訴訟から医療の現場まで…AIで変えた男3
株式会社FRONTEO・守本正宏社長に聞く「飛躍のアルゴリズム」。3つ目のキーワードは「“飲みに行こう”は怪しいサイン?人間の『勘』を学ぶ人工知能とは」。人工知能はどこまで“人間らしさ”に近づいているのだろうか。
■「単語」でなく「感覚」で見抜く
――人工知能による仕分け作業中で、最も難しいと言われているのが微妙な言い回しの判断ということですよね。そこで、このメールをご覧いただけますでしょうか。一般的なメールに見えるんですが、実はカルテルの重要な証拠となるメールだったそうです。一部抜粋してみます。
|もし良ければ、今日にでも飲みに行きませんか?
|前回から時間もたっていますし、またお話できればと思います。
|いい個室の居酒屋を見つけたので、そこにしましょう
|○○さんも誘った方がいいですかね。
一見あやしくないんですけど。これはどういったことなんでしょうか。
あやしくなさそうなんですけど、訴訟の経験を持った人が見ると、例えばこの「前回から時間がたっている」とか、「個室」とか、そういう所が非常に大きなサインなんですね。ただ、気をつけなければならないのは、だからといって「時間」とか「個室」とかそういうものにこだわっちゃいけないんです。
全体として「あやしいな」と思う感覚を見つけることが重要なんです。必ずしもあやしいメールの中に、「時間」「個室」という言葉が入っていないかもしれないので、そのエキスパートの調査をする弁護士、あるいは捜査官の“感覚”を学んで選び出すということになります。
■“第六感”に近い判断力
――前後の文脈等も認識しているということですか。
文脈というかそれも含めて、何かこう“感じる”ものを人工知能は学ぶと。
――浮気を見抜く“第六感”みたいなことなんでしょうか。
まさに第六感に近いものです。それは経験に基づく専門家の判断なんです。これは、「学ばせる」と言っても、学ばせる人も「なぜか」っていう理由は、完全にわかっているわけじゃないんですが、いくつかの事例のメールを仕分けして、「あやしい」「あやしくない」というのを人工知能は見て、そして判断して学ぶと。その感覚だけを学んで、そして仕分けして、見つけていくと。
――勘が鋭い人の判断をお手本にして、人工知能はそれを勝手に「真似て、学んでいく」と。
「なぜか?」というのは人工知能には教える必要はないんですね。逆に教えちゃうと、それにこだわってしまうので。
■人間の経験や勘をどこまで再現できるか
――人間でしかわからないはずの部分というよりも、もう人間以上かもしれませんが、この人工知能にできるようになると言われると、人間の強い味方に今後なってくれそうですね。
そうですね。我々、まだ人間は、鋭い感覚を持っていますが、残念ながら疲れるとか、それこそビッグデータの時代に大量のデータを全部見られるかというと、やはりできないんですね。
――先ほどもおっしゃっていましたが、人間は精度も下がってくるのもありますよね。
そうです。疲れちゃうし、眠くなるし、機嫌が悪くなると、違う判断が出ることにもなりますので。
――人工知能のビジネスの分野では、キーワード検索みたいな形で統計処理をするということに関しては、ある程度の精度やスピードが出せるようになってきていると聞いています。一方で人間の経験に基づいた勘であるとか、判断基準というものをどこまで再現できるかというところにビジネスの軸が移ってきている感じがしますね。
はい、人工知能というのはまさにそこが要点になると思います。