしているかのような作画演出
劇中では、マリオがキノコを食べて大きくなる描写やジャンプした時の効果音、マリオカートのバトルシーンなど随所にゲームの世界観を再現しています。
松崎:マリオたちがカートに乗ってコースを斜めに走行する感じなど、様々なシーンで自分がゲームを操作している感じを思い出すような動きが演出されています。監督やアニメーターのエゴではなくて、ゲームをプレイしてきた側に寄り添って作っている。まるでゲーム実況を見ているような感覚で作品の中に入り込めるというのは、やっぱり演出がうまいからだと思います。
■“原作に忠実であるということに喜ぶ観客が増えている”
松崎:有名な作品を映画化するときに、作り手たちは「映画にするならもう少しこうしよう」と映画向けの物語の構成になりがちです。例えば語り部を増やすとか。それよりも原作の再現度がどのくらいなのかというのにみんな興味があるというか「オリジナルの物語を作りました」というのは望んでいないのかもしれない。いろんな映画を見た人たちからすると、そのモチーフを題材にどう物語を変えていくところが面白いという人も もちろんいて。例えば、黒澤明監督の『七人の侍』をモチーフに『荒野の七人』を製作するなど時代劇から西部劇にジャンルを変化させ、それが面白いと評価されてきました。しかし昨今は、そういう作品が求められていないような気がします。
『ソニック・ザ・ムービー』(2020年公開)で、最初のキャラクターデザインを公開したときは批判が集まり、結局ゲームに近いデザインに作り直しました。自分が求めていないものに対して拒否反応を起こすようになってしまった。マリオのヒットは昔からある作品をどう改変していくのかという面白さに興味を持つ人が減ってしまって、“原作に忠実であるということに喜ぶ観客が増えている”という象徴にもなっているように感じました。
■“日本でもメガヒットするポテンシャルはある”
松崎:日本公開をあえて遅らせているのはゴールデンウイークに合わせているからだと思います。コロナが明けて映画館の客席を空けるのもなくなったし、劇場によってはマスクもしなくてよくなった。ゴールデンウイークに映画館に足を運ぶ人は、去年より増えると思います。さらに日本では、字幕版よりも吹き替え版の方が上映回数が多い。子どもと一緒に家族で見てもらいたいという意思表示のように感じます。そういった映画会社側の戦略もある種、ヒットの要因につながっているのではないでしょうか。まだ時期尚早ですが、僕は(日本でも)100億円超えのメガヒットを狙える、今年の代表作になるポテンシャルはあると思うので、映画業界を盛り上げてほしいです。
松崎健夫
映画評論家としてテレビ・ラジオなどのメディアで活躍。ゴールデングローブ賞の国際投票権を持ち、キネマ旬報ベスト・テン選考員、デジタルハリウッド大学客員准教授などを務めている。