真飛聖、宝塚退団後に「34歳・無名の新人」から映像の世界へ……「元宝塚」が後付けになるのが目標
■「うそでしょ」驚いた組替え
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『組替え』(アプレジェンヌ辞典)
いわゆる人事異動。宝塚には花・月・雪・星・宙組があり、基本は所属する組で公演を行うが、所属している組から別の組に籍が変わることがある。慣れ親しんだメンバーと離れ、別の組に行くことはファンにとっても驚きと寂しさを伴うが、組に新しい風をもたらし、新天地で活躍する姿を見ると、さらに応援したくなる。
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「10年目で組替えをしました。その10年間にいろいろな組から先輩がいらして楽しかったんです。新しい風が吹いて、違う『男役像』が見られる。『こういう感じも格好いい』なと。お友達も増えるし、嬉しいなと思っていたんですけど、いざ自分が言われたら『えっ?うそでしょ?』と笑ってしまったぐらい。自分が出ていくとは思ってなかったので、びっくりしました」
「ただ、星組ではみんなで仲良く笑って楽しくやっていたので、心地良いんだけど、ちょっと男役像として自分は中途半端だなと思っていたんでしょうね。そんな時に話をいただいて、きっと神様から自立して男役をいろんな角度から見て学びなさいということなのだと思いました」
■エマ・エージェンシーは選ばれし団体
(安藤アナ):5つの組はカラーがそれぞれ違います。私の妻が91期で、同期の星組の組子さんに話を聞くと、真飛さんは公演後の余興も楽しいし、面白い人という(評判)。星組のエネルギッシュなところがあったわけなんですね。
「私、余興やったことないんです」
(安藤アナ):ツッコミ待ちの顔をしていますね(笑)
「もう楽しくてね(笑)。余興の練習を朝からやったりしていましたね」
(安藤アナ):特に星組は英真なおきさん率いる「エマ・エージェンシー」もあります。余興に力を入れる組だとか。
「よくご存じですね。有名なんですか? エマ・エージェンシーは選ばれし団体で、私は選ばれていないんです。だから単独、一匹狼で余興をやっていました。ちょっと中身は言えないですけれども、『すみれコード』がありますから」
■自分が殻を破ったことで、みんなが歩み寄ってくれた
(安藤アナ):エネルギッシュな星組から花組という伝統的な組に移られて、感じたことはありましたか。
「星組はヒマワリのような明るいイメージ。私が花組に行く時には、春野寿美礼さんがトップでいらした。孤高のトップ、そして深紅のバラのような、そしてガラス細工のようなすごく繊細な部分もお持ちで、華奢なのに力強い。そこが春野さんの魅力です。ただあまり元気におしゃべりをされる方ではなくて、背中を見てみんながついていくという感じで、ちょっと星組とはイメージがちょっと違っていたかもしれません」
「(星組では)朝澄けいさんが『白』で私が『黒』というツインズのような役をやらせてもらっていた時期が多く、私は『感情を出す』ような濃い役をやらせてもらっていました。花組は白い手袋を“ポン”っと置いて『貴族』という感じ。そこが戸惑いましたね。キョロキョロしていました」
「だけど花組の子からすれば、私はそういうことをやってきた人だと思っていた。銀橋で一人で歌ったこともなかったんです。で、花組に入った時にすぐそのシーンがあった。わからなくて(銀橋を)歩けないんですよね。『どうやって歩くの?』と。途中で止まったり振り向いたり、全然できなくて、私が戸惑っていたら『ゆうさんやったことないの?』と、みんなに教えてもらったり」
「みんなに注目されていろんなことをできる人と思われていたことが、自分の中ではプレッシャーで。全然できないし経験ないのに、という葛藤は2年間ぐらいありました。でも春野さんのまねはできないし、なぞっても全く意味がないし、なれるわけもない」
「自分の『色』としては、静かにしていることが良いわけじゃない。恥ずかしい、できないところもみんなに見せていこうと。『上級生だからできるよ』ではなくて『ここできない、教えて、わからない』と自分から出していくことで『ゆうさん、そういう感じか』とみんなが教えてくれる。何か自分が殻を破ったことで、みんながすごく歩み寄ってくれた。本当に2年間の時間というのはありがたかったですね」
