【解説】17年ぶりの利上げ!マイナス金利解除で、暮らしへの影響は?今後の金融政策は?
■総裁会見のポイント
――金融政策決定会合は、植田総裁の記者会見が終わりました。どんな内容でしたか?
今回は大きな政策変更、マイナス金利の解除は金融の正常化への第一歩ということで、転換点です。それで、記者たちからは総裁の個人的な感想や達成感を求めるような質問も何回も出たんですけれども、総裁は冷静に答えていました。いずれにしろですね今回は日本の金融政策にとって“大きな日”になりました。こちら会見のポイントです。
まず政策の変更、マイナス金利を解除しました。日本にとって17年ぶりの利上げになります。長短金利操作=YCC(イールドカーブコントロール)の枠組みを撤廃します。今後の金融調節は短期金利で調節すると明確に言いました。つまり、ここまで大規模な金融緩和が行われてきたわけですけれども、総裁の口から「異次元は必要がない」という言葉が出ました。
長期国債に関しては買い入れを継続します。当面は緩和的な環境を維持するということです。そうは言っても、今回政策を変更したのは、2%の物価目標の実現が見通せるようになったからです。今までの他の国であまりやってない金融調節から「普通の金融調節」に戻るということを明確に話しました。その判断のポイントについても質問が出たのですが、賃上げ、春闘の結果が良かったことは、はっきりポイントだと話しました。まだ全部が出ているわけではありませんし、これから出てくるデータは弱い可能性もありますが、ヒアリングなどを通して中小企業の賃上げに関しても「ある程度の姿が見込める」と総裁が話しました。
会見では、今後の利上げについて様々な形で質問がありましたが、不安要素は消費です。個人消費はまだそんなに強くはない、総裁も「消費に若干の弱さがある」と話しました。それでも今回政策変更したのは、今後「持ち直しをすると予想している」ということです。
今回の政策変更は、事前の報道や私たちの取材と一致していて、会見は穏やかな状況でした。驚きはなく。総裁にはこれまでの金融緩和はどうだったのかという質問も出たんですが、これまでの評価は「今やっているレビューで」とかわしていました。トータルとして大きな決断をしたのですが、それについて力強く何かを言うというより、穏やかに落ち着いた記者会見が行われたという印象です。
――この政策変更をうけて、市場はどうなりましたか?
私たちは普段、金利を上げると円高になるという話をしていて、今回もし何もしなかったら円安が加速するのではないかと注目していたのですが、今は18日より1円以上円安の方向に進んで、これは事前の予想も広く行き渡る中で、長期国債の買い入れに関しての文言が比較的慎重だったことが影響してるのではないかと思います。金融緩和をしっかり続けるというところに、予想より緩和的だと反応した可能性があります。
また、3月末は期末で、ドルが必要な企業もたくさんありますので、19日のような大きなイベントをちょっと待っていたかもしれない、イベントが終わってドルを買いに来たという可能性があります。
――実に17年ぶりの利上げですが、今回の政策変更はどういう意味合いがありますか?
マイナス金利は日本だけになっていたのですが、これはお金を預ける方がお金を払うという普通に考えても「特殊な金融緩和」でした。これが今回の決定で「普通の金融緩和」に変わります。大規模な緩和を続けるために、いろいろやって複雑になっていたのを、もうやめてシンプルな金融政策にします。
マイナス金利は解除、長短金利操作は撤廃し、大規模な資産の買い入れに関しては、ETF(上場投資信託)と不動産投資信託の買い入れは、はっきりやめます。国債の買い入れは継続して買うとは言っているんですけれども、方向性としては縮小すると会見で話しました。その結果、金融政策はシンプルに短期金利に一本化していくという大きな変化です。
■私たちの生活への影響
――やはりまず1番気になるのは私たちの生活や、企業等への影響ですが、住宅ローン等はどうなっていくんですか?
