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『SPY×FAMILY』担当編集者も始動 「本気で漫画家を目指す方々をサポート」 漫画家育成プロジェクトの今

2024年7月30日 21:13
『SPY×FAMILY』担当編集者も始動 「本気で漫画家を目指す方々をサポート」 漫画家育成プロジェクトの今
『MANGA APARTMENT VUY』 外観イメージ

日本を代表するカルチャーの一つである『漫画』。数々の人気作品が生まれ、今や世界中で日本の漫画作品が親しまれています。そうした中、各企業が漫画家を目指す人、漫画家としてすでに活動している人たちに向けた環境作りや支援を行っています。

■漫画編集者・林士平さんが寮長&プロデューサーを務める『MANGA APARTMENT VUY』

今月11日、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』などを担当する漫画編集者・林士平さんと株式会社サイバーエージェントが、漫画を描くことだけに集中できる環境を整えた『MANGA APARTMENT VUY(マンガアパートメント ヴイ)』の入居者募集を開始しました。

このアパートメントは、プロ・アマ・性別・年齢を問わず、漫画家志望者であれば誰でも入居の応募は可能で、林さんが寮長 兼プロデューサーとして関わり、サイバーエージェントが運用面をサポート。入居者が漫画を描くことだけに集中できる環境を整え、2025年4月1日から本格始動する予定だということです。

本プロジェクトは、「日本が世界に誇る漫画産業において、まだ発見されていない才能を1人でも多く見つけ出し、本気で漫画家を目指す方々をサポートしたい」という林さんの思いに企業側が共感し、発足されたプロジェクトだといいます。

林さんは、プロジェクト始動の経緯について「才能ある方たちが、生活やお金のことを気にせず、ただ夢にだけ向き合うことができる場所があったら? このプロジェクトは、そんな妄想から始まりました。私は、数多くの才能の原石と出会ってきました。光る才能はあれど、経済的な理由で夢を諦めざるを得ない人もいました。日本はまだ、この国に眠る天才を世界に送り出しきれていない、と思うのです」とコメント。

また、プロジェクトの詳細については、「『MANGA APARTMENT VUY』は、まだ発見されていない才能を1人でも多く見つけ出し、夢に向かい集中できるようなサポートを徹底します。本気で漫画家を目指す方々が集うアパートメントとして、才能が育ち、切磋琢磨し、新たな作品が生まれる環境を提供いたします」とし、「入居にあたっての居住費や光熱費は全て無料とし、食費をはじめとした生活費もサポートします。建物には漫画や映画などの資料も大量に用意されており、インプットにも困らない環境です」と、説明しています。

続けて、「同じ情熱を持った人と同じ空間で、学び、考え、描くことに人生を捧げられるVUYでの経験は、漫画家としての大きな財産になることでしょう。この場所が、素晴らしい漫画作品が生まれるきっかけとなることを願っています」と、プロジェクトに込めた思いを明かしました。

■マンガ家育成シェアハウス事業『トキワ荘プロジェクト』

また、特定非営利活動法人LEGIKAが2006年8月から、経済的に自立が難しい若手アーティストを支援するために始めたのが、漫画家育成支援事業『トキワ荘プロジェクト』です。

このプロジェクトは、住まいの中で交流を図り、競争し合う環境の提供などを行っています。これまでに667人が参加し、142人(※参加前にプロデビュー実績がある人は含まない)が、漫画家としてプロデビューしているといいます。(2024年7月17日時点)

中でも、最大規模のシェアハウス型の拠点となるのが、2021年6月1日にグランドオープンした『多摩トキワソウ団地』。プロジェクトの責任者・菊池蓉子さんによると、『多摩トキワソウ団地』では、7人が入居後にプロデビュー(※参加前にプロデビュー実績がある人は含まない。2024年7月17日時点)、部屋数が50以上ある中、毎年空室待ちの登録者が10人前後いる状況だということです。

近年では、漫画家を目指す海外の人からのプロジェクトへの問い合わせも増えているそうで、実際に入居し、日本でプロデビューをした人もいるといいます。

菊池さんは、こうした流れについて「私どもの取り組みを取り上げたいと海外の有力メディアから個人のYouTuberの方まで複数連絡をいただくこともあり、海外の漫画家への興味関心は高いと感じています。漫画は国内外問わず人気なエンターテイメントの一つであり、インターネットやSNSの普及により、自分の作品を発表する場が増えたことで海外の方へ漫画文化がより浸透しているのも理由の一つかと思います」と話します。