■「元宝塚」の肩書きはいらない
(安藤アナ):組替えから紆余曲折、さまざまな経験もされた真飛さんですが、今や数々の映像作品に出演されています。これまで舞台で表現されてきた中で、テレビの世界で、というのはどんな思いからですか。
「私、宝塚という舞台が好きだったんですよ。『舞台が好き』ではなくて宝塚歌劇団の舞台が好きだった。卒業を考えた時に、宝塚じゃない舞台に立ち続けることってできるのかと。日々、舞台に立つことはメンタル、メンテナンスなどとても大変だから、もう一度腹をくくってできるのだろうかと自問自答した時に『違うかもしれない』と」
「宝塚時代に大好きだったのはテレビなんです。テレビを見てリラックスしたり、笑ったり。ドラマやバラエティーが大好きでずっとテレビっ子だった。だったら、自分が大好きなテレビの中で、心が動くことを自分ができるのなら、映像の世界に挑戦したいと思いました」
「そのころは34歳。宝塚を好きな方は知っていても、映像の世界だと無名になる。無名の34歳新人でどうかと思いました。でも、今までは80人という組子がいたから逃げ出せなかったけれど、もし映像の世界で真飛聖という一人の人間として戦うんだったら、向いてなかったりできなくなったりしたら、それはそれで自分が考えればいい。好きなこと、やってみたいことに挑戦してみるのはいいのではと思ったのがきっかけです」
(安藤アナ):退団されて11年経って、『女優』の真飛聖さんとしてごらんになっている方も多いと思います。
「もちろん私にとっては財産だし、宝物なんですが、映像の世界で役者として生きていく上で『元宝塚』というのは、私の中ではいらなくて。いち役者として、心を動かして演じていくわけで、後付けでそうなっていくのが目標なんです。大好きな宝塚の世界をまだ見たことがない方にも知っていただくためには、例えば検索して『この人宝塚なんだ。見てみよう』というように宝塚にどんどん伝染していったらいいなと思います。興味があるけど見ていない方も多いと思うので、そういう方にも『いやいや、こんなのもいるよ』と(自分をきっかけに)見てほしいという思いがとてもあります」
■「やるからにはやる」コンサート
(安藤アナ):そして、この後には瀬戸かずやさんのコンサートに出演されるそうですね。瀬戸さんからのメッセージがあります。
瀬戸かずやさん
「(真飛さんの魅力について)深く濃い何か粘り気のある色気。何かそんな色気をすごく感じていたので、宝塚を卒業されてまた男役とは違う女優さんとして多方面でご活躍されている本当に素敵な憧れの女性だなとずっと思っていました。私も宝塚を飛び出して卒業して一歩、これから新しい自分になっていくという時に何か真飛さんと一緒に何かできたら面白いんじゃないかなと思いました。(コンサートでの共演を)引き受けてくださったというその気持ちが何より嬉しいですし、もうこうなったらもうやるしかないですね」
(中島アナ):「やるしかない」ということです。コンサート楽しみですね。
「私、コンサートやったことがないので。やめてからディナーショーも含めライブもやったことが本当にない。まずお話が来た時に嬉しいけど『いいの?』と。歌っていないし、声帯も間に合わないかもしれない。そう思ったんですが、声をかけていただくのはすごく嬉しい。だったらやるからにはやりますよ。選曲は決まっています」
「(昔の男役とは)見た目がこうなっているので変えられないんですけど、ギャップを楽しんでもらおうと思って、歌ったら格好良くなれるかなと自分の中では想像しています。お客様が見て『うわっ』となる選曲になっていますよ」
(安藤アナ):在団中から退団後のチャレンジまでお話をうかがいました。最後にこちらの質問にお答えいただきたいと思います。宝塚で学んだことで一番生きていることは何ですか。
「『相手をきちんと心で感じる』です。ちゃんと目を見て心で感じる。目を見てしゃべるとうそがないじゃないですか。お互いに感じるし、それは絶対大切だと思います」
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『アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タ カラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。次回は元雪組スターの彩凪翔さんです。