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日銀のマイナス金利政策解除 17年ぶりの利上げを専門家はこう見る

2024年3月19日 22:34
日銀のマイナス金利政策解除 17年ぶりの利上げを専門家はこう見る

19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除し、17年ぶりの利上げを決めるなど、大規模金融緩和策の大きな修正に踏み切った日本銀行。今回の日銀の政策決定への評価を経済の専門家に聞いた。

■景気回復の実感には、もう2年ほど賃上げ機運の継続が必要(第一生命経済研究所 藤代宏一氏)

――今回日銀は利上げに踏み切ったが、利上げ幅でいえば0.1%程度だった。

「今の日本経済はほとんどゼロ成長の状態なので、0.1%程度の利上げ幅が慎重すぎるということはない。また今回、追加利上げの方針を示さなかったことも妥当だと思う」

――日銀は賃金と物価の好循環が確認できたとしているが、国民は日々の生活で景気回復の実感を持てない状況が続いている。

「今年の焦点は中小企業の賃上げだが、統計で確認できるようになるには夏くらいまで見る必要がある。賃上げも2年(連続の高い賃上げ率)では『一時的だ』と判断する人が多いだろう。あと2年くらい、賃金が当たり前に上がるという環境になることが必要だ」

――次の利上げの見通しについてはどう見ているか

「毎月勤労統計などでの賃金の数値がはっきりと上振れていけばということだと思う。3%近い賃金上昇率が示されれば、追加的な利上げがあり得る。9月・10月頃に動くかどうかという形ではないか」

――日銀が利上げを決定しても、円相場では円安が進んだ

「日銀は利上げしたと言っても0.1%程度なので、日銀の利上げによって円高になるというのはそもそも無理があるかと思う。植田総裁の会見でも、次の利上げの話は出てこなかったし、今週はアメリカでも連邦準備理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。アメリカの利下げ開始時期が遅れそうということになっているので、日米の金融政策の方向感をみれば、円安に進む方が定型的なパターンだったのかなと思う」

■日銀の政策修正には見切り発車的な側面も(野村総合研究所 木内登英氏)

――日銀の政策修正と植田総裁の会見をどうみたか

「植田総裁は会見で『普通の金融政策を行っていく』と述べたが、(マイナス金利などの)いわゆる非伝統的な政策、この10年で試した政策を整理していくということに大きな狙いがあったのではないか。2%物価目標を達成して、その上で政策を修正するというより、この10年の異例の政策は副作用も大きいし、見直したいという中、そのきっかけが物価上昇と賃金の上昇で与えられたということだと思う。

また、植田総裁は会見で『予想物価上昇率の観点では、まだ2%には距離がある』と発言した。予想物価上昇率は物価の先行指標だが、それが2%に達していないのに、2%の物価目標の実現が見通せたというのはおかしい感じがする。2%物価目標の達成にはあまり自信を持っていないが、若干見切り発車で政策修正を行ったというニュアンスがあったと思う」

――国民は日々の生活で景気回復の実感を持てない状況が続いているが、経済は回復しているのか

「国内の春闘の(回答の一次集計の)結果をうけて、実質賃金が年末までにプラスになる可能性が出てきた。ただ、そもそも過去1年半以上、実質賃金は下がっているので、その分を取り戻すには相当時間がかかる。

また、現在個人消費が弱いのは、実質賃金がマイナスだからと言われるが、実質賃金がプラスになれば消費が強くなるかというと、そこにもリスクがある。国民に、物価高騰がずっと続くという期待が根付いているからだ。世界の物価が高騰する中、多くの国の中央銀行は、金利を上げて金融引き締めを行い、物価の安定を確保する姿勢を示したが、日銀はその姿勢を示さなかったことで、個人のインフレ期待が上振れてしまった。本来ならもっと早く、2年前くらいに政策修正すべきだった」

――日銀が利上げを決定しても、円相場では円安が進んだ

「日銀が今後、金利をもっと早く上げていくのでは、という見方が出てくると、円高が進みやすい。緩やかに円高が進むのなら良いが、急速な円高は株安を伴うし、生活にとってもマイナスだ」