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性被害や命の危険も…トイレ問題解決のため日本企業がビル・ゲイツと“タッグ”

2024年5月14日 17:14
性被害や命の危険も…トイレ問題解決のため日本企業がビル・ゲイツと“タッグ”
リインベンテッドトイレ

「リインベンテッド(=発明しなおされた)トイレ」。日本の住宅設備メーカー「LIXIL」が、水道も下水道も必要ない家庭用水洗トイレの製品化に取り組んでいる。

トイレ自体はごく普通の洋式便器だが、背中側に洋服簞笥(だんす)ほどの大きさの箱形の機械が付いている。中には何本ものチューブ、脱水タンク、ベルトコンベヤー…。この機械で、排泄(せつ)物を“飲めるレベル”の「水」と、堆肥にも利用可能な乾燥した「固形物」に浄化できるという。

必要なのは最初に投入するコップ1杯の水と、機械を動かすための電源のみ。水道や下水道につなげる必要はなく、発展途上国などインフラが脆弱(ぜいじゃく)な環境でも自立して設置が可能だ。

■命の危険や男女格差拡大も

世界には、安全に管理されたトイレを使えない人が34億人いるという。このうち4億1900万人は家や近所にトイレがなく、道端や草むらなど、屋外で用を足している。(2022年、ユニセフ調べ)

屋外での排泄などで排泄物が適切に処理されない地域では、排泄物が生活用水に混じり、下痢などで命を落とす子供が後を絶たない。また、ユニセフなどの現地調査によると、女性にとってはさらに苛酷で、人目を避けるため、暗くなるまで排泄を我慢し、かつ、日中に尿意や便意を催さないよう、水分や食事を控えるという。

ようやく夜になって人気のない草むらへ向かうと、性暴力に遭ったり、野生動物に襲われたりすることも。思春期の女子は、学校に安全なトイレがないことなどで通学できず、教育機会を奪われてしまう。結果として、男女格差は広がったままだ。

国連はSDGsの目標6に「2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女児、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を払う」と掲げている。しかし、上下水道の整備には膨大な費用と時間がかかるため、発展途上国に先進国と同様のトイレを短期間に普及させることは現実的ではない。

「リインベンテッドトイレ」は、こうした発展途上国のトイレ問題の解決が期待されている。

■名付け親はビル・ゲイツ氏

この「リインベンテッドトイレ」という呼称、命名したのはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏だ。

ゲイツ氏は世界のトイレ問題を解決するため、2011年に「リインベンテッドトイレチャレンジ」というプロジェクトを打ち出し、自身の財団「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」から世界中の研究者や衛生機器メーカーなどに資金を提供している。2018年に中国・北京で行われたトイレの未来に関する博覧会では、聴衆の前で排泄物を浄化してできた水を飲み干してみせ、プロジェクトへの熱意をアピールした。

■カギは「ビジネス」

LIXILは、このプロジェクトの一環として、アメリカのジョージア工科大学とともに、前述の「リインベンテッドトイレ」の開発に取り組んできた。すでに技術的な部分は確立していて、南アフリカとインドの一般家庭での実証実験を終え、量産化に向けたプロセスを進めている。

量産化に向けた最大のネックはコスト。現状では1台組み立てるのに数百万円かかる。発展途上国でビジネスベースにのせ、普及させるには10分の1程度までコストを圧縮する必要がある。

量産化でビジネスベースにのせる、これがプロジェクトのキモなのだと、担当者は言う。

LIXILは「リインベンテッドトイレ」よりも前、2012年に簡易で安価なプラスチック製のトイレ「SATO(=Safe Toilet)」を開発。排泄物をためる穴の上に取り付けるだけの手軽さで、穴に通じる部分には「ししおどし」のように排泄物の重さで開閉するフタが付いている。感染症の原因となる虫の侵入や臭いを防げる仕組みだ。これまでにアフリカや南アジア、中南米などの45か国以上に約750万台を提供している。

1台わずか数ドルのSATOだが、LIXILは寄付やボランティアではなく、「ビジネス」として事業を続けている。トイレの環境改善を持続可能なものにするには、ビジネスベースでの支援が必要だとの信念からだ。

寄付では資金に限りがあり、ボランティアもその後の管理までは行き届かない。壊れたり詰まったりしたら放置され、結局もとの屋外排泄に逆戻りしてしまうこともあるのだという。

ビジネスとして成立させるためには、まず、現地の人たちに衛生的なトイレの必要性を理解してもらうことから始まる。地域によっては家の中や周りにトイレを作ることに抵抗感を持つ人たちもいるので、一筋縄ではいかない。根気強い説得が必要だ。

次に生産・販売体制。現地のメーカーに製造技術を教え、職人を育てる。販売店を探し、施工や管理方法を伝える。こうして現地に市場と雇用を生み出し、自分たちのお金でSATOを買ってもらう。

「リインベンテッドトイレ」のプロジェクトでも、同じようなビジネスの仕組みを生み出すことに意義がある、と考えている。

トイレが安全で衛生的になるだけで、子供の病気が減り、女の子が学校に通え、大人には雇用が生まれる――。人は一生で20万回、トイレに行くという。トイレ問題は人類共通の大きな課題だ。

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