二次創作が広げる世界観…ファンとクリエイターの"共創" ジェネラティブNFT【SENSORS】
ブロックチェーンの技術で代替不可能なことを証明する「NFT」は、近年デジタルアートの世界で注目を集めている。その中でも、プログラムにより膨大な数の作品を自動で生成できる「ジェネラティブNFT」は、「PFP(Profile PictureもしくはProfile Photo)」と呼ばれるSNSなどのプロフィールアイコンとして多く活用されている。
PFPを中心に盛り上がるジェネラティブNFTコミュニティには、どんな特徴があるのか。コミュニティの魅力や二次創作文化について、ジェネラティブNFTの最前線で活躍する4人が語り合った。
■「キャラ全員が主人公」…ホルダーの"分身"に
ジェネラティブNFTは、プログラムによって、ベースは同じでもバリエーションが違う“オリジナル”な作品が生成されるため、その人らしさを表すSNSアイコンとの相性がいい。日本発のジェネラティブNFTコレクション「ネオトーキョーパンクス(NEO TOKYO PUNKS)」で2,222体の作品を生成したNIKO24さんはジェネラティブNFTの面白さを次のように語る。
「一般的なキャラクターと違って主人公がいないことが面白い点です。ネオトーキョーパンクスでは、2,222体全員が主人公というサブテーマを設けていますが、予想もしないような組み合わせの作品もあり、それが個性になっています。そのキャラクターをSNSのプロフィールアイコンに設定すると、面白いことに、ホルダーの分身の様なものになって。“分身だから売れない”とか、“アイコンを使って名刺を作った”という話も聞きます。自分が持っているNFTの髪型を真似ている人もいて、完全に一体化しています。そこまで入り込むのは、特定の主人公がいるこれまでの作品との違いだと感じます」
「クリプトニンジャ・パートナーズ・ジョブズ(CryptoNinja Partners Jobs)」を創出したうじゅうなさんは、同じコレクションを持つ“一体感”も特徴的だという。
「コミュニティの仲間と新たなNFTを発行するとき、小学生の頃にビックリマンチョコを買ってきて『何のシールが出た?』と見せ合うような楽しみがあります。コミュニティやSNSで関わる人たちと、同じ価値観を持っていると感じられることもジェネラティブNFTの魅力です」
■NFTコミュニティは「文化祭」「ファッションブランド」
さらに、ジェネラティブNFTを持つことは世界観に共鳴する感覚があるとNIKO24さんは話す。
「ジェネラティブNFTのコレクションには、立ち上げたクリエイターがその裏に込めたストーリーや思いがあって、その世界観に共鳴した人たちがコミュニティを形成します。さらに、コミュニティの運営者とメンバーが気軽にやりとりできる距離感なので、それぞれの意見が創作にも反映されやすい。ネオトーキョーパンクスが山梨県と一緒に水素エネルギーの広報活動の一環でマンガを作った時も、コミュニティ内でチームをつくりストーリーを考えました。実際にNFTとして発行されているキャラクターを登場させたり、そういうことを一緒にできるのがいいところだと思います」
そんなコミュニティを、「トーキョー・オタク・モード(Tokyo Otaku Mode)」のpajiさんは「大人の文化祭」と呼び、2022年リリース時には売上世界一を記録したジェネラティブNFTコレクション「新星ギャルバース」のクリエイティブ・ディレクターを務める草野絵美さんは「ファッションブランドにも似ている」と表現する。
「ファッションブランドも見た目だけじゃなく“思想”がありますよね。ギャルバースが好きな人は、アニメが好きなオタクの人たちですが『萌え系よりも、かっこいい女性主人公が主役のSFがいいよね』という価値観の人が世界中から集まっています。性別にかかわらずギャルマインドを持った人が集まっていて、気が合うんです。そんな友達が大人になってからできる場って、なかなかありませんでした」
■従来のキャラクタービジネスの“カウンター”
二次創作・ファンアートも含めてコミュニティが広がっていくことも、ジェネラティブNFTコレクションの一つの特徴だ。
うじゅうなさんが立ち上げたクリプトニンジャ・パートナーズ・ジョブズも、二次創作を推奨している「クリプトニンジャ・パートナーズ(CryptoNinja Partners)」のファンアート。元々ファンの一人としてコミュニティに参加し、次第にファンアートをつくるようになったという。
pajiさんは、NFTの二次創作文化は、オリジナルの作品にリターンをもたらす経済的な観点に加えて、従来のキャラクタービジネスへの“カウンター”の両面があると考える。
「これまでのキャラクタービジネスは、どちらかというと権利を守る方向性だったと思います。商用利用したらその分のお金を返してね、というモデルです。NFTの流れは逆で、どんどん個人で商用利用して、その人が稼いでくださいというものです。そこには、二次創作で作品が広まったら、オリジナルの作品にも経済的なリターンがあるというビジネス的な側面だけでなく、一部の人だけが得をするWeb2.0の世界に対して『今までのやり方、ちょっとださくない?』と抵抗するような文化もあるように思います。日本にはコミケのような二次創作が盛んな文化が以前からあるので、その流れがNFTで加速していく可能性は大いにあると思います」
コレクションオーナーとして二次創作を歓迎するNIKO24さんは、二次創作は作品の世界観を広げる効果もあるという。
「ネオトーキョーパンクスでも、ファンが自発的にストーリーを想像して、二次創作コレクションを創設しています。作ってもらった作品の要素を、逆に公式コレクションに取り入れることもあります。そうやって一緒にストーリーや世界観を作っていけることが、これまでのキャラクタービジネスと違って面白い点だと思います」
■二次創作 “絵を描ける人だけのもの”でない未来
草野さんがクリエイティブ・ディレクターを務める新星ギャルバースも、アニメの制作をコミュニティ内のメンバーで意見を出し合いながら進めているという。さらに、一人のAIエンジニアが、ギャルバースのAIモデルを制作したことで、クリエイター以外も二次創作に関わる余地が生まれた。
「ギャルバースでは一つひとつのキャラクターに名前がついているのですが、そのキャラクターの名前を指定して、例えば『ハンバーガーを食べている』と入力すると、そのキャラクターがハンバーガーを食べている絵が生成されるんです。まだプロトタイプの段階ですが、AI技術が進むにつれ、二次創作が絵を描ける人だけのものではなくなって、多方面にギャルバースが広がっていくのではないかとワクワクしています。既存のキャラクタービジネスだと権利の関係で動きづらそうですが、そんな多元的な世界を構築できることもWeb3発IPの強みだと思います」
(4月20日放送『Z STUDIO SENSORS』より再構成)