■住まいの提供にとどまらず、編集部機能を併設

また、『トキワ荘プロジェクト』は、これまでプロデビューを目指す若手作家に向けた住まいの提供に重きを置いてきたということですが、2023年から『フェーズ2(第2段階)』と位置付けているそうで、「作家として中長期的に活躍できるエコシステム(経済圏)の実現を図るため、取り組みをさらに大きく変化させています」と明かしました。2023年8月には、育成対象の作家と共に、出版社などに向けたマンガ作品の制作やプロデュースを行う、マンガ制作機能『レジカスタジオ編集部』をスタートさせています。

菊池さんは、フェーズ2への移行について「住まいの提供にとどまらず、編集部機能を併設することにより、可能性のある作家の発掘や有望な作家の専属化、そして専属作家への重点的な指導・売り込み・作品プロデュースなどが加わりました。また、居住する漫画家を完全に自社事業の専属作家として取り込み、いわば『社員寮』のようにするのではなく、作家性の方向性に応じて適した出版社・編集部へと導き、総合的にサポートする取り組みとしています」とし、「LEGIKA自身が多様な取引先を持つ中立的なディベロッパーとして活動することで、プロデビュー後の長い道のりにも伴走し、幅広いゴールを見いだし、支援していく体制が整いました」と、語りました。

また、今後は満室の状況で入居希望の人がすぐにプロジェクトに参加できないという課題に対応するため、住まいの取り組みを強化し、大規模シェアハウスを運営している企業とコラボレーションした提携タイプの拠点を近日中にオープンする予定だということです。

■熊本にある育成施設『アーティストビレッジ阿蘇096区』

さらに、2021年に熊本県高森町に開設されたのは、アーティスト育成施設『アーティストビレッジ阿蘇096区』です。

『週刊少年ジャンプ』の編集者として、漫画家の原哲夫さんや北条司さんらと『北斗の拳』『シティーハンター』などの作品を生み出した堀江信彦さんが代表取締役社長を務める、株式会社コアミックスが始めたこのプロジェクト。同施設では、漫画家のみならず、劇団員も技術を磨き、創作や表現に取り組んでいるといいます。

熊本県高森町にアーティスト育成施設を開設したことについて、株式会社熊本コアミックスの代表取締役社長・持田修一さんは、「日本は少子化にむかっていく中で、市場の縮小やクリエイターの減少はわかりきっているので、それを担保するシステムが必要になってきます。そのために若手の育成は不可欠であり、そして海外からも作家を集められれば、少子化は関係なくなります。コアミックスは2013年から、第1回サイレントマンガオーディションを開始。世界中で想像する以上に、日本のマンガを描きたいという方がいるということがわかりました。そして熊本地震から1年後の2017年に鶴屋百貨店にて、熊本国際漫画祭を開催。大きな反響をいただき、高森町の草村町長からマンガ文化の発展に協力したいとお声がけをいただきました」と、経緯を説明しました。

続けて、「海外や国内の地方(都心から離れた場所)の方々もマンガの世界へ足を踏み入れるハードルを下げるために、九州の中央に位置する熊本は立地的にとても優れており、2018年に熊本コアミックスが企業立地。本社コアミックスの業務委託で、外国人漫画家を育てる拠点としてできました」と明かしました。

対面ではなく、オンラインでも多くの作品が生み出されるようになった現代。同じ施設内で共に技術を磨くことの利点については、「最初はリモートで進めようともしましたが、作品から感じる熱量は、リモートで作った作品よりも、対面でコミュニケーションをとって作っていくものの方が強く感じました。オンラインで既存のコンテンツではいろいろなことができますが、新しい価値を生み出すには共同生活が肝心であり、一緒に同じ時間をすごすことがすごく大事だと考えています」と、語りました。

今後の取り組みについては、「今後も変わらず、マンガで日本と世界をつなぎ、そして継続的なマンガ文化の発展のための後続育成を目指します。それに加え、ただコミックとして読むマンガではなく、市場を拡大し続けているウェブトゥーンや漫画原作の舞台等、マンガを中心としたエンターテインメントの輪を広げていくことも私たちの課題だと考えています」と明かしています。