劇団『ヨーロッパ企画』が2分間のタイムループ映画を制作 脚本家・上田誠が“時間もの”にこだわるワケ
■オリジナル長編映画第2弾は、冬の貴船で“タイムループ”
映画『リバー、流れないでよ』(6月23日公開)は、京の奥座敷と呼ばれる貴船の老舗料理旅館「ふじや」を舞台に、繰り返す2分間のタイムループから抜け出せなくなってしまった人々の混乱を描く群像劇です。ヨーロッパ企画の劇団員以外にも、ゲスト俳優として本上まなみさん(48)や、近藤芳正さん(61)らが出演しています。
■時間をテーマにした映画にこだわる理由
ヨーロッパ企画制作の映画は今回が2作目で、2020年6月に公開されたオリジナル長編映画の第1弾『ドロステのはてで僕ら』では、2分後の世界とつながるテレビの存在にほんろうされる人々を描き、世界27か国53の映画祭で上映され、23の賞を受賞しています。上田さんは、映画や舞台で数多くの“時間”をテーマにしたSF作品を手がけています。
――前作でも“時間”にまつわる映画の脚本を手がけ、今作は2分間のタイムループの脚本。こうした時間ものの映画を撮る理由はなんですか?
上田:(ヨーロッパ企画には)元々『サマータイムマシン・ブルース』というタイムマシーンものの舞台がありまして、それが2005年に映画化されたということがあり、それが僕だったり、ヨーロッパ企画の映画のキャリアが始まっているので、タイムトラベルものとか、時間の仕掛けがあるものが、自分たちのルーツにあるなという風に思っていて、時間映画を撮り続けていきたいなというのはすごく思っていて。
で、今回は貴船を舞台にするとなった時に、京の奥座敷といわれる神社があって、料理旅館が並んでいて、川が流れていてっていう、すごく箱庭感があるすてきな場所なので、その空間を最大限にいかすにはと思って、その空間を2分というループの中に閉じ込めてしまって、その中で人々がどう営むかっていうような物語を作ろうっていうのが発端でした。
■タイムループ映画撮影の苦労 「そもそも過酷ベース」
――撮影現場の雰囲気はどうでしたか?
上田:みんなで力を合わせないと乗り越えられなかったし、忘れかけているんですけど、デフォルト“すごい寒い”とか、デフォルト“朝3時集合”だとか、そもそもが過酷ベースなので。そこに予期せぬ天候のハプニングだったりとかいろんなことが起こるので、空気悪くて乗り越えられるものでもないというか。
藤谷:ゲストの俳優陣、ヨーロッパ企画の役者以外で出てくださっている方々が、すごいニコニコしてくださっていて、それはすごいなと。ありがたかったです。
諏訪:むしろヨーロッパ企画の劇団員が、朝の車の中で「(集合が朝)3時の必要ある?」っていうのを毎朝会話して。「え、コンビニ行く時間はあるよな?」とか。入り時間に関してはみんな「ん?」ってなってました(笑)
――なぜ早朝の集合に?
上田:メイクをして、リハーサルをやって、そこで日が昇って、日が昇ったらすぐ撮影を始めないと日照時間が短いんで、昼のうちに撮れないんですよ。タイムループの映画で、同じ時間をぐるぐる回るので、夜になると撮影出来ないっていう制約があって、日が昇るまでに全ての準備をしなきゃいけなくて、だから早い人は準備させられて待機とかね。
藤谷:その日撮る全部のシーンのリハを夜明け前にやっちゃうので、その日ワンシーンしか出てない人もとりあえず、日の出の前に入って、それを待つみたいなのがざらにあったので、それは大変だったと思いますけど。
上田:朝9時くらいには腹ぺこになるんですよね、みんな。
■過酷な撮影現場 諏訪「ぼたん鍋をいただくんですけど…」
――撮影中で苦労したことや、“こうしてほしかったな”というシーンはありますか?
上田:普通ならカット割りして、落ち着いてその気持ちを追っていってとか、演技の組み立てっていうのがあるんですけど、それ以前に2分間のループの中に、演技を収めないといけないとか、川を渡らなきゃいけないとか、冬山で車を運転して麓まで行くのをワンカットでやらなきゃいけないとか、そういうことの連続で。毎回平均10テイクくらい重ねてやっと尺に収まってOKが出るみたいなことの繰り返しだったんで、役作りとは別の大変さもきっとみんなあったとは思いますね。
諏訪:(映画の中で)ぼたん鍋をいただくんですけど、ほぼ0秒くらいのしゃぶしゃぶで食べるっていう。それはもう尺の都合で、サッ、サッ、サッみたいな。さすがにもうちょっとしゃぶしゃぶした方がいいんじゃないかなと。
藤谷:確かに諏訪さん0秒で食べてましたね(笑)
■3人が選ぶ共通のお気に入りシーンは“車の周”
――映画でのお気に入りのシーン、見どころはどこですか?
藤谷:雪の中で逃避行してるシーンの中で、おかみさんと番頭さんをかわして車に乗るみたいなシーンがあって。そこのおかみさんと番頭さんがザルというか。うんうんってミコトの話を聞いていて、この2人、ひいては(旅館の)ふじやさんの中にいる人たちの人柄を表してる感じがして。ミコトにうそをつかれて、雪の中に“うわー”とか倒れる、かわいらしさも含めていとしいなと思って、すごくそこが好きです。
諏訪:(僕も)まさに同じところで、貴船を脱出するんだって車に乗る、その乗った後の“ワイパーの雪のどけ方”が、見たことないというか。あそこのリアルさがすごかったというか。長回し2分をやっているからこそのリアル感が出たんだなと思って。雪が降って貴船の街がすごくかわいらしくなるんですよ、急に。こんな風景にもなるんだと思って、車に乗ったら“ガッサー”っていうのがすごく面白くて。これって一発じゃないと出来ないよなとか。そこがうそついてないのがすごく良かったですね。
上田:今の2人のお話を絡めてなんですけど、この映画の始まりが、貴船神社のてっぺんから始まって、序盤でいろんな人々の風景を描写していきながら、ミコトの中で一番気持ちが沈んだところと、それが川沿いに行くというような高低差とリンクするような進行なんですね。
最終的に物語としては高揚感のある方に戻っていくんですけど、その中で、貴船を下りようとするところが本当に真逆の方向というか。この時間をみんなでもう一度元に戻そうっていう方向とは真逆の逃走劇みたいなシーンで。これが山を登っていく感じだったら全然違うイメージだと思うんですけど、どこまで下れるか自分たちみたいな。あの感覚は僕はすごく好きな場面ですね。なので、3人共通する、何十周あるループの中で“車の周”があるんですけど、そこは見どころですね。