はい、気になる住宅ローンは、今回のマイナス金利の解除だけでは影響はあまり出ないとみられます。ただ、変動金利は金融機関の判断次第となります。大事なのは、この先どうなるかです。今までの「金利がない世界」から「金利がある世界」に変わるので、特にこの先ローンを組む人は、よく考える必要があります。
預金は、いきなりすごい金利がつくようになるわけではないんですが、今、記者会見見てる最中にも、メガバンクが預金の金利を引き上げるという話が入ってきました。金利引き上げの方向がはっきりしたので、金融機関はキャンペーンなどもしていて、上げる方向にはなると思います。
これから「金利のある世界」の中で、自分の資産をどうするか、考える局面にきました。この先、金利をどんどん上げるかどうか、そのペースが大事になってきます。それによっては生活に影響がでてきます。
――金利がどんどん上がる場合、メリット・デメリットはどんなところですか?
まず、メリットは預金などに金利がついてきます。19日は円安になってしまったんですが、利上げで円安が収まれば、輸入物価などから物価高が抑制されます。デメリットは、住宅ローンや企業の借り入れの金利があがり、苦しくなります。企業の淘汰もあるのは当然ということもできます。それから、円高になれば、ですが、輸出企業には悪い影響もでてきそうです。
――やはり大きな政策変更なのですが、この3月に踏み切った理由は何でしょうか?
まず、物価と賃金の好循環について、総裁はずっとポイントだと話してきました。連合が先週発表した、春闘の第一次集計は、平均賃上げ率が33年ぶりの高水準でした。これは政策転換に多くの人が納得できる材料になったとみられます。
それから、日経平均株価が最高値をずっと更新してきて、4万円に乗せています。3月に政策変更するリスクは、決算の時に株価が下がると企業決算が悪くなってしまうということですが、この株価で不安は減りました。
さらに世界経済ですが、アメリカなど景気はソフトランディングの可能性が高まってきました。こうした条件が日銀の背中を押しました。
前回1月の会合のとき、政策変更は3月か4月とみられていました。その段階では4月とみる人もおおかったですが、私たちの取材で、日銀は条件次第で、3月変更に前向きだと、前回の解説でもお伝えしました。そして、解除の条件が3月に整ったということです。
――4月の解除でなかったのは、どういう理由ですか?
ひとつは、個人消費が弱いことで、景気の先行きに不透明感があります。また賃金の水準ですが、先ほど総裁は「ある程度の姿になる」と予測を話したんですが、実際に出てみないとわからないところがあります。それから政治の状況。これは日本では4月の政策決定会合直後に補欠選挙があります。またアメリカの大統領選挙も近づいて、世界の状況に不安定な要素がある。
それより、3月に相当条件が整っているので、政策変更するという判断になったのだと思います。
――今後、金利はどんどん上がっていくと考えた方がいいでしょうか?
大きく、どんどん上げていくという事は考えにくいというのが共通の認識です。アメリカなどのような2%、3%という利上げはないと思います。ただ、今、日本は、実質ゼロ金利あるいは、わずかにプラスになったくらいなんです。これをどうするかは、市場の見方と日銀の関係者の考えとには、少しギャップがあるのではないかと思っています。
というのは、今の金利は名目ではプラスになっても、物価があがっていますので、実質ではまだ大きくマイナス。この後名目の金利を0.25%や0.5%に上げたとしても実質金利はマイナスで緩和的な状況と言えます。ぜロ金利状態をずっと続けるという観測もあるかも知れませんが、意外と早めに少しは上げていく可能性があります。そうすると気になっている住宅ローンの変動金利も変わってくる可能性はあります。
ただそうは言っても、日本は金利0.5%超えていた状況というのは、実は金利を「公定歩合」というもので見ていた20年近く前です。0.5%超えは長く経験していないので、0.5%を超えた場合にどういうことになるか、これはだいぶ慎重な大きな判断になるのではないかと思われます。
――19日の決定会合では17年ぶりの利上げということで、日銀の大きな決断だったと思うんですけども、この先どんな影響が出てくるのかですね?
19日は大きな転換点ですので、私たちももう一度金融を勉強し直す必要があるかもしれません。次の4月26日の政策決定会合では、日銀が今後の見通しを示す展望リポートも出ますので、こちらも注目していきます。