元宝塚トップ・安蘭けい「叶えるために努力する道のりが夢」――“なれなかった人たち”の思いを込めて
■父親が背中を押してくれた「4回目の受験」
(中島アナ):安蘭さんは滋賀県出身、10月9日生まれ。1991年に77期生として入団し、2006年星組トップスターに就任。圧倒的な歌唱力と華やかな舞台姿で多くのファンを魅了してきました。2009年に退団した後は、俳優・歌手として幅広く活動していらっしゃいます。最近はサウナと瞑想にハマっているとか?
サウナに特に最近ハマっています。もともと水風呂が苦手だったんです。柚希礼音もサウナが大好きで、水風呂がとにかくいいと彼女から言われていたけれども、あまりにも冷たすぎるから水風呂に入れなくて。でも試しに入ってみたら、とても気持ち良い。サウナの真髄を知ったような感覚になりました。最近はサウナハットも買って、サウナと水風呂を交互に2、3セット繰り返しています。
瞑想も最近始めました。じっとしていることが苦手で、『何も考えない』ことができない。いつも雑念だらけ。でも最近、雑念なく瞑想ができるようになってきて、朝10分くらいやっています。そこから始まる1日は全然違う気がします。気持ちの問題かもしれないけれど、ちゃんとゼロから始まっている感じがしますね。
(安藤アナ):宝塚を受験しようと思ったきっかけは何ですか?
習っていたバレエの先生に勧められたのがまず初めでしたね。もともと歌ったり踊ったりするのが好きで、掃除の時間に黒板の前に立ってほうきを持って歌っていたんです。前に出るのが好きだったのかもしれないですね。ちょっとひょうきんなところがあった。それでバレエの先生に勧められて宝塚を知り、歌も踊りもできるところがいいのかなと。
(中島アナ):4回受験をされて4回目で合格されていますね。高校3年生になると今後の進路などが現実的に迫ってくると思いますが、その中で、4回目も受けようと思ったのはどういうことがあったのですか。
3回目で落ちた時、さすがにもうやめようと思ったんです。もう無理だなと。大学も行きたいし、別の進路にシフトチェンジしないといけないと思っていた。ですが、父親が「今まで3回受けてあと1回あるんだからチャレンジしろよ」と背中を押してくれたんです。それが一番のきっかけだったかもしれないですね。
(中島アナ):そのお父さんの言葉がなければ、もしかしたらそこで諦めてしまっていたかもしれない?
そうですね。ただ、負けず嫌いなところがあって。他の受験の友達が(宝塚に)入っているのは悔しいし、彼女たちにあって私に無いものは何だろうと常に考えていました。受かっても落ちても受験することでそれがわかるんじゃないかなと思って。それを知らないと自分の次の人生を進めないな、という思いもあったのかな。
■トップになれなかった人たちの分まで
(中島アナ):4回目で合格された時の気持ちは覚えていらっしゃいますか
とにかく本当にうれしくて仕方がなかったですね。音楽学校の発表時に、私が自分の名前を見つけるより先に父親が見つけたんです。父親が先に行っていて、私を門の前で待っていた。「受かった」って父親が先に見て喜んでいたという思い出がありますね。
受験生の名前が貼られる時に、テレビ局のカメラが回っているところで、受験生がわーっとなっている時に、父親が一人で手を高々と上げて拍手をしている姿がいろいろな局のニュースになりました。私よりも父親が喜んでくれていたなという印象ですね。自分自身もやり遂げたし、応援してくれている家族のためにも(宝塚に)入れてよかったと思えた瞬間でした。
(中島アナ):安蘭さんがその後トップに就任するときの言葉はとても印象的です。「夢とは見るものではなく叶えるものです。でも、たとえ叶えられなくても、叶えるために努力する道のりが私は夢だと思っています」。この言葉を話したときのことを覚えていますか。
前日、お風呂に入りながらどんなあいさつしようかと思って考えていたら、ぱっと言葉が降りてきたんです。宝塚受かった時も、一緒に受けて受かっていない友達たちの思いをずっと考えていました。今まで自分も夢を叶えるためにやっていたけど、彼女たちのためにも頑張らなきゃいけないなと思った。トップになった時もトップになれなかった人たちの分まで。私は叶ったけれども、叶わなかったことが悪いことではない。夢ってそんなものじゃないなと思ったんです。そんな思いがこの言葉になりました。
■見た目よりも「人間が大きく」見えるように
(安藤アナ):安蘭さんのトップスターとしての代表作『スカーレット・ピンパーネル』は菊田一夫演劇賞の演劇大賞を受賞。『王家に捧ぐ歌』では現役のタカラジェンヌとして初めて松尾芸能賞新人賞も受賞されました。宝塚の枠にとどまらず活躍されています。男役としてのポリシーやモットーを教えてください。
私は身長がそんなに高くなくて、下級生の頃は男役で背の高い方と並ぶと舞台映えもしない。全然だめだなと引け目を感じて、頑張って大きく見えるように高めのヒールを履いて踊っていたんです。けれど、このヒールで踊れる踊りが踊れなくなる。逆にどんどん小さくなってしまったんです。やはり自分が不安定になるとそのぶん動きが(制限される)。
上がる足も上がらなくなったりターンができなくなったり。これは本末転倒だなと。見た目じゃなく、もっと大きく見える男役として、堂々とできることがあるのではないかと思いました。男役は娘役を包みこむ優しい包容力、それが大切じゃないか。見た目じゃなくて、人間が大きく見えるもの。私はそれを大切にしていました。
(中編に続く)
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回は元月組トップスターの珠城りょうさんです。