肝は「最初の2秒」 “縦型ショートドラマ”の可能性…スマホ時代のスタンダード【SENSORS】
昨今、SNSや動画配信サイトで「ドラマ」に注目が集まっている。TikTok、YouTube、Instagramなどで配信される1話あたり数分程度にまとまった短いドラマは「縦型ショートドラマ」と呼ばれ、人気ジャンルになっている。
なぜ縦型ショートドラマは今話題なのか。スマホ時代の動画視聴習慣との関係は。ビジネス活用のポイントとは。
2021年5月より活動を始め、投稿動画の総再生数が9億回を超える人気ショートドラマクリエイター「ごっこ倶楽部」の田中聡さん(代表取締役)、多田智さん(総監督)、早坂架威さん(役者兼監督)に聞いた。
■日本でも必ずスタンダードになる 中国から見た縦型ショートドラマの勢い
────多田さんがはじめに縦型ショートドラマに注目したと聞きました。
多田
そうですね。自分は役者をやっていたのですが、役者はオーディションに受かって初めて作品を発信できる、待ちの状態が多い仕事です。一方で、世の中ではYouTubeなど自由に発信できる場所が増えています。役者も発信の場を広げられないかとアンテナを張っていました。
そんなとき、中国の動画プラットフォームを見て衝撃を受けました。おすすめ動画としてショートドラマが大量に流れてきたんです。しかも、ほとんどのショートドラマ動画に広告が入って収益化されていました。後々研究してわかりましたが、大体45秒まで視聴を保ち、45秒以降にCMを15秒ぐらい入れてまたドラマの続きやって終わらせるという構成が一般的でした。
こんな方法でドラマというか、自分たちのやりたいことを発信できるのかと驚きました。ドラマを作るときはまずはスポンサーを見つけるのが一般的でしたが、この流れは日本にもくると確信しました。
────なぜショートドラマが人気なのでしょうか。
田中
スマートフォンの台頭で、動画視聴の習慣が変化したからです。長い時間の動画は見られず、スキップしたり倍速で視聴することが一般的になりました。その習慣に合わせて様々なジャンルの動画が作られるようになりましたが、日本ではドラマのヒットコンテンツはありませんでした。スマホシフトが進むことは自明なので、適切なコンテンツを作れるかどうかで、この領域はまだまだ伸びると感じています。
多田
ショートドラマだから流行ったのではなく、世の中のコンテンツ視聴習慣が変わり、ショートドラマの型が一番当てはまったということです。この流れは音楽とも似ています。音楽もサビを前に持ってきたり、強い歌詞で始めるといった作り方が流行していますよね。
以前、流行の音楽と同じ“テンポ感”だけを意識して動画を作り、後から音源をいくつか載せてみたら、意図せずに全部ハマりました。ここで盛り上がってほしいとか、ここは起承転結の起だからゆったりしてほしいといった感覚が綺麗にハマっていくのです。世界中のエンタメの作り方がそういう流れになっているのだと感じました。
早坂
最初の2秒が特に大事ですね。例えば映画だったらお金を払って見ているので、途中で席を立つことはありませんが、スマホの動画プラットフォームでは、指1本でスワイプして別の動画に移られてしまいます。それをどう止めるかです。
■ショートドラマが「新しい広告塔」 メディアミックスの入り口に
────作品としてこれまでのテレビドラマとは大きく違う縦型ショートドラマですが、収益性はこれからだと聞きました。今後どのような展開が考えられるのでしょうか。
田中
TikTokでは広告プログラムやコンテンツ課金が始まると言われていますが、日本でいつ開始されるかはまだ不透明です。しばらくはメディアミックスの一つとして活用されると考えています。
最近、音楽でもサビだけ作って、人気が出たらフルサイズで作るという手法が増えています。同じように、いきなり映画や長編ドラマを作る予算がないときに、まずはショートドラマで試して、反応を見ていくという使い方があると考えています。
多田
新しい広告塔みたいなイメージですね。いろんなところで言われていますが、視聴者は好きなものを検索するのではなく、「好きかもしれない」とおすすめされたものから選んでいく時代です。そのおすすめ欄という“棚”に、自分たちの商品が入っていくようにしないと、いくらいいものを作っても届かない。ショートドラマでおすすめに入っていくようなイメージです。
田中
また、東南アジアなど日本のコンテンツが受けている国向けに、コンテンツ課金ができるようになれば、ビジネスとしては大きくなると思います。その上でワンチームですべてが完結していることも重要になります。
制作チームが複数にまたがり、脚本は自分たちのものではない、キャストさんも期間が決められているというような状態だと、調整が大変で販売もできません。テレビドラマなどと違って、ワンチームで全部やって、コンテンツ、権利を保有することもビジネス上はポイントになっていきます。
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■クリエイターの新たな挑戦機会…ショートドラマの未来
コンテンツ提供側としても、認知向上やブランディングはもちろん、海外のようにCMを挟むことが一般化すればビジネス活用の幅も広がるだろう。
縦型ショートドラマの普及によって、コンテンツの在り方はまた新たな変革期を迎え、役者やクリエイターにとっても挑戦の機会を広げる可能性を秘めている。
(5月18日放送『Z STUDIO SENSORS』より再構成)