「めんどくささ」を歌い続ける バンド・FINLANDS 「スピッツがルーツ」曲作りの思いに迫る
第一回はロックバンド『FINLANDS』。2012年に塩入冬湖さん(Vo.Gt.)とコシミズカヨさん(Ba.Cho.)の2人で結成。現在は塩入さんのみでの活動で、サポートメンバーを迎えライブ活動を行っています。2024年には全国7都市でライブを開催、代表曲『HEAT』がTikTokで60万回以上再生されるなど、話題になっています。(レコード会社発表)
■メジャーデビューはファンの反応で実感
FINLANDSは、3月13日に新EP『新迷宮ep』をリリースし、結成12年でメジャーデビューを果たしました。FINLANDSらしいヒリヒリとしたロックサウンドとはかなく叙情的なバラードが共存している作品となっています。新作では今までにない表現と、自分の根底の人間性をまとめ上げることを目指したといいます。
――メジャーデビューおめでとうございます。実感や心境はいかがですか?
今日からメジャーデビューだから何か変わります、っていう明確なものはないんですよね。ただ、ファンの方たちのお陰で一番実感させてもらっています。ライブの時に「メジャーデビューします」っていうのを「CD出します」くらいの気持ちで言うと、聞いたことのないようなおたけびが聞こえてきて(笑) 皆さんに気づかせてもらっていることがすごく多い気がします。
――メジャーデビュー作はどんな思いで作りましたか?
「メジャーデビューするからって、別になにも変わらなくていいよ」と(スタッフに)言っていただくと、あまのじゃくなので“むしろ変わりたいな”って思って。今までは自分の目線でしか曲を書かないようにしていて、自分の一人称は“私”だけ。男性目線で曲を書くことを避けていたんです。
でも今になって、“僕”とか“俺”をうまく使いこなせるようになっていることに気づいて。自分の根底の人間性が出ていると思うんです。私、めんどくさいんですよ。「あなたのことが一番好きだよ」と言われても、「どうも。でも分かんないもんね」というような、何か一つのことに喜びきれないめんどくささがあって。それを改めて確認して、自分の中でまとめ上げた作品です。
■“違和感”と“じぶんごと”を起点にしたFINLANDSの楽曲づくり
言葉を仕事にするアナウンサーとして、非常に気になったのが唯一無二な世界観が印象的な歌詞。そこでどのような思いで歌詞を作っているのか、その真意を聞きました。さらに、現在2歳の子供を育てる“ママさんシンガー”の一面を持つ塩入さんに、子供が生まれたことによる音楽制作の変化についても聞きました。
――FINLANDSの楽曲のリリックは、誰もまねできない言葉の紡ぎ方だと思います。
人を励ましたり、応援したりしないようにしているんです。無責任になるかもしれないので。だから自分のことばかり歌いますし、他人を持ち上げようとしないことは意識しています。それから、BGMになるような音楽じゃなくて、「これどういうこと?」って違和感を持てるような音楽に私はときめきます。違和感、っていうのは、すごく意識していますね。
――お子さんも育てながらの音楽活動になりますが、なにか変化はありますか?
子供が生まれて2年になりますが、生まれたからといって、世界平和を歌えるようになるものでもなくて、徐々にこれから変化を感じていくことになるのかなと思います。悲しいニュースを目にした時、親目線で受け取るようになりました。そんなに傷ついている子どもを見た時に自分は親として耐えられないとか。そういう立場の入れ替わり・視点の変化にすごく驚く時があります。
■塩入冬湖ロックの出会いは「スピッツ」
唯一無二の歌詞や、独特でシャープな高音域の声を持つ塩入さん。そんな塩入さんの“ロックの原点”について聞くと、スピッツや、フジファブリックのボーカル・ギターとして活躍し、2009年に亡くなった志村正彦さんに影響を受けたといいます。
――初めてギターを触った瞬間、ロックに触れた瞬間は覚えていますか?
14歳の時、親友がいて。その子とその子のお母さんが好きだったスピッツのライブを見たのが最初です。もう骨が痛いくらいの爆音がすごく傷ついてしまうほど衝撃的で、人の波に押されて心臓がバクバクする感じにびっくりして感動して。そこで「バンドを始めたい」って思ったんです。それで誕生日にアコギの入門セットを買ってもらいスピッツの『稲穂』を親友と一緒に弾きました。ライブではアルバム『三日月ロック』の曲をやっていた時だったので、それもとても覚えています。
――『三日月ロック』! 私も大好きでした。同じく中学でエレキギターの入門セットを買ってもらって、文化祭で『水色の街』を弾きました!
あのアルバム、めっちゃ良いですよね! 今でも体調悪くなったりしたら絶対聴きます。
――スピッツがルーツの一つなんですね?
今でも自分の中に染みついているのはスピッツです。あとはフジファブリックの志村正彦さんです。あの二人は、いい意味であまのじゃくな言葉を使われる天才だと思っています。「好き」という時に「嫌いじゃない」と言ってしまう感じ(笑)。
――高音域の声になったきっかけはありますか?
25歳の時に突然、声帯炎になって声が出なくなったんです。でもレコーディングやライブの予定をキャンセルできずに全部遂行したんです。そうしたら“ガラガラの声”のまま固定されちゃって、あのひずんだような声が出るようになって。偶然の産物なんです。そこからは経年変化といいますか、自分の愛着ある声になっていくんですよね。高い声を張り上げた時に出る“ちょっと汚い部分”とかが私はすごく、今は気に入っています。
■「今、最新のものが一番カッコよくある」 FINLANDSをこれからも
――これからFINLANDSを聴く人に、“この曲聴いてほしい!”という曲を挙げるならどの曲になりますか?
ライブでも盛り上がり喜んでもらえる曲でいうと『HEAT』という曲です。私が個人的に好きなのは『ガールフレンズ』です。必要以上に気を使ったり、気の利いたことを言おうとしたり、そういうことやらなくていいんじゃないかなって思える曲が『ガールフレンズ』で、自分を鼓舞するときによく聴きます。
――最後に、FINLANDSとしての目標を教えてください。
70歳でも80歳でも、手足が健康に動くうちはバンドをやりたいと思っています。でもただやればいいってだけじゃなくて、自分の望むように、今、最新のものが一番カッコよくあるっていう状態を続けながら、そんな道を、都度諦めずに選んでいくのが私の目標ですね。
<編集後記>
FINLANDSの楽曲のリリックを見ると“事情を忘れた空の身体”(東京エレキテルの一節)や“週末の綺麗事の渦”(スペシャルウィークの一節)など、一つの名詞に対しての表現の仕方が独特だと以前から感じていました。その原点が“違和感”にあること、“じぶんごと”を歌い続けるからこそ、一度も聞いたことのない言葉の並びでありながらどこか人間らしい、いい意味での“生臭さ”を感じられるのではないかと思いました。
ある時のライブのMCでは「あなたが愛してくれたらそれだけでいい、そんなわけないでしょ?」ということをずっと歌ってきた、と塩入さんは話していました。それこそが、きれいに片付かない「本心を考え続ける」こと、「めんどくさいことを歌い続ける」、“FINLANDSらしさ”ではないかと話していたことに深い納得感を得ました。
ライブの生歌(もちろん音源も)は、ドラムのシンバルにも、エレキギターのオーバードライブにも負けない力強いひずみが宿り、圧倒的な存在感を放っています。これから更に大きな舞台でFINLANDSの楽曲が聴けること、パフォーマンスを目の当たりにできることが楽しみでなりません。
企画・取材:日本テレビ 平松修造