【特集】防潮堤に<壁画>描くプロジェクト 5作品目となる新作は地域で600年以上受け継がれる”伝統の神楽”(宮城・石巻市雄勝町)
地域が賑わうきっかけになればと、宮城・石巻市雄勝町で行われているのが防潮堤に「壁画」を描くプロジェクト。
スタートから数えて5作品目となる今回、新たに描かれたのはこの地域で600年以上受け継がれている伝統の神楽だ。
ことし9月、石巻市で開かれていたのは、地域ごとに伝わる伝統的な神楽を披露する大会。
そこに、カメラを構えて舞台を見つめる1人の男性の姿があった。
芸術家の安井鷹之介さん(31)。
安井鷹之介さん(31)
「9月から壁画を描くんですけど、 その壁画のモチーフに今回雄勝の法印神楽を描かせてもらおうと思ってまして、その勉強にきました」
震災後、津波からの被害を防ぐために建設された高さ最大9.7メートルの巨大な防潮堤。
海と町を隔てるような高い壁をキャンバスにして、震災で変わってしまった地域に、新たな賑わいを生み出そうと始まったのが、壁画プロジェクトだ。
雄勝の海岸線が織りなす風景や、毎朝 海に向かう漁師の姿。
そして、浜で受け継がれてきた伝統の祭りなど、安井さんはおととしから防潮堤に「壁画」を描いてきた。
今年、新たに描く壁画のテーマは「雄勝法印神楽」。
600年以上前から守り伝えられてきた伝統の神楽は、国の重要無形民俗文化財にも指定されている。
震災の津波で大きな被害があった雄勝町。
衣装や舞台は、一度津波に流されてしまったが、今も保存会のメンバーによって大切に受け継がれている。
地域で愛される神楽を未来に残す壁画にー。
きっかけとなったのは、住民からのアイデアだった。
安井鷹之介さん
「去年名振でおめつきを描いた時に、うちの浜に神楽書いてよ!みたいな声が出てきて、そこから発案しました」
プロジェクトが始まって3年、描かれてきたいくつもの壁画は雄勝の新たな「復興のシンボル」になりつつある。
先月、新たな壁画をお披露目する祭りが開かれた。
描かれたのは「岩戸開」。
雄勝法印神楽の中でも特に大切にされている演目「岩戸開」の1シーンだ。
そして、この日完成したばかりの壁画の前で、保存会が神楽を奉納した。
震災で多くを失ったこの町に、また1つ新たな拠り所が生まれた。
雄勝町出身の人
「(石巻)市内に住んでいると、(雄勝に)来る機会ってなかったんだけど、今日は(神楽が)あるって聞いてたんでわざわざ来ました。ここ来るたびに(壁画)見てたのね。すごいねって。感謝だね、雄勝に来る楽しみが増えました」
東松島の夫婦
「素晴らしいですね、どちらも芸術ですね、壁画も神楽も」
安井鷹之介さん
「すごい不思議ですね。僕描かせてもらっただけなんですけど、描いたことによって壁画の前で (神楽)やろうと言い出してくださった方がいて、こうして実現にまでみなさんの努力でこぎつけたので、楽しい空間を作ろうと町で頑張ってるんでその一助になればと」
地域の伝統をまとった防潮堤は、この町の新たなシンボルになろうとしている。