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社会復帰に苦しむ元受刑者 映画を通し、社会へ問いたい「元受刑者をどう受け止めるか」

2023年11月10日 23:05
社会復帰に苦しむ元受刑者 映画を通し、社会へ問いたい「元受刑者をどう受け止めるか」
映画『過去負う者』
現在公開中の映画『過去負う者』。実在する受刑者向けの就職情報誌の活動をモチーフに、なかなか社会になじめず、もがき苦しむ元受刑者たちと、それを支援し続ける編集チームの姿が描かれています。なぜ元受刑者の社会復帰をテーマに映画を手がけたのか、監督を務めた船橋淳さんを取材しました。

船橋監督はオダギリジョーさん主演の『Big River』(2006年)や、福島原発事故を描いた『フタバから遠く離れて』(2012年)など、5作品連続でベルリン国際映画祭に出品。近年は、前作『ある職場』で“日本のジェンダー不平等”を問いかけるなど、社会問題をテーマに映画を製作しています。

■“議論したら終わらない”からこそ作品にしたい

――なぜ元受刑者を題材に映画をつくろうと思ったのでしょうか?

ネットの誹謗(ひぼう)中傷が加速度的にひどくて、徹底的にたたかれて復帰できないくらい社会的な制裁をあびる。同じように、一度犯罪を犯してしまうと、日本は社会に戻ることは難しくて仕事も住む場所も限られてしまう。セカンドチャンスがない社会、これはつながっていると思ったんです。加えて、日本は再犯者率が50%で世界的に高いんです。北欧などは20%から30%ぐらいで、職業にも就けるし、刑務所での教育が充実しています。なので、厳しくすればいいというわけじゃなく、厳しくすることで逆効果になっているということが日本で生じている。これは社会の息苦しさを生んでいる根源じゃないかと思って、映画にしようと思ったんです。色々な境遇があって、親がいなかったり孤独だったり、追い詰められてやってしまったり。人間なので後悔も反省もする。社会に戻ろうとする人も中にはいる。いろんな考え方の人がいるので、議論したら終わらないと思います。だからこそ、ひとつのものとして作品にして、考えてもらいたい。考えてもらうには映画は非常にいいメディアだなと思いました。

■台本はなし 『ドキュフィクション』で製作

船橋監督は、通常の映画とは異なる手法で本作を製作。ドキュメンタリーとしてつくるには、被写体の顔バレや様々なリスクがあるため、フィクションをドキュメンタリーであるかのように演出する手法『ドキュフィクション』(ドキュメンタリー×フィクション)という表現手法でつくりあげました。

――ドキュフィクションはどのように撮影を進めたのでしょうか?

台本なしで、それぞれのシーンがどうなるかわかんないんです。ハコ(大まかな内容)はあるんだけど、セリフは全く決まっていない。撮る前に役者が何を考えてるかをとことん話して、あたたまってきたなと思ったら、“じゃあやってみよう”ってカメラを回すんです。それで自分の言葉で、自分の間合いで話すわけです。ドキュメンタリーと同じで取れ高で決めてつくっていきます。

――なぜこのような手法で撮影したのでしょうか?

『罪と向き合う』っていう主題です。罪に向き合うっていう本当に深刻なテーマを体にフィットさせるのはものすごく難しいと思っていて、その人が本当にやってしまった感じがどうやって伝わるかといったら、やっぱり本人が考え抜くしかない。僕が言うもんじゃないなと思っています。台本に書いてあった脚本がこういうセリフだからと言ったら、絶対歯の浮くようなセリフになると思います。

■この映画で伝えたいこと「考えるきっかけに」

――映画を通して伝えたかったことはなんですか?

この映画で一番やりたかったのは、社会が元受刑者をどう受け止めるかということ。受け止める側の問題として描きたかったんです。元受刑者が一生懸命更生を頑張っているとか、新聞配達をして働いているとか、そういう映画はたくさん作られています。そうじゃなくて、劇中のセリフで(社会の人々が元受刑者に対しぶつける言葉)「資産価値が下がる」とか、「家の近くには来ないで」とか言うシーンを見て「あなたはどうします?」「あなただったらどうですか?」って問いたい。この映画がそれを考えるきっかけになってもらえたらと思います。

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