鳥居みゆき、ファッションブランド立ち上げ “ゴミ”をテーマにしたワケ「芸人って本当は要らない仕事」
■ブランドが誕生するまで 「うわ~まだ事務所にも言ってねえ」
ファッションブランド『pays des fées(ペイデフェ)』のデザイナー・朝藤りむさんと共に立ち上げた『ToriM』。鳥居さんに、ブランドが誕生するまでの経緯を伺いました。
――鳥居さんとりむさんは、3月に共通の知り合いであるスタイリストを通して出会ったとのことですが、どのように話が進んでいったんですか?
4月の頭ぐらいに「喫茶店で1回お茶しようよ」って言われて、私そんなの行かないんですよ。出無精だし、人見知りだから絶対に初めての人とはもう会わないって思っていたんですけど。だけど何か“会おう”って思ったんですよね。それも運命。カンニング竹山さんとかに「ご飯行くぞ」とか「お茶でもするか」とか言われるんですけど、そういう時はいつも「私、今一人でぼーっとしてるんで、すいません、忙しいです」って言ってたこともあるんですけど。
4月の喫茶店で「どういうことしたい?」、「服作ろうよ」、「どういうの作りたい?」ってとんとん拍子で話がまとまって今日。話が進みすぎて「うわ~まだ事務所にも言ってねえ」って思っていました(笑)。
■「芸人って本当は要らない仕事」
完成した作品の中には、約1週間記録した鳥居さんの生活ゴミがデザインされたトラッシュトラックパンツや、学校のジャージを思わせるフリルが付いたトラックジャケットなどが発表されています。他にも、異臭を放つといわれるラフレシアの花がプリントされたTシャツなどもラインアップされています。
――テーマの『Trash』にはどのような意味が込められていますか?
要るもの要らないものって人それぞれじゃないですか。私が要るものだとしても、他の人にとっては要らないもの。でも「いつがゴミなん?」って話で、使えなくなったときなのか、愛着がなくなったときなのか。私、要るもの要らないものを結構考えるんですけど、芸人の仕事って本当は要らない仕事だと思ったんですよ。音楽とかってやっぱり日常にないとダメなものなんですけど、お笑いの仕事って“なくてはならない仕事ではない”と思っているんです。だから悔しいので、「ゴミのような私でも輝けるときあるんじゃね?」みたいな、そういう気持ちを込めています。新たな視点で輝かせてあげるって感じで。
――約1週間、自身の生活ゴミを記録しようと思った理由は?
自分が出したゴミを見たら、自分というものが客観的に見えるんじゃないかと思ったんです。なので、りむさんに、ゴミを写真に撮って毎日送っていたんですけど、卵の殻とアイスのゴミ、たばこしかなかったんですよ。「うわ~これは偏ってる~」って思って自分の生活を改めようと。こういう人生だったんだなって俯瞰(ふかん)で見られたのも面白いなって思いました。
――そのゴミがデザインされた服のポイントは?
私のネタの『ヒットエンドラーン!』の時に持っていた初代くまちゃんもいるんです。初代くまちゃんなんて、他の人にとっては一番ゴミです。だけど着飾って成仏させるじゃないですけど、今までありがとうって。卵の中身とか薬とかは摂取しているから身についているけど、身につかなかったものを身につけてあげるにはどうしたらいいんだろう、ゴミに対する感謝の気持ちをどう表現したらいいんだろうって思っていたら、“服として身につければいいんじゃん!”って思ってこうしたんです。
あと、流しの(排水溝用の)ネットって毎日使うじゃないですか。あれを表現したくなって、どう豪華にしたらいいんだろうって思ったときに「フリルにしたらいいんだ」って思って、流しネットをイメージしたフリルをつけているのがこだわりです。
――排水溝ネットは、捨てる前提で買うものですよね。
そういうものをただ捨てるのって心が苦しいんですよ。今回、ゴミを記録して自分が食べきる人間だってわかったんですけど、写真だけ撮ってタピオカを捨てちゃうみたいな出来事があったじゃないですか。そういうのもかわいそうでダメです。私はゴミが持っている怨念を昇華してあげたい。卵の殻も粉砕して植木鉢にバーってかけたりしています。
■実際に購入した人たちが感じた魅力
アイテムは全部で7種類。受注生産となっています。後日、東京・中野で行われた予約会には、実際に試着をするお客さんの姿がありました。購入を決めた40代の鳥居さんのファンは、「日々のゴミをモチーフにしてステキな洋服ができるんだっていうところにグッときました。自分が何を捨てているかって意識しないけど、洋服になることによって、自分がどんなゴミを出しているのかなって日々を振り返るきっかけになった」とコメント。
さらに、購入を決めた別の40代のお客さんは「ゴミに見えないかわいさだなって。そんな身近なものをプリントしてお洋服にしちゃうっていう発想は他にないし面白い。普通じゃない服を着たいと思っているので、そこにひかれました」と購入の決め手を明かしていました。
■今後『ToriM』で表現したいこと
――ブランドがデビューしたということで、今後はどのようなものを作っていきたいですか?
人が忌み嫌っている脳みその中のこびりついているヤニみたいな感じ。そういう感じを表現していきたいですね。よく天井にシミとかあるじゃないですか。そういうシミって、勝手に自分の判断で何かの形とか見えて怖がったりするじゃないですか。その自分の中で勝手に妄想して恐怖になっている部分。それを表現していきたい。それって捨てる部分じゃんとか、それって一番人が身につけたくない部分じゃんとか、そういうのをあからさまにしていきたいです。